第25話
「有馬記念:暴君と天才の共鳴」
中山競馬場、芝二千五百メートル。
年の瀬の冷気が、パドックに集まった怪物たちの排熱と混ざり合い、白く濃い霧を生んでいた。
ファンの視線は、二頭の「王」に二分されている。
菊花賞を狂気で制した黄金の暴君、亜紀子の『ゴールデンルナティック』。
そして、現代の「最適解」を体現する天城優作の『チャールストン』。
無駄を削ぎ落としたカーボンフレームが、冬の月光のように鈍く光っていた。
「池谷さん。あなたの競馬は熱すぎる。……これからの時代に必要なのは、世界を冷却するような、完璧な『理』だよ」
天城の声は、ノイズ一つないクリアな通信。
「理? そんなもん、アタシの火花で溶かしてやるよ、天才くん!」
亜紀子のルナティックが、威嚇するように黄金の火花を撒き散らす。
ゲートオープン。
先頭を固めるのは、財前のバハムートとジャミルのエクリプス。ジャパンカップの屈辱を晴らすべく、世紀末の覇王軍団が再び「鉄の壁」を築く。
岡部孝雄のラストエンペラーは、軽やかなテイオーステップを刻み、中団で「奇跡」のタイミングを伺う。
海老原のダークランサーは、中山のトリッキーなコーナーを影のようにすり抜け、虎視眈々と「深淵」を広げていた。
そして、麗のレイスター。
ジャパンカップの激闘で歪んだフレームを強引に矯正し、今、再び戦場に立っている。
「……見てなさい。あんたたちがどんな『理』を並べようと、全部ぶっ壊してやるから」
二周目の坂を越え、レースが動く。
天城のチャールストンが、外から一気に加速した。
それは加速というより、「空間の移動」。イクイノックスが見せた、他馬が止まって見えるほどの絶対的なスピードの差。
「――演算終了。ここが、僕の独走域だ」
チャールストンが先頭に並びかける、その刹那。
ガガガガガッ!!
大外から、物理法則を無視した「黄金の咆哮」が襲いかかった。
亜紀子のルナティックだ。オルフェーヴルの狂気を宿したその機体は、コースを斜めに横切るほどの荒々しさで、天城の「理」に体当たりするように迫る。
「あはははは! 天才くん、地獄へ付き合いなよッ!!」
暴君と、天才。
中山の短い直線で、黄金の火花と、青白い静寂の閃光が激突した。
二頭が競り合い、わずかにスピードを殺し合ったその瞬間――。
内から、泥にまみれた「漆黒の弾丸」が、覇王の壁を、帝王の奇跡を、老将の影を、まとめて突き破った。
「――そこを退きなさいッ!!」
麗のレイスター。
芝の適性? 距離の限界? そんなものは、すでに彼女の魂が焼き切っている。
残り百メートル。
黄金のゴールデンルナティック、青銀のチャールストン、漆黒のレイスター。
三つの時代、三つの信念が、中山の急坂を「絶叫」と共に駆け上がる!




