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からくり競馬2〜『変異する血統(ブラッド・リンク)』〜  作者: 水前寺鯉太郎
第1幕

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24/27

第24話

純白の翼、女帝の眼差


十二月の阪神競馬場。

 凍てつく冬空の下、パドックを彩るのは、次世代のエースを夢見る若き乙女とそのパートナーたちだ。

 

 中でも観客の視線を独占していたのは、佐藤茜が駆る『ホワイトソング』。

 全身を白一色の遮熱セラミックでコーティングされたその機体は、まるで雪の妖精が戦場に降り立ったかのような、異様なまでの「純白」を放っている。

「……綺麗。でも、競馬場に『綺麗』なんて言葉、一番似合わないわ」

 茜は、純白のグローブを嵌め直し、冷ややかに周囲を威圧する。そして、芝のみならずダートやミックスコースをも粉砕する、見た目からは想像もつかない「万能のパワー」を秘めていた。

 対するは、村上家の長男、義清。

 愛機『ノーブル・レジーナ』。

 姉・麗の「漆黒」が戦場の泥を吸い込むなら、彼の「真珠色」は戦場の熱を支配する。

「……姉さんは、限界を超えて勝った。なら僕は、限界の手前で、優雅に勝ってみせる」

 義清は、レジーナの首筋に触れ、その静かな鼓動を感じ取る。

 エアグルーヴの魂を宿すこの機体にとって、ここは通過点に過ぎない。

 ゲートオープン。

 先頭を奪ったのは、佐藤茜のホワイトソングだった。

 「白」が冬の西日に照らされ、後続のセンサーを狂わせる。ホワイトソングの放つ光学的なノイズは、単なる美しさではなく、相手を幻惑するための「武器」だ。

「――逃がさないわよ。私が、新しい時代の光なんだから!」

 茜のホワイトソングが、芝を力強く蹴り上げ、ハイペースでレースを牽引する。

 義清は三番手の内側。

 姉譲りの「進路読み」と、彼自身の「冷静な演算」が、ホワイトソングが撒き散らすノイズを完璧に処理していた。

「……光が強ければ、進むべき道はかえって明確になる」

 第四コーナー。

 ホワイトソングがさらにギアを上げる。

 多くの馬たちがそのスピードとプレッシャーに沈んでいく中、ノーブル・レジーナだけが、一歩も引かずに「白」の背中を射程圏内に捉え続けていた。

 直線。

 茜が全力のブースターを点火する。

「消えなさい! 私の輝きに、泥臭い村上家の名前は似合わないわ!」

 白い翼が、独走態勢に入るかに見えた。

 

 だが。

 

 キィィィィン……!

 

 ノーブル・レジーナの駆動音が、高周波の和音を奏でた。

 義清は、レジーナの「先行」適性を、ゴール直前で「差し」の爆発力へと一気に転換させた。

 それは、力任せの破壊ではない。

 相手の速度を完全に読み切り、その一歩先へ自分を置く「女帝の制圧」。

「――そこまでですよ。佐藤さん」

 残り百メートル。

 純白のソダシモデルを、真珠色のエアグルーヴモデルが、静かに、だが圧倒的な格の違いで見下ろすように抜き去った。

 ゴール板。

 

 1着:ノーブル・レジーナ(村上 義清)

 2着:ホワイトソング(1馬身)

 

 義清は、ゴール後も表情を変えず、ただ一つ、深く息を吐いた。


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