第24話
純白の翼、女帝の眼差
十二月の阪神競馬場。
凍てつく冬空の下、パドックを彩るのは、次世代のエースを夢見る若き乙女たちだ。
中でも観客の視線を独占していたのは、佐藤茜が駆る『ホワイトソング』。
全身を白一色の遮熱セラミックでコーティングされたその機体は、まるで雪の妖精が戦場に降り立ったかのような、異様なまでの「純白」を放っている。
「……綺麗。でも、競馬場に『綺麗』なんて言葉、一番似合わないわ」
茜は、純白のグローブを嵌め直し、冷ややかに周囲を威圧する。そして、芝のみならずダートやミックスコースをも粉砕する、見た目からは想像もつかない「万能のパワー」を秘めていた。
対するは、村上家の長男、義清。
愛機『ノーブル・レジーナ』。
姉・麗の「漆黒」が戦場の泥を吸い込むなら、彼の「真珠色」は戦場の熱を支配する。
「……姉さんは、限界を超えて勝った。なら僕は、限界の手前で、優雅に勝ってみせる」
義清は、レジーナの首筋に触れ、その静かな鼓動を感じ取る。
エアグルーヴの魂を宿すこの機体にとって、ここは通過点に過ぎない。
ゲートオープン。
先頭を奪ったのは、佐藤茜のホワイトソングだった。
「白」が冬の西日に照らされ、後続のセンサーを狂わせる。ホワイトソングの放つ光学的なノイズは、単なる美しさではなく、相手を幻惑するための「武器」だ。
「――逃がさないわよ。私が、新しい時代の光なんだから!」
茜のホワイトソングが、芝を力強く蹴り上げ、ハイペースでレースを牽引する。
義清は三番手の内側。
姉譲りの「進路読み」と、彼自身の「冷静な演算」が、ホワイトソングが撒き散らすノイズを完璧に処理していた。
「……光が強ければ、進むべき道はかえって明確になる」
第四コーナー。
ホワイトソングがさらにギアを上げる。
多くの馬たちがそのスピードとプレッシャーに沈んでいく中、ノーブル・レジーナだけが、一歩も引かずに「白」の背中を射程圏内に捉え続けていた。
直線。
茜が全力のブースターを点火する。
「消えなさい! 私の輝きに、泥臭い村上家の名前は似合わないわ!」
白い翼が、独走態勢に入るかに見えた。
だが。
キィィィィン……!
ノーブル・レジーナの駆動音が、高周波の和音を奏でた。
義清は、レジーナの「先行」適性を、ゴール直前で「差し」の爆発力へと一気に転換させた。
それは、力任せの破壊ではない。
相手の速度を完全に読み切り、その一歩先へ自分を置く「女帝の制圧」。
「――そこまでですよ。佐藤さん」
残り百メートル。
純白のソダシモデルを、真珠色のエアグルーヴモデルが、静かに、だが圧倒的な格の違いで見下ろすように抜き去った。
ゴール板。
1着:ノーブル・レジーナ(村上 義清)
2着:ホワイトソング(1馬身)
義清は、ゴール後も表情を変えず、ただ一つ、深く息を吐いた。




