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からくり競馬2〜『変異する血統(ブラッド・リンク)』〜  作者: 水前寺鯉太郎
第1幕

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23/26

第23話

「府中の奇跡、鉄屑の咆哮」


残り二百メートル。

 東京競馬場の電光掲示板が、熱狂の渦に飲み込まれて震えている。

 先頭は、黄金の覇王――財前巌のバハムート。

 ジャミルの献身的なブロックにより、一滴の無駄もなく加速エネルギーを蓄えてきた。

「……これが王道だ。演算された勝利こそが、最も美しい!」

 財前がレバーを叩く。バハムートの駆動系が、黄金の粒子を撒き散らしながら最後の一伸びを見せる。

 だが、その右。

 不気味なほどにしなやかな脚取りで、ラストエンペラーが「浮いて」いた。

 岡部孝雄の瞳には、一年間のリハビリで流した血と汗のすべてが、青い炎となって宿っている。

「演算だと……? 財前、奇跡を計算式に入れたことはあるかッ!!」

 一完歩ごとに、エンペラーの鼻先がバハムートの肩を捉える。故障の恐怖を脱ぎ捨てた「魂のステップ」。

 そして、その二頭の間。

 漆黒の泥を全身に纏い、もはや原型を留めていない『レイスター』が、強引に割って入った。

 バリバリバリバリッ!!

「――行けッ! レイスター!!」

 麗の叫び。クロフネ・プロトコルが臨界点を越え、脚部フレームから火花が噴き出す。

 麗は、バハムートが作る包囲網の「わずかな歪み」に、自爆覚悟で突っ込んだ。

 左右から押し寄せる数トンの圧力。金属が軋み、麗の腕に強烈なフィードバックが走る。

 だが、麗は引かない。

 財前の「正解」も、岡部の「奇跡」も、海老原の「影」も――すべてを泥にまみれさせるために、彼女はこの地獄を這い上がってきたのだ。

「……面白い。これこそが、競馬だね」

 最後方から、死神のようにダークランサーが忍び寄る。

 海老原は、三頭が作り出す凄まじい「乱気流」を翼に変え、一気に外側から全頭を飲み込もうとする。

 残り百メートル。

 四頭が、一列の横一線。

 

 財前の「独裁」か。

 岡部の「復活」か。

 海老原の「円熟」か。

 それとも、麗の「破壊」か。

 ゴール板を突き抜ける瞬間。

 麗は、レイスターのメインCPUが「完全停止」を告げる警告音を聞いた。

 だが、その直前。

 レイスターの鼻先が、ほんの数センチ、黄金と白銀の影を突き放した。

 静寂。

 

 そして、写真判定のランプが灯る。

 1着:レイスター(村上 麗)

 2着:ラストエンペラー(ハナ差)

 3着:バハムート(クビ差)

 4着:ダークランサー(アタマ差)

「……あ」

 麗は、ゴールを過ぎてから完全に沈黙したレイスターの中で、真っ白な煙に包まれていた。

 勝った。

 村上家の「鉄屑」が、歴史の頂点に君臨する名馬たちの魂を、力ずくでねじ伏せたのだ。

 パドックに戻る道。

 岡部孝雄が、自身の機体から降り、レイスターの横に立った。

「……負けたよ、お嬢ちゃん。……最高の『泥仕合』だった」

 帝王は、晴れやかな顔で麗に手を差し出した。

 

 夕日に照らされた府中のターフ。

 そこには、新時代の覇者が刻んだ、漆黒のわだちがどこまでも続いていた。

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