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からくり競馬2〜『変異する血統(ブラッド・リンク)』〜  作者: 水前寺鯉太郎
第1幕

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21/26

第21話

「秋華の火花、絶望の先へ」


京都競馬場、芝二千メートル。秋華賞。

 直線、三頭が完全に横一線に並んだ。

 内から、静寂を纏い逃げ粘る柳生ミカのシルフィア。

 中央、熾し火のような持続する熱量で迫る朽木明菜のドーベルライラック。

 そして大外、黒煙を吹き上げ、芝を粉砕しながら突進する村上麗のレイスター。

「……計算が、合わない。なぜ、その出力で機体が空中分解しないの!?」

 ミカの叫び。シルフィアの演算回路が、レイスターの「自壊を厭わない加速」をエラーとして弾き出す。

 隣では明菜が、歯を食いしばりレバーを引く。

「消えない……私の火は、まだ消えないわッ!!」

 だが、麗の視界には、もはや勝利の二文字すらなかった。

 アナログ・バランサーが脳に叩き込む激痛。レイスターのフレームが軋む悲鳴。

 そのすべてを「心地よい音楽」として受け入れ、麗は最後の、たった一歩をレイスターに託した。

(飛べ……! 柳生の空じゃなく、あたしたちの地獄を飛べッ!!)

 ゴール板。

 三頭が同時になだれ込む。

 一分、二分……。

 写真判定の結果、掲示板の最上段に灯ったのは、一三番。

 1着:レイスター(村上 麗)

 2着:ドーベルライラック(ハナ差)

 3着:シルフィア(クビ差)

「……獲った。獲ったわよ、親父……ッ!!」

 麗は、動かなくなったレイスターの操縦席で、涙と鼻血が混じった顔を歪めて笑った。

 柳生ミカの「無敗の盾」を、ついに、その手で粉砕したのだ。


 一週間後。菊花賞。

 三千メートルの深淵を、最も「理不尽」に駆け抜けた者がいた。

「……海老原さん! あんたの影なんて、アタシの火花で焼き尽くしてやるよぉ!!」

 最後方から、文字通り「暴走」に近い勢いで坂を下ったのは、亜紀子のゴールデンルナティックだった。

 

 海老原のダークランサーは、完璧な立ち回りで直線の入り口、一気に先頭を奪う。

 財前のバハムートも、スタミナ管理の最適解を弾き出し、海老原の背中を捉える。

 だが、その二頭を、外から「黄金の彗星」が飲み込んだ。

「馬鹿な……!? その残走距離で、なぜまだそんな出力が出る!」

 財前の計算が狂う。

 海老原も、一瞬だけ、背後の「狂気」に目を見開いた。

「……そうか。君は、最初から『ゴール後の自分』なんて考えていないんだね」

 亜紀子は、機体がバラバラになる振動を、笑い声で掻き消した。

 スタミナを温存するのではない。三千メートルすべてを「スプリント」に変える。

 それが、村上ガレージが誇る「最高の不条理」だった。

 1着:ゴールデンルナティック(池谷 亜紀子)

 2着:ダークランサー(クビ差)

 3着:バハムート(1馬身)

 ゴール直後、ルナティックは脚部を全壊させ、砂埃の中に転倒した。

 だが、亜紀子は脱出ハッチを蹴り破り、立ち上がって拳を突き上げた。

 淀の三千メートルを、狂気が支配した瞬間だった。

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