第15話
「神を喰らう鉄屑」
五月、東京競馬場。
伝統と格式の「日本ダービー」のゲートが開く。
最後方から、文字通り「火を噴きながら」突進する黄金の機体があった。
「あはははは! 計算? 物理法則? 知るかボケェッ!!」
亜紀子の叫びと共に、ゴールデンルナティックがガイアフォースの「万能」を内側からこじ開けた。
はるこの演算が、ルナティックの「自壊を厭わない過負荷」によってバグを起こす。
直線、二頭がもつれ合うようにゴール。
掲示板に灯ったのは、ハナ差、執念で鼻先を突き出した黄金の野良犬――。
亜紀子のルナティックが、柳生家から「一冠」を毟り取った。
だが、その熱狂の翌日。
オークスの舞台に立つ麗の耳に届いたのは、勝利の余韻ではなく、ミカの冷徹な宣告だった。
「……池谷さんは、運を使い果たしたわ。村上さん、あなたは『運』ですら届かない場所へ連れて行ってあげる」
芝二千四百メートル。
桜花賞で二十馬身差を見せつけたシルフィア(ミカ)が、再び「静寂」を纏って先頭を駆ける。
第十コーナーを過ぎても、その差は縮まらない。どころか、ミカが「最適解」を上書きするたびに、絶望の距離は広がっていく。
「麗、今よ! **『クロフネ・プロトコル』**解放!!」
ピットの健造が、禁断のコマンドを叩き込んだ。
レイスターの脚部装甲が、走行中に次々とパージされていく。
現れたのは、骨組みと配線、そしてクロフネから引き継いだ「異常なまでの大腿部アクチュエーター」。
それは、芝を走るための改造ではない。
芝というフィールドそのものを、レイスターの「熱」で焼き尽くし、一瞬だけ**『擬似的なダート』**へと変換する、環境破壊型システム。
「が、あ、あああああああッ!!」
アナログ・バランサーが発火し、麗の視界が白く染まる。
だが、レイスターは「飛んだ」。
芝を掴むのではない。芝を「爆破」し、その反動で前進する。
二十馬身、十五馬身、十馬身……。
ミカが初めて、後ろを振り返った。
そこには、黒い煙と火花を撒き散らしながら、地獄の底から這い上がってきた漆黒の亡霊が、音を置き去りにして迫っていた。
「……届く。届くわよ、ミカッ!!」
麗は、自分の意識が焼き切れる寸前で、レイスターの鼻先をシルフィアの真横に叩きつけた。
二頭の「からくり」が、物理限界を超えて、真っ白な光の中に消えていく。
ゴール板を通過したのは、どちらか。
観客席は、あまりの衝撃に声を失っていた。




