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2話 別れよう

 華と知り合ったのは、スマホのチャットアプリ。

 暇つぶしに入れたチャットアプリでたまたま繋がり、意気投合し、交際に発展した。


 それがまさか、実の妹だったと誰が想像できるだろうか。


『お兄ちゃんー!』


 今でも思い出す。

 小さな頃、どこへ行くにしても俺の後ろを小さな足で必死に追いかけてくるその少女。


 二つ違いの華は、とても優秀で、完璧主義な母さんに可愛がられていた。

 対して俺は、そんな母の期待に応えることができず、いつも見放されいた。


『お兄ちゃん、待ってー!』


 そんな母の愛情を一身に受ける華が疎ましく感じることもあったけど、俺を兄と慕い頼ってくれる華が可愛くて、いつも一緒にいた。


『華、手を繋ごう』


『うん!』


 しかし、両親の離婚がきっかけで俺たちは離ればなれに。

 華は母さんに、俺は親父に引き取られた。


 それから俺たちは出会うこともなく、妹がいたという事実は頭の片隅にこびりつきながら高校生にまで成長した。


 そしてお互いを兄妹と気づかず知り合い、付き合い続けること一年以上。

 交際をしているのだから、キスはもちろん、それ以上の関係も育んだ。


 それは先月のことだった。

 一人暮らしを始め、より一層華との仲を進展していくものと思っていた。


 華が住んでいる場所は、隣の県。

 電車で二時間以上もかかる、いわゆる中距離恋愛。


 お互い高校生だった当時は、なんとかお金を捻出し、月に一回デートするのがやっと。

 それでようやく俺は高校を卒業して、大学も隣の県にある場所に進学し、一人暮らしする家もわざわざ彼女の家の近くにした。

 

 あるとき、俺の実家に華を招待し、そのときバッタリ父と出会わせてわかった。


 どうやら親父は華と定期的に会っていたらしく、何気ない口調で華に話しかけて驚いた。


『なんだ結城、妹の華と知り合いだったのか』


 これほど衝撃的な言葉があっただろうか。自分の付き合っていた彼女が、実は生き別れた妹だったなんて。


 ――そして今から遡ること一週間前。


 一人暮らしを始めて一年以上も経つ部屋は、定期的に華が掃除をしてくれていて汚れ一つない。

 

 そんな綺麗な室内には似つかわしくない、重く苦しい雰囲気が家中に漂っていた。


 ローテーブルを挟んで、向かいに座る華は悲しそうに瞳を伏せている。


「ねえ、ユウくん……」


 その言葉に、俺は華を一瞥した。

 その視線に華は縮こまるように背を丸め、改めて俺を呼びかけた。


「お、お兄ちゃん……」


 絞りだすように呟く華の声に、俺は思わず嘆息した。


 ――ユウくん。


 それは付き合ってから呼び始めた、華が俺を呼称するときのあだ名。

 妹であると発覚してから、俺はそれを禁止することにした。


 だって仕方ないことなんだ。知らなかったとはいえ、俺たちは兄妹なんだ。

 今までの関係を改めるために、俺を兄と呼ぶように華に強要した。


「……お互いに知らなかったんだししょうがない。でも、知ってしまったからにはそうは言ってられない。だから、別れ……」


「絶対いや」


 俺の言葉が言い終わる前に、華が遮るように声を被せてきた。

 それを聞いてまたもや俺は嘆息。

 もう何度このやり取りを繰り返しただろうか。


「絶対いや。ユウ……お兄ちゃんと別れる気なんてない」


「気持ちはわかるけど、俺たちは兄妹なんだ。仕方がないけど、今まで通りの関係ではいられないよ」


「仕方がないことなんてないよ。好きになっちゃったんだから、そんな兄妹とかどうでもいい」


 華の瞳は揺れていて、今にも泣き出しそうになっている。


「どうでもいいって……。このまま付き合い続けてもお互いに不幸になるだけだよ? それならいっそのこと、今すっぱりと別れた方がお互いのためだよ」


「不幸になるって誰が決めつけるの? 私はお兄ちゃんと付き合えないことのほうが不幸だよ」


「親や友達に俺たちの関係を胸張って言えるのか? そんな間違っていることを隠して関係続けることは不幸だって」


「周りにどう思われようが関係ない!」


 だめだ、華は意固地になって俺の意見を聞き入れようとしない。


 そりゃ俺だって別れたくないさ。華のことは今でも好きだし、今まで通り付き合っていたい。


 けど、ふと気づかされるんだ。

 今も向かいに座る華の顔が、その濡れた瞳が、膝の上でぎゅっと手を握る仕草が、思い出させるんだ。


 ああ、彼女は妹なんだって。

 小さい頃、どこへ行くにもついてきていた小さな面影と重なるんだ。


 そのたびに俺の胸が罪悪感で締め付けられるんだ。

 俺たちの関係は間違っているんだって。


「普通の恋人なら結婚して子どもを産んで、幸せな夫婦生活ができるけど、俺たちはそんな普通のことさえ許されない。そんな未来に幸せが待っていると思うか?」


「……お兄ちゃんは考えすぎだよ。私たちはまだ学生だよ? 兄妹じゃなくても、学生のうちからそんな結婚生活なんて考えないよ」


 だめだ、なにを言っても暖簾に腕押し。

 華は頑なに首を縦に振らない。


「お兄ちゃん……」


 華の潤んだ瞳で見つめられると、俺はそれ以上なにも言えなくなってしまった。

 なにも問題は解決していない。むしろ悪化しているように思える。


 これが先週に起こった出来事。

 別れようと切り出し、それを拒絶され、付き合っているのかいないのかあやふやな関係が続いてしまっている。

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