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17話 内海さんと付き合えたら

 本来の予定では、俺が案内した喫茶店で少し軽食をして映画を見るつもりだったが、陽が落ちそうだったので今日はファミレスで雑談だけで解散することに。


「じゃあそろそろ帰ろうか」


 俺は席から立ち上がり、レジに向かう。

 お会計のときに、隣で内海さんが財布を取り出したので、軽く手を上げて制した。


「いいよいいよ。ここは俺が奢るから」


「え、ほんとうですか? ありがとうございます」


 笑顔で軽く微笑んだ内海さんが、すぐに財布を仕舞った。


 二人分のお金を払い店を出たところで、すぐに内海さんから呼び止められる。


「先輩、さっきのお金です」


「え?」


 内海さんの差し出した手には千円札が。


「いや、いいよ。さっきも言ったけど、俺の奢りなんだし」


 年上だし、先輩と慕ってくれている子にお金を出させるのは申し訳ない。

 断ろうとする俺の手を、内海さんは強引に取り、無理矢理千円札を渡してきた。


「駄目ですよ。先輩は一人暮らしで、生活費とかで大変なんですから」


「うーん、そうでもないけど……」


 なんたって、家賃は親父が出してくれてるんだ。そこまで大変でもない。


「先輩が奢ってくれるのは嬉しいですけど、それよりも割り勘にして、その分、一杯デートしてくれたほうが嬉しいです」


 それでも渋る俺に、内海さんが少し顔を伏せ、申し訳なさそうに呟いた。


「それに遅刻した上で奢られたら、今日の楽しかった思い出が苦くなっちゃいます」


 なるほど、そういうことなら受け取ろう。

 内海さんに渡された千円札を財布に入れながら、さきほどのお会計のことが気になり聞いてみた。


「それだったらレジのときに割り勘にすればよかったのに」


「男性が奢ってるほうがかっこよく見えるじゃないですか。先輩をカッコよく見せたくて」


 言わせないでくだいよ、と蚊の鳴くような囁き声で呟き、内海さんは恥ずかしそうに笑った。


 その姿にドキリッとしてしまった。

 華と同じ学校なら、内海さんは女子高だ。もしこれが共学であったなら、彼女は相当モテていただろう。


 容姿も可愛く、コロコロと変わる表情や仕草、それに俺のことを慕ってくれる。

 内海さんと付き合えたら、きっと楽しいんだろうな。


「家まで送っていくよ」


 なんとなく内海さんと離れるのが寂しくなり、自然と言葉が出た。


「はい、嬉しいです」


 同じことを思っていたのか、内海さんは少し頬を染め、ゆっくりと頷いた。


 駅まで向かう道中、無言の時間が続いた。

 それは嫌な時間ではなく、気恥ずかしいような、こそばゆいような、でも気まずい空気ではない。


 内海さんに触れたくて、知らず知らずに俺の手は彼女の手に近づいていく。

 意外にも近くにあった柔らかな手の感触に驚いてしまい、お互いに手を引っ込めてしまう。


 思わず顔を見合わせてしまう俺たち。内海さんの顔は俺と同じように驚愕に満ちた表情をしていて、耳まで真っ赤にしている。


 内海さんも、手を繋ぎたいと思っていてくれたのかな。


 心の内を悟られるのが恥ずかしくて、お互いに顔を逸らしてしまった。


 そのとき、ぽつり、と冷たい感触が頬を伝った。空を見上げると、分厚い雲が覆い、今にも泣き出しそうになっている。


 まずい、このままだと雨が降りそうだ。


「内海さん、駅まですぐそこだから少し走ろうか」


 二人でその場を駆け出し、駅まで逃げ込んだ。

 駅構内に入ると、背後では無数の雨が地面を叩き始め、黒く染めていく。


 もう少し帰るのが遅かったら、ずぶ濡れになっていたな。


 内海さんと顔を見合わせ、なにがおかしいのかわからないが、二人して大口を開けて笑いあった。


 雨が降り始めたからただ走りあっただけ。それだけのことなのに、それがとてもおかしくて笑いあう。


 ひとしきり笑いあったあと、急に内海さんが口を噤み、目を見開いて顔を真っ赤にしはじめた。


 ……? どうしたんだろう。


 それもすぐに鳴りを潜め、内海さんはいつものように不敵な笑みを浮かべ、自身の身体を抱きしめた。


「先輩、残念でしたね。これがラブコメなら、雨で服が濡れて下着が見れたのに」


「あはは、どっちかっていうと安心してるかな」


「あー、あたしの身体なんて見たくないってことですかー」


「違う違う。雨で濡れて内海さんが風邪引かなくて安心って意味だよ」


「ほんとうですかー?」


「本当だよ」


 怪しむように俺の顔を覗き込んでくる内海さんの頭を撫でてなだめる。

 唇を尖らせながら拗ねる表情が、俺の手の下でくすぐったそうにふにゃりと崩れた。


 ひとしきり撫でたあと、またお互いに笑いあった。

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