15話 ちゃんとしてくださいよー
「それで、先輩が行きたいお店ってどこですか?」
二人で同じミルクティーを握りしめながら、あたしは先輩に尋ねてみた。
「昨日調べてみたら、良い感じのお店を見つけたんだ。こっちだよ」
スマホを片手に、先輩がリードしてくれる。
……なんか、少し複雑な気分。
先輩は年上だし、大学生だから色々な出会いがあるのもわかるけど、その手慣れた対応に気分が落ち込んでしまう。
先輩に連れられて、見知らぬ道をひたすら歩いた。
歩くこと五分ほど。その通りを見てあたしは驚愕してしまう。
ギラギラした看板に、さっき歩いていた道には決してなかったお城のような建物が並び、ここだけ景色が切り抜かれたように現実感が薄い。
こ、ここって……ラブホ街じゃん!
良い感じのお店って、行きたいところってここのことだったの!?
手慣れてるとは思ってたけど、こんなに女性慣れしてるとは思わなかった。
え、ちょっと待って……、さすがにいきなりエッチは……。
ショックを受けるあたしを余所に、先輩はどんどん先に行ってしまう。
周りが見えてないのか、煌びやかなホテルには目もくれず、その視線はずっとスマホに注がれている。
あれ、ここじゃない……?
不安がるあたしを置いて、先輩はそのままラブホ街を通り過ぎてしまった。
それに安堵するも、余計に先輩がどこに行きたいかがわからない。
慌てて先輩についていき、さらに歩くこと五分。
角を右に曲がり、次の角も右に曲がり、また次の角も右に。
て、これだとさっき通った道に戻っちゃうよ。
「先輩、どこに行きたいんですか?」
たまらずあたしは先輩に話しかけてしまった。
「このお店に行きたいんだけど、中々行けなくて。グーグルマップの案内通りに進んでるんだけどね」
先輩がスマホを見せてくれた画面には、グーグルナビが映っていた。
「これ、反対に行ってますよ。この矢印の向いてる方向が進行方向で、経路の通りに進めばいいんですよ」
「うーん、行ってるつもりなんだけどな……」
もしかして先輩って、機械音痴で方向音痴……?
「スマホを借りてもいいですか?」
「あ、うん」
先輩からスマホを受け取り、代わりにあたしが道案内することに。
向かおうとしていた店は、まったく違う道だった。
どこをどう見たらこの道になっちゃったんだろう。
そしてようやく辿り着いた店の扉には、休業日の看板がぶら下がっていた。
その看板を、あたしたちは呆然と見つめてしまう。
「あはは……」
先輩の乾いた笑いが隣から聞こえてくる。
「ご、ごめんね、あんまりこういうの慣れてなくて。今日臨時休業日だったんだ……」
申し訳なさそうに肩を落とす先輩とは対照的に、あたしは嬉しくなってしまい、頬が緩んでいくのが自分でもわかった。
「もー、なにやってんですかー」
それを悟られるのが恥ずかしくて、誤魔化すように先輩の腕に抱き着いた。
「もっとちゃんとリードしてくださいよー」
「ご、ごめん」
案内しようしてくれたお店は、オシャレな感じが外観からも伝わってくる。カップルに人気な喫茶店なんだろうな。
リードしようと頑張ってくれたことも嬉しかったし、こんなオシャレな店を調べてくれたことも嬉しかった。
「先輩、気にしないでください。あたしはこんなオシャレな店じゃなくても、そこのファミレスでも構いませんよ」
目の前にあるこんな素敵なお店に入れたら、きっと楽しかっただろうけど、先輩と一緒だったらファミレスでも、公園でベンチに座ってるだけでも、きっと素敵な場所になると思う。
「ほら、行きましょう!」
先輩の腕を強引に引っ張り、すぐ近くのファミレスに向かった。
緩み切った顔を見られないように、ファミレスに入るまでには引き締めないと。




