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12話 二人っきりでデート

 先輩と華ちゃんと喫茶店に行ってからの翌日。

 普通コースで授業を受けていたあたしは、チャイムが鳴り休み時間になると、教室を出て真っすぐに特進コースに向かう。


 特進コースは同じ階にあるけど、階段を上がって右手に特進コース、左手に普通コースに別れていて、右は天国、左は地獄などと揶揄されている。


 ま、あたしはそんなことは気にしないけどね。


 特進クラスの教室を覗き目当ての人物がいるか探すと、その人はさきほど使っていた教科書などを鞄に仕舞っていた。


「華ちゃーん」


 声を張り上げると、華ちゃんはぎょっとしたようすで目を丸くしている。

 昨日あんな感じで別れたんだから、あたしに会うのが気まずいのはわかるけど、そんな顔をされると少し複雑な気持ちになってしまう。


 華ちゃんの前にある席の椅子を借り、両肘を机に置きにこっと微笑む。


「昨日は付き合ってくれてありがとう」


「ううん、大丈夫だよ。いきなり帰っちゃってごめんなさい」


 華ちゃんはにこっと微笑み返してくれるけど、その笑顔は引き攣ってることに気づいているだろうか。

 たぶん本人は、いつものように笑えてると思ってるんだろうな。


「あれは先輩が悪いから、あたしは気にしてないよ」


「お兄ちゃんは、悪くないよ」


 あー、ちょっと言葉がまずかったか。

 先輩が軽薄な行動したことが華ちゃんの機嫌を損ねた原因なのは明白なのに、それでも大好きな兄を貶されたことが許せなかったみたい。


 華ちゃんは少し真顔になって否定してきた。


 美人が真顔になるとちょっと怖いんだよね。


「先輩って、どういう人がタイプなのかなー?」


「……うーん、わからない」


 本当にわからないのか、はぐらかしているのか、華ちゃんの表情からは読み取れない。


「ブラコンなのはいいけど、教えてよー」


「ブラコンじゃないってば」


 華ちゃんは呆れたように溜息を吐く。


 いやいや、これでブラコンじゃないは無理がある。


「今までどういう人と付き合っていたとか、そういうのもわからない? 先輩って、優しいからモテそうだし」


「そういうのもわからないけど、お兄ちゃんは凄いモテそうだよね」


 あー、ほんとブラコンだなー。

 優しくてモテそうって言っただけなのに、華ちゃんってば嬉しそうにしちゃって。涎でも垂れてくるんじゃないかってくらい、締まりのない顔してる。


 ほんと、あたしも兄がいるけど全然共感できない。


 アニメや漫画じゃないんだし、こんなに兄のこと好きになることある?


「昨日話してわかったけど、あたしと先輩ってそんなに相性悪くないかも」


「どうしてそう思うの?」


「話してて楽しいし、先輩がそばにいても嫌な感じしないんだよね」


「……ふーん、そうなんだ」


 だから真顔やめてってば。

 華ちゃんって顔がめちゃくちゃ整ってるから怖いんだってば。


 けど、だからこそ、なんかからかいたくなっちゃうんだよね。


 いつもは完璧な華ちゃんが、先輩のことになるとムキになって、喜怒哀楽を前面に出すのが面白くて。


「あたし、先輩をデートに誘っちゃっおっかな」


「……私、もう協力しないよ?」


「うん、もう大丈夫。先輩と二人っきりでデートするから」


 あたしの言葉に、華ちゃんは目を見開いて驚いたあと、すぐに長い睫毛が伏せられ顔に影を落とす。


 ブラコンなのはわかったけど、兄を女から遠ざけようとするのは間違っているし、それになによりあたしだって彼氏がほしいし。


 華ちゃんをからかってるのもちょっとあるけど、気になる男性にアプローチするのはなにも間違ったことではない。


 だって、別に華ちゃんと先輩は付き合ってるわけじゃないんだし、なにも後ろめたくなる必要はない。


 そのとき、次の授業が始まる予鈴が学校中に響いた。


「またね、華ちゃん」


 あたしは立ち上がり、その場を立ち去る。

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