10話 デートの約束
バイト先で内海さんに華といるところを見られてからの翌日。
大学を終えた俺は、家でベッドの上でゴロゴロしていると、スマホにLINEの通知が。
華からかな?
そう思ってLINEを開くと、内海唯夏と名前が書かれた人からメッセージが届いていた。
『先輩、唯夏ちゃんですー! 友達追加しておいてください!』
え、どうして内海さんが俺の連絡先を知っているんだ。
同じバイトとはいえ、俺は彼女に連絡先を教えていない。
なにか用事があるときは、店長を介して連絡するのが決まりだ。
そんな内海さんが、どうやって俺のLINEを知ることができたんだ。
『どうして俺のLINE知ってるの?』
メッセージを送ると、すぐに既読がついて返信が来た。
『華ちゃんに教えてもらいました!』
どういうことだ……?
なんで華は内海さんに俺の連絡先を教えるんだよ。
というか、内海さんはどうして華を名前で呼んでいるんだ。
二人はいつの間にそんなに仲が良くなったのか?
困惑する俺を余所に、内海さんは立て続けにメッセージを送って来る。
『それで、先輩とデートしたいんです』
『で、デート……?』
『はい、先輩とデートがしたいんです!』
遊びに行くとかじゃなくて、デート……。あの、男女がするデートってやつ……?
『いきなり二人とかだと緊張すると思うので、華ちゃんも交えて三人でデートしましょう』
『華は、それを納得したの?』
『もちろん!』
……ほんとうに、華は納得したのかな?
あれだけ別れるのを嫌がっていたのに、そんな華が、俺が他の女性と付き合うのを後押しするのか?
俺は内海さんへの返信を保留し、真偽を確認するために華にメッセージを送った。
『内海さんに、俺の連絡先を教えたって本当? 三人で遊びに行くって話とかされたけど、華は同意したの?』
既読はすぐについた。けど、そこから中々返信が来ない。
それから五分、十分。
時間をかけて返ってきた華の言葉が。
『うん』
たったそれだけ。
なんだよ、それ……。
あれだけ別れるのを嫌がってたのに、なんでそんなことするんだ。
もう気持ちが冷めたのか、俺だけが華への気持ちを引きずっていたってことか。
別れようって言ったけど、それでも俺は華のことが好きだったのに。
華もそうだって思ってたのに。
昨日組んだ腕から伝わる華の柔らかい感触や温かさが、遠くに離れていく感覚。
今までの思い出はなんだったのか。
簡単に他人に譲ってしまうほど、俺たちの関係は薄かったのか。
怒りがふつふつと湧いてくる。
こんなことを言いたくはないけど、それでも文字を打つ手が止められなかった。
『華も俺と別れたがってるじゃないか。あれだけ嫌がってたのに、もう気持ちが冷めたってことなんだね』
胸が張り裂けそうなほど苦しい。
壊れてしまうんじゃないかと思うほど、スマホを握っている手に否応なく力が入ってしまう。
スマホを操作していなかったせいで、勝手にスリープモードに変わり真っ暗になった画面には、苦悶の表情を浮かべる自分の顔が映し出される。
なんて酷い顔なんだ。今にも泣き出しそうな、辛そうなそんな表情。
握っているスマホが震え、画面に明かりが灯る。
メッセージが届いたことを知らせる通知が届き、急いでLINEを開いた。
『だって仕方ないじゃん。お兄ちゃんが唯夏ちゃんに兄妹だって教えちゃうから』
そんなことを聞きたかったわけじゃない。俺は、華の気持ちを知りたかったのに。
好きだよって言ってくれたら。たった一文、そんな言葉を書いてくれたら、安心できるのに。
『そうだね、仕方ないね。それなら内海さんとデートに行っちゃうのも仕方ないね』
もういいよ、華も別れたがってるならそれでいいよ。
これで正しい兄妹の関係に戻れるじゃないか。それでいいじゃないか。
俺は投げやりに華に返信して、保留していた内海さんとのメッセージを再開した。
『デート、行こうか。いつにする?』
『いつでもいいですよ。明日とかお暇なら、学校終わりにみんなで喫茶店とか行きませんか?』
明日か……。
こんな気持ちで華に会うのは嫌だけど、仕方ないよな。
『わかった。明日だね、楽しみにしてる』
そう返信をして、スマホを枕に投げ捨てた。
そのあともずっとスマホが振動し着信を知らせる通知が届いていたが、俺はひたすらその音に聞こえないふりを続けた。




