第3話 アワナイフタリ
学級委員の顔合わせが始まる数分前、他学年の学級委員だろうか、次々と現れて席に座り始めた。和美はどんな人がいるんだろうかとキョロキョロと見ていると知っている人が教室に入っていた。
「あ、あの人」
和美と椅子に座っていた男子が1人突然立ち上がって彼女の前に来た。
「あ!前にボールぶつけそうになった人だ!ごめんなぁこの前は。俺の不手際で君に危害を加えるところだった。本当にすまない」
「いやもう大丈夫です、武縄さんが助けてくれたので怪我もなかったし」
「春、ごめんな。もう時間だなじゃあまた後で」
「おう、次は気を付けろよ」
「武縄さん、彼は?」
「あいつは小学校からの同級生だよ。町月 風、良いやつだ」
その後、顔合わせが始まり1人ずつ自己紹介を始めた。
「1年1組、町月風です。よろしくお願いします」
そして席に座り、隣にいた女子が立ち上がる。大きく息を吸って弱々しい声を出した。
「1年…1組……是巳…時雨でしゅ…です。よろしくお願いします」
そのときその場にいた全員が思った。
リスみたいで可愛いと。
「ゴホンッ…では次1年2組、お願いします」
「1年2組、武縄春です。よろしく」
「1年2組、諸此和美です。よろしくお願いします」
そうしてその後、上級生の自己紹介が終わり説明が始まった。
「では学級委員の皆さんには8月上旬に行われる体育祭についての提案をしてもらいたいと思います」
春は和美に小声で話す。
「これって俺達が考えるの?」
和美は春に返答しようとしたが3年生は聞こえていたのかその質問に返答した。
「他校がどうなのかはわかりませんが、本校ではあらゆる学校行事に対して我々学級委員と生徒会が意見を出し合い形にしていくという決まりがあります。ですがあくまでも我々の意見や提案が必ずしも形としてなるものではありません。その決定権は先生や校長、PTAの皆さんにあります」
「成程、教えていただきありがとうございます」
それを聞いた和美は席から立ち上がり綺麗なお辞儀をした。それにつられて春も立ち上がりお礼をした。
「では話を戻します。体育祭で何か行いたい提案等はありますか?」
そこからは様々な意見があり盛り上がった。ある程度書記がまとめて黒板にまとめた。
「まず、全クラス対抗バトンリレーですが少子化の影響でクラスの減少傾向もあり実現価値はかなり高いと思います。またそれに伴い部活動対抗リレーは今年は無しになります。それで良いでしょうか」
その言葉に全員が頷く。
「近年の気温の高さにおける熱中症の観点から午後開催にすべきという意見が出ましたがこれはPTAの方々に言ってもらった方が決定権は強いと思いますので私の方から伝えておきます。今回は以上になりますのでまた次回の委員会の時に今日以上の意見を出し合えるようにしましょう。では解散」
春、和美、風は教室から出る。重ならない足音を奏でながら自分達のクラスへと向かおうとする。
「まさかうちの高校があんな独自のルールというか伝統があるなんてな」
「私達あんまり意見出せなかったわね」
「そうか?時雨さんは結構考えていたっぽいけど」
風は後ろにいた彼女に手を差し伸べるように話した。
「あっ、いや…私は別にそんな考えてない…です」
段々と小さくなる声に彼らは気にせず話した。
「でも確かに是巳さんは話すのが苦手だけどその分対策を練って発表してたし…」
風に耳打ちする図
ノートを大きく見せ文字を読ませるの図
頑張って声で伝える図 オォ〜
「凄かったよね、是巳さん…あれ?是巳さーん」
「是巳、褒められると嬉しさと恥ずかしさでどっかに逃げちゃうんだよ」
「ええ!?早く言ってよ!」
「そうか?それだけ2人からの褒め言葉が嬉しかったっていう証拠だろ?是巳は確かに喋るのはあんまり得意じゃないかもだけど、仲間を1番に考えている良い子なの最近になって理解できたんだよね」
「珍しいな、風が他人に興味持つなんて」
「そうか?そうだなぁ、そうかもな。ただ単純にどうしてあんな子が学級委員になったのか気になったのかも」
「別に彼女がやりたかっただけでしょ」
和美が話し始めた。
「誰だってそう。別に容姿からあの子はこう、なんてちゃんと予想されて行動するかなんてわからない。人には誰だって好きな事、嫌いな事が沢山ある」
和美は目を閉じて少し考えた。
「私だって嫌いな事は沢山あるわ。でも私の事を知ってくれた人だっていた。それだけでも嬉しいのよ。是巳さんだってそう、あなたが彼女の事を知ればこれがああ、当たり前なんだって思うわよ」
「そうか、ありがとな。今度色々話してみるわ」
部活があると言いながら風は感謝を言いながら外に向かって行った。
「…凄いな諸此さんは」
「そう?私にとってはこれが当たり前よ」
「いや凄いよ。思った事をちゃんと言葉にして話してる。俺は流れでいる事が多いから少し羨ましい」
「そうかしら?武縄さんは人の事をちゃんと理解してるわよ」
「え?」
「ほら、早く帰りましょう」
「ちょ、今のそれってどういう」
和美は先に走りながら玄関へと向かった、その笑顔を誰にも見せないまま。
夕方
小晴〔今日、親いない〕
楪〔俺も今親から連絡入ったわ。夕飯なったら来て〕
小晴〔多分無理だな〕
楪〔へ?〕
「だってもういるし」
「うわぁぁぁあああ!!!!???」
「うるさっ」
「いや、だって、え?」
「楪の親がもう来てって引っ張られた」
「母さんまじか…」
そう言いながら楪は顔をテレビに向けて手に持っていたコントローラーを触り始めた。
「ね」
「なに?」
「それ面白い?」
小晴は楪がやっているゲームに指を差しながら聞いた。
「まあ、面白いよ。でも多分、小晴はやっても面白くないと思う」
そう言いながら楪はセーブしてホーム画面に戻った。
「小晴、どれやる?」
「ん〜、夕飯まで時間あるしWiLL SPORTSがいいかな」
「OK、待って…今テレビにプラグ挿すから。よし繋いだ、今度は負けねえぞ」
楪はゲームを起動しながらコントローラーに不備がないか確認していた。そんな彼を見て小晴は質問した。
「楪はどうして私なんかの相手するの?」
「え、幼馴染だから」
「そう」
「うん」
楪はテニスを選択して彼女に言った。
「次は負けねえぞ」
「私がスポーツ得意なの知ってるでしょ」
数十分後…
「…また負けたぁ!」
「私に勝てる日なんて死ぬまでないと思え」
「ぐぬぬ…次だ!次は勝ってやる!」
「負け犬の遠吠えだね…うわっ!?」
小晴は偶々落ちていたテスト用紙に足を滑らせた。
「あぶなっ!」
楪が転びそうになる彼女の手を掴んで引っ張りそのまま彼らは倒れた。
「いてて…小晴だいじょ…」
鼻先に小晴の顔がある。彼女が彼を覆い被さるように倒れていた。無言になり、ただ2人の吐息だけが混ざり合っていた。心臓の鼓動が少しだけ早くなる、だけど2人は離れようともしない、そして楪が口を開け何かを発しようとした瞬間に1人の女性がその空間を
「夕飯できたよー2人とも!」
終わらせた。
「は、はーい!今行く!」
小晴はすぐに立ち上がり、楪も部屋を出ようとした。
周りが聞こえないくらいにドクドクと鳴っている心臓の鼓動は彼がさっき言おうとした言葉を懸命に思い出させようとする。
「先…言ってる」
小晴はゆっくりと彼の袖を掴む。
「楪…今……なんて言おうとした?」
楪は何も言わない、彼も後悔をしている。もしソレが失敗したら今までの関係が一瞬で消えてしまう。でも彼女は彼の真っ赤な耳を見て感じ取ってしまった。
「私は…きっと……どんな言葉でも肯定するよ。否定は…しない」
「それは…飯食ってからでも…いいかな」
「う、うん」
夕飯、楪の母親は普段とは違う空気感なのを瞬時に理解した。
(まさかこの子達…遂にか!?)
そして空気を読んだかのように小晴の母親に連絡した。
楪母〔小晴ママ少し帰るの遅くならない!?なんなら今日小晴ちゃんをうちに預けて欲しいわ!〕
小晴母〔理解〕
小晴母〔今どんな感じ!?〕
楪母〔今すっごい青春を味わってる。もう私の肌20歳くらい若返ってる気がするわ〕
小晴母〔早く進展あったらいつもの喫茶で集合いいわね!〕
楪母〔了解〕
小晴のスマホから着信があり、llneを開く。
「あれ、お母さん達今日帰ってこれないって」
「そうなの?なら小晴ちゃん今日は泊まっていきなさい。服は姉のがあるから」
2人に衝撃が走る。チャンスなのかどうなのか、2人は思考を巡らせまくりそして…ショートした。
「ウン、トマッテイケバイイトオモウヨ」
「ソレジャア、トメサセテモライマス」
PM9:00
楪はベットに座っていた。あれから2時間、ずっと無言のままだった。そしてコンコンとドアを叩く音が鳴る。
「楪、入ってもいい?」
「え、あ、どぞ↑」(何声感高くなっとんねんワレ!)
ドアが開くとパジャマ姿で風呂上がりなのか身体から煙が立っている小晴が立っていた。
再び2人に緊張が走る。
小晴はゆっくり彼に近付き、隣に座った。
無言のまま数分が経過したんじゃないかと思うほど心臓の鼓動が時間を忘れさせる。彼女が落ち着こうと胸に当てていた手を下ろす。そして彼の手に触れた。
「あ、」
彼女は驚きながらその手を離そうとしたが彼がその手を掴んだ。彼女はまた驚いたが彼の目を見て話した。
「楪、」
「なに?」
「さっきも言ったけど私はこれからどんな事が起きようと否定はしない、なんなら肯定する、いやきっとYESっていう!だから…いいよ」
「…! 小晴」
「はい」
彼女の微笑んだ顔を見て彼は覚悟を決めた。
「俺は最初…ずっとこの関係が続けば良いと思ってた。でも小学生の高学年になったあたりから小晴はスポーツに目覚めた、俺はゲーム三昧。いつかこの関係が終わってそのまま別の学校に進学してそれぞれの人生を進むんだって思った。だけど俺はそんな人生だったら死んだ方がマシだって思った。俺はそれくらい!」
楪は小晴の両手を掴んでいった。
「小晴の事が好きなんだって気付いちゃったんだ…だから」
すると小晴が楪の手を握り返す。
「楪、私はずっとここにいてもいいかわからなかった。楪が言ったみたいに私と楪は趣味も違うしきっと喧嘩ばっかしそうな気がする…それでも私はあなたしかいないって思ったの…だからいい?」
「うん…小晴、俺と付き合って下さい」
「はい…お願いします」
小晴は泣きながら彼の背中に手を回した。楪も彼女の背中に手を回して抱き合った。そして一階のリビングでは父と母と姉が号泣していた。
「いい、何これめっちゃ尊い」
「あの子達声が大きいの気付いてないわよね」
「まあいいじゃないか…めっちゃ泣ける」
家族が彼らにバラすのは暫く先の話。




