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第2話 あっち向いてホイ

5月下旬、1年2組では戦慄が走っていた。

春と和美がお互いに睨み合い握った右手を懐まで持っていき、いつでも出せるように準備していた。楪は扇子を口元に当て小晴に言った。


「勝利は私のもので決まりですな小晴さん」


「いや、まだ決まってないわ!この後に2回勝てばいいだけですもの」


他の生徒も息を呑む。そして…


「じゃんけん…ポン!」


春 チョキ  和美 グー


今起きた現象に驚きながらもすぐに春は視線を彼女に向けた。既に彼女は彼の方へ指を差していた。


「あっち向いて「俺は簡単にはやられ…」ホイぃ!」


和美が曲げた指に流されるように春は顔をそちらに向けた。


「なっ…」


生徒が歓声を上げる、春にはもう後がない。


「ぐっ、このまま負けるわけにはいかないんだぁ!」


何が彼をそう奮い立たせるのか、それは10分前の事だ。志木先生がクラスの生徒分の紙を持ってきた。それを配り終えると生徒達はその紙に書かれた内容を見た。


「こ、これは…」


「じゃあ今から学級委員を男女1人ずつから決めたいのでそこに立候補したい人は自分の名前を。なりたくない人は立候補させたい人を書いてくれ。それで決めるぞ」


生徒達からは重い空気が溢れていたが書かなければ始まらない。生徒は思い思いに当てはまりそうな人を書き先生に提出した。そして5分後


「よし、じゃあとりあえず女子の方は諸此が立候補した。他に立候補者はいないから彼女でいいか?」


その立候補者の名前を知った途端女子は彼女を称えるように両手を握って祈り始めた。


「え、なに、こわ…」


楪がそれを見て先生に聞いた。


「先生!男子の方はもちろん立候補者はいますよね!」「いません!」


男子は椅子から崩れ落ちた。そして更なる絶望が彼らを襲う。


「それじゃあ1番多かった人を発表するぞ」


女子は和美を祈っていたが男子は当たらない事を祈っていた。


「まず同票が3名いる」


「さ、3!?」


「言うぞ。まずは若水(わかみず) 楪」


「え、なんでじゃ!?」


「2人目は色取(しきどり) (つき)


「まあ、大体は察してたけど」


「3人目は…」


「まあ俺は来ないだろ」


「あら、そうなの?」


春の謎の自信に和美は疑問に思った。


「だって楪と月だぞ?楪はまだしも月は成績優秀、あんまり喋った事ないけど人当たりはいいし。この感じだともう1人元気な奴が当たりそうな「武縄 春」気がするわ…えっ?」


「春だぞ、3人目」


「え、俺!?なんで」


「なんかデジャブ」


「うるさい、楪!」


「はーい、黙りますようだ」


すると志木先生がわざと咳をし、クラスを静かにした。先生は3人を立たせて言った。


「君達はどう選択する?自分から名乗りあげて学級委員をするか…何か君達の中で公平に平等に誰かに学級委員という肩書きを与えるか」


すると3人はコソコソと話し合い決めた。


「先生、、」


「なんだ?」


「言っておきますがこの3人から立候補する人間はおらず、話し合いでも決まるわけがありません!」


堂々と話す姿勢に先生のメガネはズレた。


「なので」


春と楪と月は和美を見て言った。


「簡単なゲームで決めましょう」


「簡単なゲームって…え、なんで私を見る必要があるの?」


「あっち向いてホイをやりましょう。ルールは簡単、二本先取で勝ち。成績が1番悪い人間が学級委員です」


勝手に話を進める彼らに和美は先生に助けを求めようとしたが


「ヒュー、ヒュー、ピッ、あ、口笛吹けた」


完全に目線を逸らされた。

そして彼女は諦めてあっち向いてホイをすることになった。ゲームが始まり結果は次の通りになった。

月 2-0で勝利

楪 2-1で勝利

そして現在に戻り…そう、春は今…最大のピンチを迎えていたのだった。現在1-1の同点、このまま春が勝てば楪と同点になり春と楪の直接対決になる(私、やらなくてよかったじゃん)外野がうるさい。和美が勝てば春は学級委員になることが確定になる。

そして最後の勝負が始まろうとしていた。


「「最初はグー!」」


「「じゃんけんポン!」」


両者グーを出す!そして再び拳が振り上がり


「「あいこで しょ!」」


春はチョキ、和美はグー


「あっち向いて…ホイ!」


和美の指とは真逆の方を向く!

すぐさま拳の勝負に戻る!


「「じゃんけんポン!」」


またもや和美が勝つが向いて欲しい方向へは向いてくれない!


「「じゃんけんポン!」」


春がじゃんけんに勝った!


「このチャンスを無駄にしない!あっち向いてホイィ!」


春→ 和美↑

千載一遇のチャンスを外してしまう!


「まだ終わってたまるかぁ!じゃんけんポン!」


「あっち向いてホイ」

「なっ…」


和美は興味がないようなテンションで簡単に勝負を終わらせた。


「勝者、諸此〜和美ィ!ということで武縄春が学級委員に決定!」


うおおおお!と大きな歓声が響いた。既にわかる騒音被害が確定で来ることに。だが先生は彼らの楽しんでいる今の空間を壊すわけにはいかないと笑顔で見ていた。放課後職員室で春と和美が呼び出された。


「どうしたんですか先生」


「春、和美。明日の放課後、早速仕事だ。学級委員の顔合わせがある。それに参加して今後の学校方針やイベントの細かい内容について聞いてきてくれ」


「わかりました」


2人は廊下を歩きながら話した。


「なあ、諸此さん」


「どうしたの?」


「あっち向いてホイにわざと勝つとか負けるとかないよね?」


「なに、疑ってるの?」


「いや、そんなわけじゃないよ。ただ本当にわざとやれることができたら凄いなって思って」


わざとに関して凄いなんて言葉が現れたことにより、和美は笑いながら言った。


「それ褒め言葉?でもそうだね、武縄君のときだけ少し考えながらやったかな」


「どういうこと?」


「私、学級委員やるなら友達とやりたかったし」


「楪達とは友達じゃないの?」


「うーん、若水君と日和さんはまだなんか知り合いみたいな思いで喋ってしまってるかも」


「もし俺が勝ってたらどうするつもりだったの?」


「あなたが負けるようなゲームを提案してたかも」


「鬼か」

「友達よ」


春達は荷物を持って玄関に向かった。

下駄箱から靴を取り出して外に出た。歩いているとふと思ったことがあったので彼女に聞いてみた。


「諸此さんはいつから小晴と知り合いになったの?」


「あ〜、それは確かここらへんで…」


「春ー!ボール取ってくれぇ!」


声がした方へ顔を向けるとボールが一直線に飛んできていた。


「そこの人危ない!」


前とは違う必ず当たってしまうとわかるサッカーボールが彼女に迫っていた。彼女は目を閉じてしまいそこから避けようとしなかった。


ドンッ!と大きい音が聞こえた。でも私は痛みを感じなかった。それにその音は私じゃなくて少し前の方で聞こえた。ゆっくりと目を開けると武縄さんがそのボールを蹴り返していた。


「危ないだろ、(かぜ)!」


「ごめんって春。それに隣の彼女さんもごめんなさい!俺のミスだ。今度何か奢るからまた明日な!」


「ああ、また明日」


風はボールを拾い、グラウンドへ戻っていった。


「大丈夫か、諸此さん!?」


春は彼女の両手を掴みながら傷がついてないか身体をじっくりと見ていた。段々と恥ずかしくなり頬を赤くしながら彼女は彼の顔に手を添えた。


「わかった、わかったから!傷は…ないから…大丈夫です」


春は何で顔を隠すんだと思いながらも彼女の返答に頷いてそれぞれ帰って行った。そして1週間後、学級委員の顔合わせ、初めての委員会が行われた。

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