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処刑された『闇魔法使い』の姉を救うため、死に戻った『光魔法使い』の妹は運命に抗う ~役立たずと捨てられた義妹ですが、今度は絶対に守り抜きます~  作者: 東明時裕夜
第三章 闇魔法の理解者と地下図書室の秘密

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第27話 幻級の治癒魔法

 ハーヴェー様が掲げる灯り用の魔石が、地下の広大な空間を照らし出す。

 そこは、まるで時が止まったかのような静寂に包まれていた。


「……すごい……」


 私――アミアは、思わず息を呑んだ。

 石造りの高い天井、壁一面に刻まれた強化魔法陣。そして、中央に鎮座する異様な存在感。

 そこにいたのは、巨大なはがねの塊だった。


「ゴーレム……?」

 、

 お姉様が、驚きの声を上げる。

 部屋の奥に、人間よりも二回り以上大きな、人型のゴーレムが一体、静かにたたずんでいた。


 全身が分厚い鋼で構成されており、無数の傷跡と塗装の剥げが、かつての激闘を物語っている。

 その周囲には、四足歩行の獣を模した魔獣型のゴーレムが数体。その姿は――私たちが森で遭遇した


『マッドウルフ』にそっくりだった。


「ええ。これらは、アミィエルが訓練相手として使っていたゴーレムたちです」


 ハーヴェー様が、懐かしそうに人型ゴーレムの装甲に触れた。


「さあ、早速起動させてみようか。……と言いたいところなのですが、動力がありませんね」


 ハーヴェー様がハッチを開けると、そこにあるはずの魔石が抜かれていた。


「予備の魔石がこの部屋のどこかに保管されているはずです。棚や箱の中を探してみましょう」


 ハーヴェー様の言葉に従い、私とお姉様は手分けして捜索を始めた。

 私は、部屋の隅にポツンと置かれた、古びた木製の机へと吸い寄せられた。


(……あ)


 そこには、一冊のノートが置かれていた。

 前回、ハーヴェー様が言っていた、母アミィエルが残した研究記録だ。


『治癒魔法に関する考察と実践 アミィエル・レフィーナ』


 表紙に書かれたその文字は――私と同じ、少し癖のある丁寧な筆跡だった。


 顔も覚えていない母と、文字の書き方まで似ているなんて。目頭が熱くなるのを感じながら、私は震える手でそのページを開いた。


『治癒魔法。それは光魔法使いの中でも、選ばれたごく一部の者にしか発現しない「幻級ファントム・クラスマジック」の異能である』

『光魔法は攻撃に特化していると思われがちだが、その本質は「活性化」にある。生命の源を活性化させ、本来備わる治癒の力を限界まで引き出す。それが治癒魔法の正体だ』


 そこには、私が求めていた力の詳細が記されていた。


『下位治癒魔法:ヒール』

 ――切り傷や打撲などの外傷の修復。魔力消費は比較的少ない。

 ――私の魔力・体力基準で、一日に30回から40回までは使用可能。

『上位治癒魔法:ハイヒール』

 ――猛毒の浄化、魂の乱れの鎮静や魅了の解除、欠損部位の再生。

 ――魔力消費が極めて激しい。一日に3回が限界。

「……猛毒の浄化……魂の乱れの鎮静や精神と心の修復……!」

 その言葉を見た瞬間、私の脳裏にお父様の顔が浮かんだ。


 いつも目が虚ろで、心を霧に閉ざされているお父様。あれは、シャリアが盛ったヒプノ草の強力な催眠薬と暗示によるものだ。


(……これだわ……!)


 自室でまとめた『作戦計画書』を思い出す。お父様を救うには「王宮の最高位の浄化薬」か「幻級の治癒魔法」が必要だった。


 現実味のない『王宮の宝物庫から浄化薬を盗み出す』なんて無謀な手段に頼らなくても、私がこの『ハイヒール』を習得できれば、私の手でお父様を救い出せる!

 私は希望に胸を震わせ、食い入るように続きを読んだ。


『ただし、毒素の分解と精神の修復は同時に行われるため、術者への負担は倍増する』

『深く根付いた呪いや、長期間投与された毒物の場合、一度の施術では完治しないこともある。根気強い治療が必要だ』


 一度では治せないかもしれない。

 不安がよぎる私を励ますように、母の走り書きが残されていた。


『だが――諦める必要はない』

『治癒魔法は、術者の「想い」に強く呼応する。対象を救いたいと願う強い意志、慈愛、そして「愛」があれば――ことわりを超えた奇跡を発揮する可能性がある』

(……愛があれば……)


 心臓がドクンと跳ねる。

 お母様が遺してくれたこの魔法と、私のお父様を想う気持ちがあれば、シャリアの支配からお父様を救い出せるかもしれない。


 しかし――ノートの最後。あの絵本に描かれていたような、さらに上位の魔法……死者すら蘇らせるという『蘇生魔法』に関する記述があったであろう数ページは、焼け焦げた跡を残して無残に破り取られていた。


(……どうして、ここだけ……?)


 ふと、先ほど地下図書室で聞いたミリアナさんの言葉が蘇る。


『その強大さゆえに、ほとんどの幻級魔法には私のように重い制約が伴う』

(……もしかして、ここには……治癒魔法の先にある、あまりにも重すぎる『制約』の真実が書かれていたの……?)


 その破られたページの痕跡を見た瞬間、私の心の中でくすぶっていた疑念が、明確な『確信』へと変わった。


(……やっぱり。お母様は、ただの流行り病で亡くなったんじゃない。戦場でこの魔法を使い続け……その『代償』を払い続けたせいで、亡くなったんだわ)


 お姉様が鋭く指摘した時、ハーヴェー様がキッパリと否定したのは、私にその重い呪いを背負わせないため……母の遺志を継いだ、あの人なりの不器用で優しい嘘だったのだ。


 お母様は、私に「人を救う希望」だけを遺し、私が決してその禁忌に触れないように、恐ろしい「絶望」を自らの手で隠した。


(……このこと、お姉様に言わなきゃ……)


 そう思いかけたけれど、私はギュッとノートを握りしめ、小さく首を横に振った。


(……だめだ。絶対に言えない。もし『治癒魔法の代償が命に関わるものだ』なんて知ったら、誰よりも優しいお姉様は、自分やお父様がどうなろうと、何があっても私にこの魔法を使わせないようにする)


 先ほどの地下図書室で浮かんだ「もしそうだとして、私はどうするのか」という問い。

 その答えは、もう出ている。

 私には、この魔法が必要なのだ。


 脳裏に、一周目の凄惨な最期の記憶が鮮烈に蘇る。


 地下牢の階段。私を庇ってシャドウの『透明な冷刃』に貫かれ、血だまりの中に倒れたアメリアさん。絶望の中で断頭台に散ったお姉様。


(……大事な人が目の前で死んでいくのは、もう見たくない。……二度とごめんだわ)


 二周目のこの世界で、もう誰も失わないために。一周目の私のように、ただ泣き叫ぶだけの無力な子供で終わらないために。いざという時は、母と同じように自分の命(代償)を削ってでも、大切な人たちを救い出す。

 その覚悟は、もうできている。


(……ごめんなさい、お姉様。この秘密だけは、絶対に黙っておきます)

「アミア、そっちに魔石はあった?」


 お姉様の声に、私はハッと我に返った。

 いけない、考え込んでしまっていた。


「いえ、魔石はまだです! ……でも、お母様の研究ノートを見つけました!」


 私はそう答えながら、お姉様に見られる前に、母のノートを大切に肩にかけた革製の鞄の中にしまった。

 これは後でじっくり読み込んで、必ず習得しなければならない。

 母は、私に最強の武器を遺してくれていたのだ。


「……ありがとう、母さん」


 私は小さく呟いた。

 この知識は、私たちの未来を守るための盾であり、剣になるはずだから。


 その時。


「見つけたぞ! 予備の魔石だ!」


 ハーヴェー様の明るい声が、訓練所に響き渡った。

 その手には、自ら発光するような瑞々(みずみず)しい、青色の菱形ひしがたの魔石が握られていた。


「この青い魔石は特殊でね。稀に水魔法のような現象を引き起こすことがあるが、訓練にはちょうどいいだろう」


 ハーヴェー様は微笑みながら、部屋の中央に鎮座するゴーレムたちの方へと歩み出た。


「……さあ、始めましょうか」


 私は顔を上げた。

 母の足跡が残るこの場所で、運命を変えるための特訓が、今、幕を開ける。

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