幕間10 魔法兵団団長ナフィリア・アクティート
王都の城下町、中央広場近く。
そこに、王国の治安と国防を担う「魔法兵団」の本部がある。
威厳ある石造りの二階建ての建物だ。
その二階、団長執務室。
「あー、退屈。マジで退屈ね」
執務机に足を投げ出し、行儀悪く椅子を揺らしているのは、一人の女性だった。
鮮やかな桃色の髪と瞳。白を基調に青と黄のラインが入った洗練された軍服を着崩し、スリットの入ったスカートからは健康的な脚とガーターベルトが覗く。
彼女こそが、この魔法兵団を束ねる若き天才団長、ナフィリア・アクティートである。
「団長、足。行儀が悪いですよ」
隣で書類仕事を片付けているのは、オレンジ色の短髪をした細身の男。
副団長のレオ・アティンだ。彼は呆れたようにため息をついた。
「だってさぁ、レオ。最近平和すぎない? 魔獣の討伐依頼もないし、私の腕が鈍っちまうわよ」
「平和なのは良いことでしょう。それに、書類は山をなしております」
「ちっ、細かい字を見るのは苦手なのよ」
アクティーが不満げに鼻を鳴らした、その時だった。
バンッ!
執務室の扉が勢いよく開かれた。
「失礼します! 緊急の依頼です!」
息を切らして駆け込んできたのは、一人の男だった。
しかし、魔法兵団の制服ではない。それどころか、公爵家の正規兵ですらない。
革鎧に剣を帯びているが、その装備は統一感がなく、どこか薄汚れている。
――雇われの護衛(傭兵)だ。
男の顔面は蒼白で、脂汗を流し、極度の恐怖に震えていた。
「あ? なんだ、騒がしいわね。……どこのゴロツキ?」
アクティーが足を下ろし、怪訝そうに眉をひそめた。
「た、助けてくれ……! 魔法兵団に捜索をお願いしたいんだ!」
「リィエル公爵家の……令嬢お二人が……『精霊の森』で行方不明になっちまった!」
「公爵家の令嬢? お前のような男が護衛を?」
レオが鋭い視線を向ける。公爵家の令嬢の護衛にしては、あまりにも質が悪い。
「や、雇われたんだよ! 奥方様に! でも……話が違う!」
男はパニック状態で叫んだ。
「ピクニック中に魔獣が現れて……俺たちが応戦してる間に逸れちまった! 俺たちも仲間がやられて、命からがら逃げてきたんだ!」
「あんな……あんな化け物が出るなんて聞いてねえ!」
その言葉を聞いた瞬間、アクティーの瞳から退屈の色が消えた。
ギラリと、猛獣のような光が宿る。
「……おいおい。子供が森で一晩迷子だと?」
「しかも、雇われ護衛が逃げ出すほどの魔獣付きかよ。……面白くねぇ冗談ね」
アクティーは椅子を蹴って立ち上がった。
「レオ! 魔法兵団、出るわよ! 数隊を率いて森へ向かう!」
「えっ、今からですか? 書類は……それに、この男の話が本当かどうかも……」
「後回しよ! 公爵家の令嬢だろうが、平民の子供だろうが関係ない。子供の命がかかってんのよ!」
「問答無用で準備しなさい!」
アクティーが一喝する。
「……はぁ。分かりました、アクティー団長。すぐに出します」
レオは諦めたように、しかし手際よく通信魔道具を取り出し、部下たちに指示を飛ばし始めた。
男の素性や雇い主の意図はどうあれ、事態が切迫しているのは男の怯えようから明白だった。
「待ってなさいよ、お嬢ちゃんたち。……子供を襲う外道な魔獣は、私が木っ端微塵にしてやるわ」
アクティーは不敵に笑い、マントを翻して部屋を出た。
***
――精霊の森。
アクティーとレオは、部下たちよりも遥かに速い速度で森を疾走していた。
身体強化魔法をかけた彼らの脚力は、馬すら凌駕する。
「団長、魔力反応あり! 前方です!」
「おうよ、デカいのがいるわね!」
木々の隙間から、巨大な影が見えた。
大型のマッドウルフ。
そして――泥だらけのドレスを着た小さな少女が、気絶したままのもう一人の少女を必死に庇い、盾になろうとしている姿が目に映った。
「――っ!」
アクティーの脳内で、何かが弾けた。
魔力も体力も限界のはずなのに、死を覚悟した強い目で、大切な人を守ろうとするその姿。
「……気に入ったわ。その根性!」
アクティーは地面を爆発的に蹴った。
音速に近い踏み込みで、巨大な獣の頭上へと跳躍する。
ドォォォォォン!!
凄まじい衝撃音が森に轟き、巨大なマッドウルフがボールのように弾き飛ばされて地面を転がる。
「……っ!」
泥と魔獣の返り血で汚れきったライトブルーの髪の少女が、驚愕の表情で目を開け、こちらを見上げた。
アクティーは背中を向けたまま、親指を立ててニカッと笑いかける。
「間に合ったわね。……怪我はない、お嬢ちゃんたち?」
ここからは大人の――王国最強の魔法兵団の仕事だ。
こうして、絶望の森で孤立していたアミアとネフェリアは間一髪で救出され、リィエル公爵家への帰




