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処刑された『闇魔法使い』の姉を救うため、死に戻った『光魔法使い』の妹は運命に抗う ~役立たずと捨てられた義妹ですが、今度は絶対に守り抜きます~  作者: 東明時裕夜
第一章 全て失った義妹令嬢

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第12話 アミアの祈りが生んだ奇跡

「あなたは……どこまでお姉様を愚弄ぐろうすれば気が済むの……! お姉様は、あなたの道具なんかじゃない!」


 私は叫び、涙でぼやける視界を拭いながら、シャドウを強く睨みつけた。

 私の言葉に、シャドウは口元を歪めてわらう。 


「ふん、道具じゃない、か。だが彼女は立派な呪われた凶器になったよ」

「違う! お姉様は……!」


 私は、ありったけの憎しみを込めて叫んだ。涙が止まらない。


「お姉様の闇魔法は……私を守ってくれた……! 優しい魔法だった……! それなのに……あなたは……!」


 シャドウは肩をすくめる。


「結局のところ、君のお姉さんも僕と同じなんだよ。人殺しの力を持ち、世界に仇なす存在。君がいくら美化しようと、彼女の手は汚れている」

「あなたも……闇魔法使いなのに……! お姉様と同じ……闇魔法使いなのに……! あなたと……お姉様を……一緒にしないで……!」


 シャドウの目が、不快そうに細められた。

 痛いところを突かれたのか、それとも単に子供の戯言だと呆れたのか。


「ほう……面白いことを言うね。確かに、僕は彼女のように野蛮な『闇の弾丸ダークショット』などの一般的な闇魔法は一切使えない」


「……え……?」

「誰もが二つの属性を持つのが当たり前のこの世界で……僕は精神支配と、ある偏った力に特化しすぎたせいで、単純な破壊の闇魔法すら撃てない『一属性の欠陥品』だからね」


 男の瞳の奥に、どす黒い執念のようなものが渦巻く。


「笑えるだろう? だからこそ、あの娘の強大な破壊力を僕の『大砲』とし、手駒として利用したのさ。二属性を誇る優秀な連中を、底辺から嘲笑って蹂躙するためにね」


 シャドウは口元を三日月に歪める。


「でも――結果は同じだよ。ネフェリアは処刑される。君も死ぬ。闇魔法使いは、災厄の象徴――それは変わらない」

「あなたは……絶対に許さない……!」

「ふふ、いいね。その目――憎しみに満ちている。最高の表情だ」


 シャドウは満足げに頷くと、再び右手を掲げた。

 今度は炎ではない。空気が凍りつくような冷気。

 無数の『冷たい刃』が、再び虚空に現れる。


「さて、お喋りは終わりだ。そろそろ死んでもらおうか。姉さんの待つ地獄へ送ってあげるよ」


 シャドウが右手を軽く振る。


 ――ヒュッ。


 空気を切り裂く、鋭い音。

 足元の影が、不気味に揺らめいた。


「……え?」


 次の瞬間。


 何もない空間から、透明な冷たい刃が――無数に現れ、私に向かって飛んできた。


「……っ!」


 私は咄嗟に叫んだ。

 見抜かれていようと関係ない。私には、これしかないのだ。


「炎よ、我に力を――火球ファイアボール!」


 私の手から――赤い炎の球が飛び出した。学園で必死に練習した、唯一まともに使える攻撃魔法。


 ゴォッ!


 炎が唸りを上げて、透明な刃に向かって飛ぶ。

 しかし――。


 ジュッ。


 炎が刃に触れた瞬間、まるで底なしの闇に飲み込まれるように、音もなく掻き消えた。


「……え……?」


 私は、息を呑んだ。


(……消えた……? 相殺されたんじゃない……吸い込まれた……!?)


 その見えざる凶刃は、私の炎を飲み込んだまま、速度を落とすこともなく真っ直ぐに飛んでくる。


「ほう、火魔法か。左の魔眼で見抜いていたとはいえ、光魔法使いのくせに器用なことだ。さすがは常識通りの『二属性』ってところかな」


 シャドウが、愉快そうに笑った。余裕の笑み。


「でも、無駄だよ。二属性ごときが束になっても……僕が極限まで研ぎ澄ませた『一つ』の力の前にはね」


 そして――両手を掲げた。


 さらに無数の不可視の刃が、足元の影から次々と現れた。


「消えろ」


 刃が、一斉に飛んでくる。


火球ファイアボール!」


 私は必死に炎を放つ。


 ジュッ。


 だが――またしても吸い込まれた。一本しか止められない。

 残りの刃が、津波のように迫り来る。


(……もう一度……!)


 私は、手を前に出した。

 火だけじゃない。私には、もう一つの力がある。

 さっき、シャドウが「脅威だ」と言った、この力がある。


(……光よ……!)


 心の中で叫ぶ。


(……お願い……!)


 魔力を練る。手のひらに、全身全霊の力を込める。

 魔力選定の儀で判明した、光魔法。

 まだ制御もできない。攻撃魔法として使えるかどうかも分からない。


 でも――今は、これしかない。


「光よ、我に力を――光の弾丸ライトショット!」


 私は、祈るように呪文を唱えた。

 手のひらに、眩い光が集束する。けれど――実戦で使ったことのない魔法の構築は、あまりにも遅すぎた。


 だが。


 ザシュッ!


 魔法が放たれるよりも早く。

 一本の刃が――足を深く切り裂いた。


「きゃっ!」


 激痛が走る。足の力が抜け、体勢が崩れる。

 集中が切れ、練り上げた魔力が霧散していく。

 呪文が――途切れた。


 ドスッ!


 二本目――肩に突き刺さった。骨が砕ける音。


「……っ!」


 透明で、冷たい。

 けれど、その刃の切っ先からは、不気味な黒いもやが滲み出ていた。


(……火が……効かない……何なの……これ……!?)


 そして――。


 ズプッ。


 三本目が――お腹に――深く、深く突き刺さった。


「がはっ……!」


 焼けるような激痛と共に、視界が赤く染まる。

 私は、糸の切れた人形のように石畳に崩れ落ちた。

 血がどくどくと溢れ出し、冷たい床を広げていく。


「威勢は良かったけど、実力が足りなかったね」


 シャドウの声が、遠くから聞こえる。


(……何だったの……今の……)


 意識が薄れていく中で、私は必死に考えようとした。

 透明で、冷たい刃。

 けれど、魔法の気配はなかった。

 私の炎は、刃に吸い込まれて消えた。


(……わからない……何も……)


 足音が遠ざかっていく。彼は、トドメを刺す必要すら感じていない。


「じゃあね、アミア・レフィーナ。お姉さんと仲良く地獄で絶望するといい」


 シャドウの足元の影が、まるで生き物のようにうごめき、大きく広がった。

 ズブズブ……という不気腐な音と共に、彼の体が影の中へと沈んでいく。


「……ま……て……」


 私が震える手を伸ばすよりも早く。

 シャドウの姿は完全に影に飲み込まれ、フッと跡形もなく消え失せた。


 静寂が戻った階段に、私とアメリアさんだけが取り残された。

 身体が動かない。声も出ない。

 意識が、急速に闇へと溶けていく。


(……ごめんなさい……)


 涙が、頬を伝い落ちる。


「……ごめんなさい……アメリアさん……お姉様……」 


 私の目から、光が失われていく。


「……私、勝てなかった……」

「……捕まえる事が……できなかった……」


 悔しい。

 何も守れなかった。何も変えられなかった。

 ただ無力に、悪意に弄ばれて終わるだけの人生。


(……もし……)


 消えゆく意識の中で、魂が叫んだ。


(……もし、もう一度……)


 やり直せるなら。

 神様、お願い。


(……お姉様を……守りたい……)

(……アメリアさんも……守りたい……)


 あんな結末、認めない。あんな理不尽、許さない。


(……シャドウ……絶対に……許さない……)

 今度こそ。 

(……今度こそ……)

(……必ず変える……この残酷な未来を……)

「……お姉様……」

「……アメリアさん……」


 意識が途切れる寸前、私は祈った。


「……待っていて……」


 か細い声で、誓いを呟く。

 呼吸が止まり、心臓が――止まる。

 冷たい床。

 私の血が、アメリアさんの血と混ざり合っていく。 


 最期の涙が、頬を伝う。

 意識が、シャドウの言う通りの深い絶望の闇へと堕ちていく。

 何もかもが――終わる。

 ――はずだった。


 その時。

 私の心の奥底、魂の核で、何かが眩く弾けた。

 それは、死の間際に目覚めた、奇跡の光。

 光魔法の――『時』すら超越する、本当の力だった。

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