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序章(2)星降る夜の不安

 ――一方、その頃。


 私は女子寮一階の一人部屋で、夜空を眺めていた。


 長いライトブルーの髪が、夜風に揺れる。


 私の名前は、アミア・ファミル。ファミル伯爵令嬢で、16歳。魔法学園の一年生。


 窓の外には、レオニス王子の屋敷が見える。今夜、そこで卒業パーティーが開かれているんだ。


 私は一年生だから、招待されていない。でも、それでいいと思っていた。


(……お姉様、きっと今日も注目されてるんだろうな)


 お姉様――ネフェリア・リィエル。


 私の大好きな、義理の姉。血は繋がっていないけれど、幼い頃から一緒に育った。


 私が5歳の時、リィエル公爵家の養女になった。


 ファミル伯爵家の魔道具技術とリィエル公爵家の魔法薬技術を結びつけ、王族への影響力を強めるための政略的な取り決めだったと聞いている。


 私はその証として養女になった。ただし、姓は「ファミル」のまま。


 当時8歳だったお姉様は、今ではもうすぐ19歳。レオニス王子の婚約者で、誰もが認める優雅な令嬢だ。


 そして今夜、お姉様の卒業パーティーが開かれている。


 幼い頃は、本当に仲が良かった。中庭で一緒に遊んだり、お姉様が優しく微笑んでくれたり。


 けれど、私が13歳の頃からだろうか――お姉様と過ごす時間が少しずつ減っていった。14歳の時、お姉様は魔法学園に入学して忙しくなって、ゆっくり話す機会も少なくなった。 


 それでも、たまに会う時のお姉様は相変わらず優しかった。


(今頃、王子様と踊ってるのかな……)


 お姉様は本当に美しい人だ。赤い長髪に赤い瞳、凛とした佇まい。どこに出ても恥ずかしくない、完璧な令嬢。


(きっと、誰よりも輝いてる)


 この国には、炎・光・水・氷・風の五つの属性が存在する。誰もが生まれながらに持つ力。


 私は火と光。


 光魔法――100年に一人しか現れないと言われる、稀少な魔法。


 15歳の魔法試験で判明した時、周囲は驚いていた。

 でも、私にとっては特別な感覚はない。ただの魔法の一つ。


 お姉様は水魔法しか使えない。


 この国では二つ以上の魔法を持つのが当たり前だけれど、お姉様は水魔法だけ。でも、私にとっては、お姉様はいつも優しくて完璧な姉だ。


 そして――忌み嫌われた”闇”。


 闇魔法だけは、昔から災厄の象徴とされてきた。


 歴史書には、闇を扱った者が国を滅ぼした記録ばかりが残っていて、人々はその力を恐れて、遠ざけて、存在すら否定しようとする。


 でも私は、そんな恐ろしい魔法のことは考えもしなかった。


 窓の外の星が、きらきらと瞬いている。


(明日になったら、お姉様にパーティーの話を聞こう)


 きっと、楽しそうに話してくれるはずだ。


 ――その時。


 廊下の向こうから、誰かが走る足音が聞こえた。軽い足音じゃない。焦りと緊張が混じった、必死の足音。


(……誰? こんな夜に……)


 私は振り返った。胸の奥が、理由もなくざわついた。


 足音はだんだん近づいてくる。そして――私の部屋の前で止まった。


(まさか……私の部屋……?)


 心臓が早鐘を打つ。何か、悪いことが起きた気がする。


 この時の私はまだ知らなかった。


 姉が断罪され、倒れ、拘束されていることも。

 この後訪れる者が、私に残酷な真実を告げることも。


 そして、この先――姉の処刑を止められず、初めて会った親友が私を庇って死に、黒幕に殺され、私が11歳に”死に戻る”未来さえも。


 私はまだ、何ひとつ知らなかった。

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