第十二話 地下図書室での訓練
――魔獣事件から4日後
お姉様の部屋に着くと――お姉様が、窓辺に座っていた。
外を眺めている。赤い髪が、陽射しを受けて輝いている。
「お姉様」
私が声をかけると、お姉様が振り返った。
「アミア! どこに行っていたの?」
「……ごめんなさい……少し散歩していました……」
私は、嘘をついた。地下のことは――まだ、言えない。
お姉様を心配させたくない。シャリアの秘密も、まだ時期じゃない。
「そう……心配したわ」
お姉様が、優しく微笑む。
「さあ、こっちにいらっしゃい」
お姉様が、隣の椅子を指差す。私は、お姉様の隣に座った。
しばらく――二人で、窓の外を眺めていた。
庭の景色。木々。青い空。平和な風景。
でも――私の心は、落ち着かなかった。
地下で見たもの。シャリアの秘密。帝国への薬の販売。
そして――これからのこと。
***
「……お姉様」
私は、意を決して口を開いた。
「はい?」
お姉様が、私の方を向く。
「……お姉様と……一緒に……隠れて魔法を練習したいんです……」
「魔法を……練習?」
お姉様が、不思議そうな顔をする。
「はい」
私は、強く頷いた。
「私も……もっと強くならないといけないんです……」
「それに……お姉様も……」
私は、お姉様の目をまっすぐ見つめた。
「……お姉様の力を……認めてくれる人がいれば……きっと……」
「……アミア?」
「もし、王族が――」
私は、言葉を選んだ。
「――いえ、二度目で……何とかして……」
私は、小さく呟いた。
(……アメリアさんと出会えば……きっと……)
一周目では――アメリアさんは、大臣の娘。
真面目で優しくて、正義感が強い人。金髪に水色の瞳。氷魔法使い。
もし、アメリアさんがお姉様の力を知ったら――きっと、理解してくれる。
そして――お姉様を守ってくれるかもしれない。
でも――それは、まだ先の話。今は――まず、私たちが強くなること。
「……お姉様」
私は、もう一度言った。
「一緒に……魔法を練習しましょう……」
「でも……」
お姉様が、困ったような顔をする。
「……私の魔法は……闇魔法……」
「……使っちゃいけないって……約束したじゃない……」
「違います」
私は、首を振った。
「練習するだけです……人に見せなければいいんです……」
「それに……」
私は、お姉様の手を握った。
「お姉様の力は……悪いものじゃないです……」
「……アミア……」
「だから……一緒に強くなりましょう……」
私は、強く言った。
「そして……いつか……お姉様の力を……認めてくれる人を見つけましょう……」
お姉様は――しばらく、黙っていた。
そして――小さく微笑んだ。
「……ありがとう……アミア……」
お姉様の赤い瞳が――優しく光る。
「……分かったわ……」
「……一緒に……練習しましょう……」
「本当ですか!?」
私は、嬉しそうに叫んだ。
「ええ」
お姉様が、頷く。
「でも……どこで練習する?」
「……それは……」
私は、考え込んだ。
(……どこで練習すれば……?)
屋敷の中では――誰かに見られる危険がある。
庭も――メイドや使用人が通る。森は――魔獣がいる。
(……安全で……誰にも見られない場所……)
私は、考えた。そして――ある場所を思い出した。
「……お姉様」
私は、顔を上げた。
「……地下図書室は……どうでしょう……?」
「地下図書室……?」
お姉様が、考える表情をする。
「ああ……屋敷の西側にある……」
「はい」
私は、頷いた。
リィエル公爵家には、地下図書室がある。古い本がたくさん保管されている場所。
あまり人が来ない。静かで、広い。
そして――石の壁に囲まれているから、魔法を使っても安全。
「でも……」
お姉様が、心配そうに言う。
「地下図書室は……お母様の許可がないと……」
「大丈夫です」
私は、笑顔を作った。
「私たちは……本を読みに行くんです……」
「勉強のために……」
「……なるほど……」
お姉様が、納得したように頷く。
「それなら……怪しまれないわね……」
「はい」
私は、強く頷いた。
「では……明日から……地下図書室で練習しましょう……」
「……分かったわ……」
お姉様が、微笑む。
そして――私は、心の中で決意していた。
(……お姉様を……強くする……)
(……そして……いつか……)
(……お姉様の力を……認めてくれる人を……見つける……)
一周目――お姉様は、学園でシャドウに出会い、洗脳された。
地下図書室――それが、全ての始まりだった。
でも――二度目は、違う。
地下図書室は――今から、私たちの訓練場になる。
お姉様が学園に入る前に――強くなる。
心を強く、魔法を強く。
そして――いつか――アメリアさんと出会う。
アメリアさんなら――きっと、お姉様を理解してくれる。
お姉様の力を認めてくれる。そう信じて。
***
【翌日――地下図書室へ】
翌朝。
私とお姉様は、朝食を済ませた後――地下図書室へ向かった。
「お母様、私たち、地下図書室で勉強してきます」
お姉様が、シャリアに告げる。
「そう? いってらっしゃい」
シャリアが、優しく微笑む。でも――その目は――何かを探っているように見えた。
私は――警戒しながら、シャリアに頭を下げた。
そして――お姉様と一緒に、屋敷の西側へ向かった。
廊下を歩く。そして――目立たない場所にある、扉に辿り着いた。
「ここね」
お姉様が、扉を開ける。中には――下へ続く階段。
私たちは、階段を降りた。石の階段。ひんやりとした空気。
そして――階段を降りきると――広い空間に出た。
地下図書室。
石の壁に囲まれた、広い部屋。天井は高く、アーチ状になっている。
壁には――無数の本棚が並んでいる。
古い本。魔法の本。歴史の本。様々な知識が、ここに眠っている。
「……すごい……」
私は、思わず呟いた。一周目では――ここまでじっくり見たことがなかった。
「ここなら……誰にも見られないわね」
お姉様が、周りを見回す。
「はい」
私は、頷いた。
地下図書室は――普段、ほとんど人が来ない。
掃除のためにメイドが来るくらい。でも――今は、誰もいない。
「では……練習を始めましょう」
お姉様が、部屋の中央へ歩く。私も、ついていく。
広い空間。ここなら――魔法を使っても大丈夫。
「まず……私から……」
私は、手のひらを前に出した。そして――集中する。
魔力を練る。
「……光よ……」
手のひらから――淡い光が灯る。
「ライトニングショット!」
光の玉が――飛び出した。壁に向かって。
そして――命中。
パシッ。
光の玉が、壁に当たって消える。
「……すごいわ、アミア……」
お姉様が、驚いた顔をする。
「11歳で、もうこんなに……」
「……まだまだです……」
私は、首を振った。
「もっと……強くならないと……」
そして――お姉様の方を見た。
「……お姉様も……やってみてください……」
「……でも……」
お姉様が、躊躇する。
「大丈夫です」
私は、優しく言った。
「ここには……誰もいません……」
「それに……私が見ています……」
「……分かったわ……」
お姉様が、深く息を吸う。
そして――手のひらを前に出した。集中する。
そして――お姉様の手から――黒い魔力が溢れ出した。
闇魔法。
「……ダークショット……」
お姉様の声が、小さく響く。黒い弾丸が――飛び出した。
壁に向かって。そして――命中。
ドスッ。
重い音を立てて、壁に穴が開く。
「……っ」
お姉様が、驚いた顔をする。
「……すごい……威力……」
私も、驚いた。お姉様の闇魔法は――私の光魔法よりも、ずっと強い。
壁に、深い穴が開いている。
「……お姉様……」
私は、お姉様に近づいた。
「……お姉様の力は……すごいです……」
「でも……」
お姉様が、悲しそうな顔をする。
「……これは……災厄の魔法……」
「違います」
私は、強く言った。
「お姉様の力は……悪いものじゃないです……」
「力に……善悪はありません……」
「使う人の心次第です……」
「……アミア……」
お姉様の目から――涙が溢れそうになる。
「だから……」
私は、お姉様の手を握った。
「一緒に……強くなりましょう……」
「そして……いつか……お姉様の力を……認めてくれる人を……見つけましょう……」
お姉様は――小さく頷いた。
そして――私たちの秘密の訓練が――始まった。




