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処刑された『闇魔法使い』の姉を救うため、死に戻った『光魔法使い』の妹は運命に抗う ~役立たずと捨てられた義妹ですが、今度は絶対に守り抜きます~  作者: 東明時裕夜
第二章 魔獣事件再び、変えられない運命

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第七話 シャリア・リィエル

 リィエル公爵家の庭。春の陽射しが、色とりどりの花々を照らしている。


 私――ネフェリア・リィエルは、一人で魔法の練習をしていた。


 16歳。魔法学園に入学して、数ヶ月が経った頃。


「……ふぅ……」


 手のひらから、水が流れ出す。


 水魔法。


 それが、私に唯一許された魔法。


 水は空中で形を変え、美しい軌跡を描く。透明で、清らかで――


 でも――


(……水魔法だけ……)


 心の中で、呟く。


 他の貴族の子どもたちは、二つか三つの魔法を使える。火と風。氷と水。


 でも、私は――水魔法しか使えない。


 いや――


(……本当は……もう一つ……)


 私には、もう一つの魔法がある。


 闇魔法。


 でも――それは、絶対に隠さなければならない。


「絶対に隠しなさい」


 お母様――シャリア・リィエルは、何度も何度も、そう言ってきた。


「バレたら、あなたは処刑される」


 冷たい声。赤い瞳。


 お母様の言葉は、絶対だった。


 だから――私は、ずっと隠してきた。


 水魔法しか使えないふりをして。完璧な公爵令嬢として。


 でも――


(……本当は……)


 本当は――闇魔法を使いたい。


 心の奥底で、闇の力が囁いている。


 使って。解放して。隠す必要なんてない――


「……っ」


 私は、頭を振った。


(……だめ……)


 絶対に、使ってはいけない。


 お母様に見つかったら――処刑される。


 だから――


 水魔法だけを、練習する。


 ***


 ――学園での日々。


 私は、一人で図書室にいることが多かった。


 水魔法しか使えない公爵令嬢。


 そう噂されて、他の生徒たちは距離を置いている。


「公爵令嬢なのに、水魔法だけなんて」

「王子の婚約者なのに、弱いわね」

「魔法の才能がないのかしら」


 そんな声が、廊下から聞こえてくる。


 私は――何も言えなかった。


 反論できない。本当のことを言えない。


(……闇魔法を使えるなんて……言えるわけがない……)


 だから――いつも、図書室に籠もっていた。


 一人で。静かに。誰とも話さず。


 友達は――ほとんどいなかった。


 誰も、私に話しかけてくれない。


 ある日の昼下がり。


 図書室で、いつものように一人で本を読んでいると――


「あら、ネフェリアさん?」


 明るい声が響いた。


 振り返ると――金髪の少女が立っていた。


 白と青の制服。金髪と綺麗な水色の瞳。


「……アメリア……」


 私は、わずかに目を見開いた。


 アメリア・カーフェーン。大臣の娘。


 学園の中で――数少ない、私に優しくしてくれる人。


「久しぶりね、ネフェリアさん!」


 アメリアは、嬉しそうに笑った。


「……久しぶり……」


 私は、小さく答えた。


 アメリアとは――友人だった。


 でも――会えるのは、年に2回か3回程度。


 アメリアは大臣の娘として、いつも職務に追われている。


 私も、完璧な公爵令嬢として、誰にも弱みを見せられない。


 だから――頻繁には会えなかった。


「最近、どうしてた?」


 アメリアが、隣に座った。


「……相変わらず……」


 私は、小さく答えた。


「そう……」


 アメリアは、少し心配そうに私を見た。


「ネフェリアさん……顔色が悪いわ。大丈夫?」


「……大丈夫……」


 私は、笑顔を作った。


 完璧な公爵令嬢の笑顔。


 でも――


(……本当は……大丈夫じゃない……)


 心の中では、叫んでいた。


 孤独で、辛くて、誰にも理解されなくて――


 でも――それを、アメリアにも言えなかった。


 言えるわけがなかった。


 闇魔法のこと。お母様の命令のこと。アミアの記憶を奪ったこと。


 全て――秘密だ。


「私も、最近忙しくて……」


 アメリアが、少し疲れたように笑った。


「大臣の娘って、大変なのよね。職務が多くて……なかなか学園に来られないの」


「……そう……」


 私は、小さく頷いた。


(……だから……会えないのね……)


 アメリアは――優しい。


 でも――忙しい。


 年に数回しか会えない。


(……それでも……)


 それでも――アメリアは、私の唯一の友人だった。


「また会えてよかったわ」


 アメリアが、優しく微笑む。


「……私も……」


 私は、小さく答えた。


 でも――


(……ごめんなさい……アメリア……)


 心の中で、謝る。


(……私は……あなたにも……嘘をついている……)


 本当の自分を――見せられない。


 闇魔法を隠している。妹の記憶を奪った。


 そんな私を――理解してもらえるはずがない。


「ネフェリアさん」


 アメリアが、私の手を握った。


「何かあったら……いつでも話してね」


「私……友達だから」


「……ありがとう……」


 私は、涙を堪えながら答えた。


 でも――


(……ごめんなさい……)


(……話せない……)


 本当のことは――話せなかった。


 アメリアとは、1時間ほど話した。


 他愛のない話。学園の話。妹のアミアの話。


「アミアさん、元気?」


 アメリアが、優しく尋ねた。


「……ええ……元気よ……」


 私は、笑顔を作った。


「そう。よかった」


 アメリアは、安心したように笑った。


(……アミア……)


 妹の顔が浮かぶ。


 記憶を奪った妹。


 でも――それも、言えなかった。


 やがて、アメリアは立ち上がった。


「ごめんなさい、ネフェリアさん。そろそろ職務に戻らなきゃ」


「……そう……」


 私は、寂しそうに答えた。


「また会いましょうね」


 アメリアが、優しく微笑む。


「……ええ……」


 私は、小さく頷いた。


 アメリアは、図書室を出ていった。


 私は――一人、残された。


(……また……一人……)


 孤独が、また戻ってきた。


 唯一の友人――アメリア。


 でも――年に数回しか会えない。


 そして――本当の悩みは、話せない。


(……私は……やっぱり……一人……)


 胸が、苦しい。


 ***


「ネフェリア」


 ある日、廊下でレオニス様に呼び止められた。


 銀髪。黒い瞳。冷徹な表情。


 私の婚約者――レオニス・レイフェルズ王子。


「……はい、レオニス様……」


 私は、礼儀正しく答えた。


「最近、魔法の成績が伸びていないようだが」


「……申し訳ございません……」


 私は、頭を下げた。


 レオニス様は、冷たい目で私を見た。


「水魔法しか使えないのか?」


「……はい……」


 嘘だ。


 本当は、闇魔法も使える。


 でも――言えない。


「……そうか。では、もっと練習するように」


 レオニス様は、それだけ言って立ち去った。


 私は――その場に立ち尽くした。


(……レオニス様……)


(……私のことを……何とも思っていない……)


 政略結婚。


 それは、分かっている。


 でも――


(……辛い……)


 誰も、私を見てくれない。


 誰も、私を理解してくれない。


 アメリアは――優しい。


 でも――年に数回しか会えない。


 そして――本当の悩みは、話せない。


 ***


 ――そして、あの日。


 授業が終わって、私は家に戻った。


 学園での一日。


 ほとんど誰とも話さず、一人で過ごした一日。


(……疲れた……)


 心が、重い。


 私は、庭に出た。


 夕暮れの庭。誰もいない、静かな場所。


(……ここなら……)


 私は、油断してしまった。


 木々に囲まれた、庭の奥。


(……誰も見ていない……)


 そう思った。


 そして――


 闇の力が、溢れ出した。


「……闇魔法……」


 小さく呟く。


 手のひらから、黒い光が漏れ出す。


 闇魔法――ダークショット。


 黒い弾丸が、形を成していく。


「……っ」


 久しぶりに使う闇魔法。


 その力が、心地よかった。


(……これが……本当の私……)


 そう思った瞬間――


「……ネフェリア……!」


 背後から、冷たい声が響いた。


 私は――凍りついた。


 振り向くと――


 お母様が、立っていた。


 赤い瞳。冷たい表情。


「……お、お母様……」


 私の声が、震える。


「闇魔法を……使っていたのね……」


 お母様の声は、氷のように冷たかった。


「……っ」


 私は、何も言えなかった。


 黒い弾丸は、木に当たって消えていた。


 お母様の冷たい声が、夜の庭に響いた。


「ネフェリア……」


 私は振り返る。


 お母様が、冷たい目で私を見つめていた。


「いつから、闇魔法を使っていたの?」


「……14歳の時です。アミアを助けるために……魔獣から守るために、初めて使いました」


「そう……」


 お母様は、ゆっくりと近づいてくる。


「あの子は……2年前のことを、覚えているのね?」


「……」


 私は何も言えなかった。


「そうね。じゃあ、その記憶を消すしかないわね」


 お母様は、小さな瓶を取り出した。


「それは……」


「何年か前に作った催眠薬の失敗作。まぁ違法だけどね」


 私の心臓が、激しく鳴る。


「ネフェリア、これをあの子に飲ませなさい」


「いやです。そんな事、私にできません」


「ダメよ、ネフェリア。闇魔法が王国や魔法学園にバレたらあなたもタダでは済まない」


「でも……」


「それに、これはアミアの為になるのよ。闇魔法を知っていたら、あの子も共犯になる。あの子を守るためよ」


 私は、唇を噛んだ。


「アミアの為に、これを紅茶に混ぜて飲ませて、私を呼びなさい」


「……はい」


 お母様の冷たい声が、さらに続いた。


「この催眠薬はね……実は、アレト伯爵にも使ったのよ」


「……え?」


 私は、信じられない思いで母を見つめた。


「……っ」


 そうだ――


 2年前。アミアが11歳の時。私が14歳だった。


 森で魔獣に襲われて、私が闇魔法で助けた。


 あの時――アミアは、私の闇魔法を見てしまった。


 そして今――アミアは14歳になった。


「じゃあ、これを使うしかないわね」


 お母様は、小さな瓶を取り出した。


「それは……」


「何年か前に作った催眠薬の失敗作。まぁ違法だけどね」


 私の心臓が、激しく鳴る。


「ネフェリア、これをあの子に飲ませなさい」


「いやです。そんな事、私にできません」


「ダメよ、ネフェリア。闇魔法が王国や魔法学園にバレたらあなたもタダでは済まない」


「でも……」


「それに、これはアミアの為になるのよ。闇魔法を知っていたら、あの子も共犯になる。あの子を守るためよ」


 私は、唇を噛んだ。


「アミアの為に、これを紅茶に混ぜて飲ませて、私を呼びなさい」


「……はい」


 お母様の冷たい声が、さらに続いた。


「この催眠薬はね……実は、アレト伯爵にも使ったのよ」


「……え?」


 私は、信じられない思いで母を見つめた。


「アミアのお父様に……?」


「そう。婚約の一週間前に、改良版を使ったわ。速効性のある、完璧な催眠薬よ」


「なぜ……」


「『私のことが好きになる』『結婚したくなる』――簡単な暗示よ。あの人、今では私に逆らえないわ」


 お母様は、冷たく笑った。


「ネフェリア、わかるでしょう? これは家族のためよ。公爵家の繁栄のため。あなたも、アミアも、みんなのためなのよ」


 私は、何も言えなかった。


 ただ――絶望だけが、胸に広がっていった。


 ***


(……アメリアは……知らないまま……)


 その想像が、胸を締め付ける。


 誰も――私を守ってくれない。


 アメリアは優しいけど、遠い。


 レオニス様は、冷たい。


 学園には、友達がいない。


(……私は……一人……)


 そして――もし私が処刑されたら――


(……誰も……悲しんでくれないだろう……)


 その絶望が、胸を締め付ける。


「……分かり……ました……」


 私は、か細い声で答えた。


 お母様は――わずかに頷いた。


「明日の夜、アミアに催眠薬入りの紅茶を飲ませなさい」


「そして、暗示をかけるのよ」


「『11歳の時の記憶は消えた』と」


「……はい……」


 私は、頭を下げた。


 涙が、溢れた。


 でも――やるしかなかった。


 アミアの記憶を――奪うしかなかった。


 自分を守るために。


 誰も守ってくれない私を――自分で守るために。


 ***


「……アミア……」


 私は、アミアの頭に手を置いた。


 そして――暗示をかけた。


「あなたは……11歳の時の記憶を忘れる……」


「お姉様が……闇魔法を使ったことを……忘れる……」


「お姉様は……水魔法しか使えない……」


「完璧で……優しい……お姉様……」


 涙が、溢れた。


「……ごめんなさい……」


「……ごめんなさい……」


 私は――アミアの記憶を奪った。


 お母様の命令で。


 自分を守るために。


 誰も守ってくれない私を――自分で守るために。


 でも――


(……これで……いいのか……?)


 心の中で、問いかける。


(……私は……妹を裏切った……)


(……大切な人の記憶を……奪った……)


 罪悪感が、胸を締め付ける。


 でも――もう戻せない。


 やってしまったことは、取り返せない。


 ***


 ――それから、数日後。


 アミアは、何も覚えていなかった。


「お姉様、おはようございます!」


 いつもと変わらない笑顔。


 11歳の時の記憶――私が闇魔法で助けたことを、完全に忘れていた。


「……おはよう、アミア……」


 私は、笑顔を作った。


 でも――心の中では、罪悪感に苛まれていた。


(……私は……何をしたんだ……)


 妹の記憶を奪った。


 大切な思い出を、消してしまった。


 学園に戻っても――何も変わらなかった。


 誰も、私に話しかけてくれない。


 レオニス様も、冷たいまま。


 アメリアとは――次に会えるのは、数ヶ月後だろう。


(……私は……一人……)


 でも――


(……仕方がない……)


 私は――その日から、完璧な姉を演じ続けた。


 アミアの前では、決して弱音を吐かず。


 学園では、決して本当の自分を見せず。


 アメリアには、決して本当の悩みを話さず。


 いつも笑顔で。


 優しく。


 でも――


 心の中では、ずっと泣いていた。


 図書室。


 私は、また一人で本を読んでいた。


 周りには、楽しそうに話す生徒たち。


 でも――私には、誰もいない。


(……アメリア……)


 友人の顔が浮かぶ。


(……また……会いたい……)


 でも――次に会えるのは、いつだろう。


 年に2回か3回。


 それくらいしか、会えない。


 そして――本当の悩みは、話せない。


(……私は……一人……)


(……ずっと……一人……)


 孤独の中で――


 私は、完璧な公爵令嬢を演じ続けた。

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