表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一度殺された義妹令嬢ですが、処刑された闇魔法使いの姉と私の未来を全力で変えたいと思います  作者: 東明時裕夜
第一章 全て失った義妹令嬢

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/18

幕間3 ネフェリア・リィエル

リィエル公爵家の庭。春の陽射しが、色とりどりの花々を照らしている。


私――ネフェリア・リィエルは、一人で魔法の練習をしていた。


16歳。魔法学園に入学して、数ヶ月が経った頃。


「……ふぅ……」


手のひらから、水が流れ出す。


水魔法。


それが、私に唯一許された魔法。


水は空中で形を変え、美しい軌跡を描く。透明で、清らかで――


でも――


(……水魔法だけ……)


心の中で、呟く。


他の貴族の子どもたちは、二つか三つの魔法を使える。火と風。土と氷。光と雷。


でも、私は――水魔法しか使えない。


いや――


(……本当は……もう一つ……)


私には、もう一つの魔法がある。


闇魔法。


でも――それは、絶対に隠さなければならない。


「絶対に隠しなさい」


お母様――シャリア・リィエルは、何度も何度も、そう言ってきた。


「バレたら、あなたは処刑される」


冷たい声。赤い瞳。


お母様の言葉は、絶対だった。


だから――私は、ずっと隠してきた。


水魔法しか使えないふりをして。完璧な公爵令嬢として。


でも――


(……本当は……)


本当は――闇魔法を使いたい。


心の奥底で、闇の力が囁いている。


使って。解放して。隠す必要なんてない――


「……っ」


私は、頭を振った。


(……だめ……)


絶対に、使ってはいけない。


お母様に見つかったら――処刑される。


だから――


水魔法だけを、練習する。


***


――学園での日々。


私は、一人で図書室にいることが多かった。


水魔法しか使えない公爵令嬢。


そう噂されて、他の生徒たちは距離を置いている。


「公爵令嬢なのに、水魔法だけなんて」

「王子の婚約者なのに、弱いわね」


そんな声が、廊下から聞こえてくる。


私は――何も言えなかった。


反論できない。本当のことを言えない。


(……闇魔法を使えるなんて……言えるわけがない……)


だから――いつも、図書室に籠もっていた。


一人で。静かに。誰とも話さず。


でも――


「ネフェリア様!」


明るい声が響いた。


振り向くと――アメリア・カーフェーンが立っていた。


「……アメリア……」


「一緒に勉強しませんか?」


彼女は、いつも笑顔で話しかけてくれる。


大臣の娘。氷魔法使い。誰にでも優しく、明るい性格。


学園の中で――唯一、私に優しくしてくれる人。


「……いいの……? 私なんかと……」


「何を言ってるんですか! ネフェリア様は、とても素敵な方ですよ」


アメリアは、そう言って笑った。


本当に――心から、そう思ってくれているような笑顔。


(……あなただけは……私を見下さない……)


心が、少しだけ軽くなる。


アメリアは、私の隣に座った。


「今日は、何を勉強されているんですか?」


「……魔法史……」


「あら、私も同じです! 一緒に読みましょう」


アメリアは、嬉しそうに本を開いた。


その横顔を見ながら――私は、思った。


(……アメリア……あなたは……優しいね……)


でも――


(……私は……嘘をついている……)


闇魔法のこと。お母様の命令のこと。全てを隠している。


アミアの記憶を奪ったこと。完璧な姉を演じ続けていること。


全て――嘘だ。


(……本当の私を知ったら……あなたも……離れていくのかな……)


その不安が、胸を締め付ける。


「ネフェリア様?」


アメリアが、心配そうに私を見た。


「……何でもないわ……」


私は、笑顔を作った。


完璧な公爵令嬢の笑顔。


でも――心の中では、泣いていた。


***


――ある日の昼休み。


中庭で、アメリアと二人で話していた。


「ネフェリア様は、レオニス様とお会いになったんですか?」


アメリアが、興味津々といった様子で尋ねる。


「……少しだけ……」


私は、小さく答えた。


レオニス様――王子。私の婚約者。


でも――彼は、いつも忙しく、私にかまってくれない。


政略結婚。それは分かっている。


でも――


(……辛い……)


「レオニス様は……素敵な方ですか?」


「……さあ……よく分からないわ……」


私は、正直に答えた。


アメリアは、少し困ったような顔をした。


「でも……ネフェリア様なら、きっと大丈夫ですよ」


「……どうして……?」


「だって、ネフェリア様はとても優しくて、美しくて……きっとレオニス様も、いつかネフェリア様の素晴らしさに気づくはずです」


アメリアは、真剣な顔で言った。


その言葉が――胸に染みた。


(……アメリア……)


(……あなたは……本当に……優しい……)


でも――


(……私は……優しくなんかない……)


妹の記憶を奪った。母の命令に従った。全て、自分を守るために。


(……私は……卑怯者だ……)


「ネフェリア様……?」


アメリアが、また心配そうに私を見た。


「……ありがとう、アメリア……」


私は、か細い声で言った。


「あなたがいてくれて……嬉しいわ……」


「……っ」


アメリアの目が、少し潤んだ。


「私こそ……ネフェリア様と友達でいられて……嬉しいです……」


友達。


その言葉が――温かかった。


(……アメリア……)


(……あなたは……私の……唯一の友達……)


でも――


(……ごめんなさい……)


(……私は……あなたにも……嘘をついている……)


心の中で、何度も謝った。


でも――本当のことは、言えなかった。


言えるわけがなかった。


***


――そして、あの日。


私は、庭に戻った。


アメリアと別れて、一人で。


(……アメリア……あなたがいてくれて……本当に嬉しかった……)


でも――


(……私は……ずっと嘘をついている……)


その罪悪感が、胸を苦しめる。


そして――


私は、油断してしまった。


庭の奥。木々に囲まれた、誰も来ない場所。


(……ここなら……誰も見ていない……)


そう思った。


そして――


闇の力が、溢れ出した。


「……闇魔法……」


小さく呟く。


手のひらから、黒い光が漏れ出す。


闇魔法――ダークショット。


黒い弾丸が、形を成していく。


「……っ」


久しぶりに使う闇魔法。


その力が、心地よかった。


(……これが……本当の私……)


そう思った瞬間――


「……ネフェリア……!」


背後から、冷たい声が響いた。


私は――凍りついた。


振り向くと――


お母様が、立っていた。


赤い瞳。冷たい表情。


「……お、お母様……」


私の声が、震える。


「闇魔法を……使っていたのね……」


お母様の声は、氷のように冷たかった。


「……っ」


私は、何も言えなかった。


黒い弾丸は、木に当たって消えていた。


お母様は――私を睨んでいた。


「……何度言ったら分かるの……」


その声は、怒りに満ちていた。


「絶対に隠しなさいと……何度も言ったでしょう……!」


「……ごめんなさい……」


私は、頭を下げた。


でも――お母様は、許してくれなかった。


「あなたは……学園に入ったばかりなのよ……」


「今、闇魔法がバレたら……どうなると思っているの……」


「……っ」


「あなたは処刑される。私も。そして――リィエル公爵家は、滅びる」


お母様の言葉が、胸に刺さる。


「……本当に……ごめんなさい……」


私は、涙を流した。


でも――お母様は、冷たいままだった。


***


「……それに……」


お母様は、さらに続けた。


「アミアが……あなたの闇魔法を見ている」


「……え……?」


私は、顔を上げた。


「あの子は……2年前、あなたが14歳の時、魔獣から助けたことを覚えている」


「……っ」


そうだ――


2年前。アミアが11歳の時。私が14歳だった。


森で魔獣に襲われて、私が闇魔法で助けた。


あの時――アミアは、私の闇魔法を見てしまった。


そして今――アミアは13歳になった。


「その記憶を消すのよ」


お母様の声は、冷たかった。


「……え……?」


「記憶を……消す……?」


「そう。あの子の記憶から、あなたが闇魔法を使ったことを消去するの」


「そんな……!」


私は、叫んだ。


「アミアは……妹です……!」


「記憶を奪うなんて……!」


「やりなさい」


お母様の声は、変わらなかった。


「さもないと、あなたは処刑される」


「……っ」


「それでもいいの?」


お母様の赤い瞳が、私を見つめる。


私は――何も言えなかった。


処刑される。


その恐怖が、全てを支配していた。


そして――


(……アメリア……)


友達の顔が浮かぶ。


もし私が処刑されたら――アメリアは、どう思うだろう。


悲しむだろうか。それとも――


(……やっぱり……水魔法しか使えないと思っていたのに……実は闇魔法使いだったなんて……)


(……裏切られたと思うだろうか……)


その想像が――胸を締め付ける。


「……分かり……ました……」


私は、か細い声で答えた。


お母様は――わずかに頷いた。


「明日の夜、アミアに催眠薬入りの紅茶を飲ませなさい」


「そして、暗示をかけるのよ」


「『11歳の時の記憶は消えた』と」


「……はい……」


私は、頭を下げた。


涙が、溢れた。


でも――やるしかなかった。


アミアの記憶を――奪うしかなかった。


***


――翌日の夜。


私は、アミアの部屋を訪れた。


「お姉様!」


アミアは、嬉しそうに笑った。


13歳のアミア。小さくて、可愛くて、純粋で。


私のことを、心から慕ってくれている。


「……アミア……」


私は、笑顔を作った。


「今日は……特別な紅茶を持ってきたの」


「本当ですか!」


アミアは、目を輝かせた。


私は――紅茶を淹れた。


催眠薬入りの紅茶。


お母様から渡された、特別な薬。


(……アメリア……)


友達の顔が、また浮かぶ。


(……もし……あなたが知ったら……)


(……私が……妹の記憶を奪うなんて……)


(……きっと……軽蔑するだろう……)


でも――


(……仕方がない……)


私は――生きなければならない。


アメリアとの友情を守るためにも。


学園での日々を守るためにも。


全てを――守るために。


「……どうぞ……」


私は、カップを差し出した。


アミアは――何も疑わず、飲んだ。


「美味しいです、お姉様!」


「……そう……よかった……」


私は、笑顔を作った。


でも――心の中では、泣いていた。


(……ごめんなさい……アミア……)


(……ごめんなさい……アメリア……)


(……私は……卑怯者だ……)


数分後――


「……あれ……眠く……」


アミアが、目をこすった。


「……少し……横になりなさい……」


私は、優しく言った。


アミアは――ベッドに横になった。


そして――すぐに眠ってしまった。


「……アミア……」


私は、アミアの頭に手を置いた。


そして――暗示をかけた。


「あなたは……11歳の時の記憶を忘れる……」


「お姉様が……闇魔法を使ったことを……忘れる……」


「お姉様は……水魔法しか使えない……」


「完璧で……優しい……お姉様……」


涙が、溢れた。


「……ごめんなさい……」


「……ごめんなさい……」


私は――アミアの記憶を奪った。


お母様の命令で。


自分を守るために。


アメリアとの友情を守るために。


全てを――守るために。


***


――それから、数日後。


アミアは、何も覚えていなかった。


「お姉様、おはようございます!」


いつもと変わらない笑顔。


11歳の時の記憶――私が闇魔法で助けたことを、完全に忘れていた。


「……おはよう、アミア……」


私は、笑顔を作った。


でも――心の中では、罪悪感に苛まれていた。


(……私は……何をしたんだ……)


妹の記憶を奪った。


大切な思い出を、消してしまった。


そして――


「ネフェリア様、おはようございます!」


学園の廊下で、アメリアが笑顔で手を振った。


「……おはよう……アメリア……」


私は、笑顔を返した。


でも――


(……ごめんなさい……アメリア……)


(……私は……あなたにも……嘘をついている……)


心の中で、何度も謝った。


でも――もう戻せない。


やってしまったことは、取り返せない。


(……ごめんなさい……アミア……)


(……ごめんなさい……アメリア……)


私は――その日から、完璧な姉を演じ続けた。


アミアの前では、決して弱音を吐かず。


アメリアの前では、決して本当の自分を見せず。


いつも笑顔で。


優しく。


でも――


心の中では、ずっと泣いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ