第85話「使役モンスターの観察」
#第85話「使役モンスターの観察」
今日は研究課の榊原透子さんに、俺たちの討伐風景を見てもらう日だ。
まずは一階層。
まずはロアをスロットから出す。
ロアのレベルは1だが、ステータスは例の<FS2>表示。レベル1ながらすでに通常の<FS1>の使役モンスターではない。いつもはひよりと組んで一階層でコツコツ討伐している。レベル2になる日は近いはずだ。
透子さんはロアを見るなり、眼鏡の奥の目をきらりとさせてじろじろ観察しはじめた。
ロアはびくっとして、そっと俺の陰に隠れる。
「ロア、大丈夫だ。透子さんは悪い人じゃないよ。出ておいで」
そう声をかけると、ロアはおどおどと顔を出す。
透子さんは、その挙動を見て小さく息を呑み、次の瞬間――凄まじい速度でメモを取り始めた。
「使役体が静止保持……命令待機の姿勢が安定してる……更に言うことをきちんと聞いている? こんな事例は初めてみた。凄いですよこれは!」
聞けば、ふつうの使役モンスターは一応、命令には従うが、知能が低いようで間違えることも多く、何より落ち着きがないという。小さな子どものように動き回るのが常らしい。研究課の方でも難しい命令を与えることは基本的にないらしい。確かエリナさんも同じようなことを言っていたな。
俺は逆に、他の使役モンスターを見たことがないので驚く。今度、研究課の方でも他の使役モンスターを見学させてもらう約束を取りつけた。
透子さんは観察を続け、まずはひよりがロアと一階層の討伐を始める。
ひよりはレベル2。危なげがない。道場での稽古の成果も出ているようで踏み込みと戻りもできているように見える。
ひよりが1階層のクイックスライムを軽くいなしロアが仕留める――この流れが滑らかだ。
「連携が自然……細かい指示語の理解度が高い……これは凄い、使役モンスターは<FS2>になるだけでこれほどに違うのか!」
透子さんはまたぱらぱらとメモを走らせる。ロアもそれなりに指示通り動いている。それが透子さんにとっては新鮮らしい。
――続いて三階層へ。
ここはレベル2のひよりと透子さんには危険だ。俺たちのうち一人が必ず護衛につく形で観察する。
スロットからはラムとリンを出した。
透子さんは二体を見るなり、やはり興味津々の視線。
……と、さっきのロアと同じように、ラムとリンも俺の後ろに隠れた。
ああさっきと同じパターンだな。
<<大丈夫。この人は研究課の人でじろじろ見てくるかもしれないけど悪い人じゃない。出ておいで>>
念話で告げると、二体はおそるおそる前に出る。
「今のは指示か?……もしかして念話か?」
「はい『悪い人じゃないから出ておいで』と念話で伝えました。ロアはまだ念話はできませんがラムとリンはすでに<FS4>なので念話も会話も可能です」
「……確認もう一件。会話は?」
俺は周囲を見回し、人気がないことを確かめてから、二体に言う。
「ラム、リン。彼女は研究課の榊原透子さん。俺の味方だ。普通に会話で言葉を出して挨拶をしてくれ」
ラムとリンはいつもは他の人に見られる可能性を考えて会話は基本的にしないことにしている。それで俺の方を見て<<いいのですか?>>と念話で聞いてきた。
そこで俺は<<ああ、今だけ特別だ>>と伝えた。ラムとリンは頷いて会話を始めた。
「初めまして、ラムといいます。透子さん、よろしくお願いします」
「初めまして、リンです。透子さん、わたしもよろしくお願いしますです」
「初めまして。榊原透子。呼び方はトウコでも、透子さんでもいい」
「分かりました」「分かりましたです」
透子さんは眼鏡に手を触れ、ふいに涙をこぼした。
「私……本当に使役モンスターと話してる。 レン、すごい。私はいま、猛烈に感動してる。ありがとう。今日はもこれだけで胸が一杯だ」
そう言いながら……まだまだメモをする手は止まらない。やはり研究者なのだろう。言葉と裏腹に歩みは止めない。
ともかく長居は無用だ。会話しているところを他の人に見られるのはまずいからね。
透子さんは手短に数問だけ二体へ質問し会話を終了した。
その後は段取りどおりだ。まずは俺たちのうち一人が護衛に入りひよりと透子さんが安全な範囲で討伐動作を体験・観察する。
戦闘が数回終わるたびに、透子さんのペンが止まらない。
「人間同士以上の連携密度……合図が短い……指示を出した後の反応も早い……まるで長年一緒にやってきているハンター同士かのようだ」
「まあ、念話が使えるくらいですから。あの3人(1人と2体)は人間同士以上にお互いの考えてることがよく分かるのだと思います。人間だと考えるだけでは伝わりませんからね」とひよりが端的に伝えた。
そう答えると、透子さんは「なるほど。そう言われてみればそうだ。会話は聞こえないが今でも念話で何かを伝えあっているのかもしれない」と頷き、さらにメモを書き足していった。
見学の最後、透子さんが深く頭を下げた。
「ありがとう、レン。研究が進みそうな気がする。君たちを見ていて思ったが、私たちの研究のやり方が根本的に間違っていたかもしれない。今回は本当に良い体験になったよ」
「こちらこそ。使役モンスターの研究が進めば、俺にとってもプラスですから。是非お願いします」
「レン、今度は研究室に来て欲しい。そこで何か気が付くことがあれば教えて欲しいんだ」
「分かりました。私も是非見たいと思っていたので宜しくお願いします」
他の使役モンスターも見れるのか――楽しみが、また一つ増えた。
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