第84話「研究課主任」
#第84話「研究課主任」
その朝、俺とひよりは朝倉さんのオフィスに向かった。1~2か月に1回ぐらいはこうやって直接会って報告を上げている。
「今日は研究課の人間を紹介してくれるらしいよ」とひよりが言ってきた。
「どんな人?」
「うーん。私が知っている女性研究者のことだと思う。その人だったらだけど、いかにも研究者という感じの人ね。専門分野の話になると急に饒舌になりちょっと人が変わる感じかな」
「うーん。急に変わる人はちょっと苦手かも」
「大丈夫よ。基本的におとなしく変な人ではないから」
そんな話をしながらドアを開けると、今回も高階エリナさんがいた。
この人、朝倉さんの部屋に来ると居ることが多いよな。もしかして暇なのかな?もちろん、怖いからそんなことは絶対口にしないけどね。
「レン、なんかおかしなこと考えてない?」
エリナさんが眉を上げる。俺は思わず背筋が伸びた。
(まさか、この人は俺の心を読めるのか?どうやら下手なことは考えてはいけないな)
「それはさておき――レン、あなた短期間でだいぶ強くなったわね」
じろじろと全身を観察される。
「そうですかね……道場に通っての稽古をするようになって一か月ちょい、手応えは出てきました。でも俺、不器用なんですよ。普通の人が三日で覚えるメニューに三週間以上かかってますし、成長は遅い方だと思いますよ」
「そんなはずないでしょ」エリナさんが笑う。
「この短期間でここまで雰囲気が変わるの、びっくりしたわ。とんでもないわね」
「ああ、それは俺も感じた。素人目にも分かるぞ」
朝倉さんもうなずいている。
「三階層、前は苦労していると言っていたけど――今は少し余裕が出てきたんじゃない?」
「はい。もう三階層は余裕があります。今はどうしたら早く討伐できるか、効率化を図っていますね」
「もう余裕なの?ついこの前まで苦労していると言っていたわよね?」エリナさんが目を丸くする。
「その成長速度で“不器用”って、よく言えるわね。……まあ、いいわ」
朝倉さんが軽く咳払いした。
「さて――今日の本題だ。彼女を紹介する。透子くん、来てくれ」
「は、はい……どうも」
自信なさそうにこちらに向かってきたのは、小柄で眼鏡の女性だ。髪は少しぼさぼさ、白衣の袖口にはペン跡。いかにも研究者という印象だな。おどおどしているみたいだが大丈夫かな?
「榊原 透子。研究課の主任です」
手短な挨拶だ。見た目はおとなしく、エリナさんとは正反対のタイプに見える。人は良さそうだ。もしかしたら俺と気が合うかもしれない。
「透子さん、私のことは知っていますよね。事務のひよりです」
透子さんが頷いた。
「はじめまして、レンです。使役モンスターの件ではお世話になると思います」
挨拶した途端、彼女の表情がぱっと変わった。
「君がレンくん! 実物! えっと、まず確認。使役モンスターと念話ができるって本当? 会話も可能? どのくらい意味内容が通じる? ね、ね、今すぐ即時に見せてほしい、今出せる?」
「ちょっと待ってください。ここは地上ですよ。出せるわけないですよ」
「そうか。なら今からダンジョンへ行こう。さあ行こう。痛い!」
俺の手を取る透子さんの頭をエリナさんがチョップした。どうやってなだめようかと思っていたから助かる。
「と、とりあえず深呼吸して」エリナさんが制止する。
朝倉さんが俺の方を見て肩をすくめた。
「彼女、普段は静かなんだが、研究となると人が変わる。覚えておくといい」
(たしかに今は完全に別人だ……おとなしいと思っていた第一印象に騙された)
透子さんはちょっと落ち着いた後で俺を観察するように見つめた。
「ところで、レンくんはレベル3って本当? 4以上に見える。使役モンスターも興味深いけど、君自身も非常に興味深い」
(やだよ、なんでそんなこと分かるのさ、そもそも俺まで研究対象になるの? こわ……)
それでも彼女の手と口は止まらない。
「それは後にしよう。まずは使役モンスターの最新の試行結果を共有するね。まず――名前を付けるだけでは、使役モンスターの<FS1>の数値は変わらない、すなわち<FS1>のまま。研究課で複数体、タイミングや命名を変えて実験したけれど、遷移なし。
次に――使役モンスターのレベルだけ上げてもやはり<FS1>のまま。つまり、最初の遷移はレベル成長とは独立の可能性が高い。そして最初の遷移が無いとレベルアップはFS上の変化に関与しない。
だから現時点では<FS2>への遷移条件が命名以外に何かあるはずでそれが今のメインの研究テーマになっている」
「……やっぱり条件が複雑なんですね」
「そう。召喚直後の命名、呼称の反復、接触の有無、第三者の立会い、主の精神状態――検証したい因子は山ほどある。だから現場観察が欲しい。レンくんの討伐、使役モンスターたちとのやり取り、呼びかけのタイミング。現時点でできることを細かくチェックしたい」
そうは言われても……とおろおろしていると、朝倉さんが手短に段取りをまとめてくれた。助かる。
「近いうちに、透子くんを交えた現地での観察を入れたい。彼女の都合の良いスケジュールをいくつか追って連絡するからそのいずれかに合わせて欲しい。またレンくんにも研究課の施設を見学してもらいたいが、いいかな」
「分かりました。お願いします」
俺は頷いた。横でひよりも「楽しみ」と小さく笑っている。そうだな、ハンター協会の研究施設を見れるのは嬉しい。かなり興味深いところだ。
「それから――」透子さんがペン先で空を指す。
「レンくん側の“いつもの討伐ルーチン”も、ある程度は言語化しておいてくれる?現実に見る前にそれを確認しておきたい。開始前の声かけ、間合いを詰める合図、撤退判断、使役モンスターへの指示語などあれば予め教えて欲しい」
「分かりました。それほど複雑なことはないのでまとめておきます」
そんな感じで会議は小一時間でお開きになった。
オフィスを出るとき、エリナさんが肩を軽く叩く。
「順調に成長しているようね。私も上に上がるからあなたも早く上がってきなさいよ」
俺は深呼吸してから頷いた。
「ダンジョンで討伐を重ねるたびにその奥深さを実感しているのでまだまだとは思いますが早く追いつけるように頑張ります。」
<FS>の謎はまだ解決していないということで、現場と研究室をつなぐ段階に入るようだ。やることはたくさんありすぎて混乱するが俺1人で抱えるわけでもないからまだ気軽だ。
俺は俺のできる範囲で頑張っていこう。
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