第70話「配信で見るルナの強さ」
#第70話「配信で見るルナの強さ」
俺とひよりは家まで戻り、ひと息ついてから向かい合った。
「まさかレンがルナの知り合いだったなんて、びっくりしたわ」
「ああ、それについては俺の方が驚いたよ。ルナが有名人だなんて知らなかった。どこにでもいるゲーム好きだと思っていたよ」
「だったら、これ見てみてよ。ルナの配信動画」
ひよりがタブレットを操作すると、配信ページが開く。
「登録者数は三百万人越え。ハンター配信でもトップクラスよ。動画の本数はそれほど多くないけど、どれも再生百万超え」
「……マジか。コメントも読めないスピードで流れていて凄いな。これ本当に有名人じゃん」
映像の中で、ルナは黒い影の群れに滑り込むように踏み込み、木刀――いや、細身の剣か――で最短の軌跡を描いた。肩口から腰へ、流れる一刀。間髪入れず、半歩で角度を変えて次を落とす。
「……強いな。動きが止まらない。流れのまま相手が倒れていく。斬る、受ける、避けるのどれもが繋がっている。まるでリプレイを見ているかのようだ」
「でしょ。ソロで四階層を安定して回せるのは、今のところルナだけ。人気が出るのも当然ね」
俺は画面の敵に視線を向けた。
「それにしても……四階層は敵の種類が多いな。三階層までと全く違う」
「四階層からは“混成”。メインの強い敵が一体以上いるけど、その周りに別タイプが混ざる部隊編成になるの」
「ならば1万体同一モンスター連続討伐の宝箱を狙う“裏技”は実質、もう使えないな」
「そうね。その代わりモンスターを倒した時の宝箱の出現が五%くらいになるのよ。だから収入は安定してくるわね」
「なるほどな。4階層がハンターとしての最低ラインと言われているのはそのためか。ここでモンスターを倒せるようになれば稼げると」
「うん。そういうこと。レベル5以上はレベリングするにかなり高額なお金がかかるから4階層で稼ぎながらじっくり実力を付けてレベル5に上がるという人も多いわね。もちろん時間はかかるけどね」
「それはいいことだな。実力がないのにレベルだけ上がると危なっかしい。2階層で良く見た光景だ」
画面の中のルナは、三方向から詰められた瞬間、半身で正面を捨てて斜めに抜け、二体を一直線上に重ねてから切り倒した。
「……今の、三階層のクイックベアで俺がやってた“受け流し+位置取り”の、完成形みたいな感じだな。もちろんルナの方が圧倒的にスムーズだし、その後に相手を倒しているからそこは全く違うけどな」
「うん。ほんとは四階層は複数人で挑むのが普通。実戦じゃレベル5以上の人を含む五人以上の隊で行くことが多いのに、ルナはレベル4なのにソロで片づけちゃうんだよね」
「それなのに、俺とクランを作ろうとしてるのか……やっぱりルナは不思議だな」
「ほんとね。あり得ない話が重なりすぎて、今日はずっと驚いてばかり」
今日はゲームの知り合いだったルナに会えるだけでも凄いことだと思ってワクワクしていたけど、そのルナがハンターとして配信している有名人だったとは。しかも今でも俺を信頼してくれるのが嬉しかった。
「普通の配信はね。こういった討伐の後に『今の戦いはどうだった?』とか言ってユーザーに対話を求めてきたり、『チャンネル登録よろしくね!』みたいにお願いしたりしてくるんだ。悪くいえばおねだりのようなことをしてる。でもルナの場合は一切そういうのがないのよね。それでもトップクラスの登録数と再生数。完全に実力での人気ね」
「本当に何から何までルナは凄いな。差が大きすぎて何も言えないよ」
動画を閉じ、俺は深く息を吐いた。
「明日からは道場での訓練だ。朝倉さんにも報告を上げておかないとな」
「私から朝倉さんに連絡しておくよ。スケジュールの件も。朝に二~三時間の特訓を始めるって伝えておくね」
この辺りは先々を考えてくれて本当にありがたい。ひよりがいなかったら今回のルナの件もスムーズには進まなかったかもしれない。俺はルナが有名人ということさえ知らなかったからな。
「じゃあ、そろそろ送っていくよ」
「ありがとう」
外に出て今日会ったことを話しながら送り届けた。そしてひよりの家の前で足を止めそっと唇を重ねた。
「……おやすみ、レン」
「おやすみ。――明日から、鍛錬もダンジョンもやる。俺は強くなるよ」
ひよりが手を振って家に入るのを見届け、俺は深呼吸するかのように夜風を胸いっぱいに吸い込んだ。
ルナが戦っていた四階層の映像が脳裏に焼き付いている。姿勢、スムーズな動き、間合いの取り方、受け流しなど――全部、俺も覚えないといけない。
俺は現時点でレベル3の適正階層の三階層、しかも3人(1人と2体)で戦っている状況なのにぎりぎり。ルナとは雲泥の差だ。少しでもこの差を埋めていきたい。
強くなるためにできることは全てやっていこう。
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