第192話「新方針と揺れるクラン」
#第192話「新方針と揺れるクラン」
とうとう佐藤がレベルアップした。
クラン『エクリプス』としては実質的に初のレベル4到達だ。司の妨害(?)もあったが、ようやくメンバー全員の努力でなんとか乗り切り形になったのだ。
その瞬間、新宿ダンジョン3階層は歓声に包まれた。
「やったな佐藤!」
「おめでとう!」
仲間たちが次々と祝福の声をかける。ハイタッチが乱れとんだ。佐藤は目を潤ませながら何度も頭を下げていた。
「ありがとう。本当にみんなのおかげだ……!」
その姿を見て、本田も心から笑顔を浮かべた。
「よくやったな、佐藤君。そしてクランのメンバー全員が頑張った結果だ」
しかし、その輪の中に元リーダーの司の姿はなかった。一応、今日も最初は来ていたのだが「ふん、佐藤がレベル4になったところなど見たくもない。そして体調も悪くなった気がするから帰る」と言い残し去っていった。おそらくは部屋でポテチを食べながら配信動画を見ているのだろう。
……ある意味、平常運転である。
ともあれ、佐藤のレベルアップでクラン『エクリプス』の士気は一気に高まった。
今後は次なるメンバーのレベルアップを目指す方針。珍しく祝勝会も開かれ、その祝勝会には石動も顔を出した。
「よくやりました。ようやく一つの壁を超えましたね。次も期待します」
その言葉に、みんなの顔が引き締まった。
だが、その場で石動から“新しい方針”の発表があった。
内容は――新宿ダンジョンの1階層と2階層の常時監視業務を政府から受託するというものだった。
「本来なら1~3階層すべてを受けたかったが、君たちの成長を止めるわけにはいかない。そこで、1~2階層の監視に絞って受託した」と石動が発表した。
つまり、ダンジョン1~2階層を監視業務をクランのメンバーほぼ全員が担当し、本田・佐藤、そしてもう一人のレベル4を目指すメンバーが3階層で討伐を続けるという形だ。
1~2階層のダンジョン監視は交代制で運用し常時チェック体制を維持するというとの説明だった。これまでとは全く異なる体制。
本当は1~2階層の討伐については応募する人はたくさんいる。だからクラン単独で任せる必要もないのだが、鷹見がダンジョンの危険度AI判定システムを政府に提案した関係もあってねじ込んだ形だ。
鷹見としては1~3階層全部を一括で引き受けて管理したかったがさすがに今のクラン『エクリプス』にはそこまでの人員も余裕もない。すぐに諦めた。
その仕事を今回は石動がクランに伝えたのだ。
こうしてダンジョン管理という新しい仕事が入った。ただし、不満の声も出た。
「監視なんて、俺たちがハンターになった理由じゃない」
「戦って、レベルを上げたくて入ったのに見張り役ですか?」
そんな声があちこちで上がる。
しかし、石動はその声に冷静に答えた。
「順番にレベルアップさせる方針は変わらないので基本的には今までと同じですよ。仕事は多少、変わりますが焦らないでほしい。今回の仕事も政府からの仕事です。君たちの次に繫がりますよ」
次には会社との契約を危惧する声も出てきた。24時間体制での監視となるとほぼ全員のメンバー出勤が必要だ。そして3交代とか4交代になる。そうなると今までのように御影グループの会社でしていきた仕事はできない。
「社員としての仕事はどうなりますか?毎日それだけの時間をダンジョン監視に取られたら、おそらくは会社での仕事ができなくなります」そういった質問も出てきた。
いままでは御影グループでの社員としての待遇があったので我慢してきたメンバーも多かった。しかし社員待遇が無くなるのであれば続けるのはさすがに困難だ。もはや意味がないと言っていいだろう。
その質問にも石動は冷静に回答した
「大丈夫です。社員としての待遇は基本的に変わりありません。出向や出張みたいな感じで考えてもらったらいいでしょう。ダンジョン常時監視の仕事がなくなれば、またこれまで通り社員として迎え受ける予定です」
本当は終わりの見えない仕事だが、そこは石動はそれを知っていてごまかした。そんなことを言えば不満の声が大きくなる。それはそうだ。下手すりゃ、そのまま一生ずっとダンジョン監視員になってしまうのだ。
そしてメンバーとしては社員待遇を続けると言われるとどうしようもなかった。誰もが渋々ながら頷くしかなかった。その言葉でようやくざわつきは落ち着いた。
とは言え急激な方針変更だ。不安を覚えるメンバーも多かった。
また司だけは反応が違った。後日に話を聞くことになり「俺がいないところでクランの方針を勝手に決めるな!」と激怒し騒いだのだが会に参加していなかったのだからどうにも仕方がない。
司が激怒しているという話がクラン内でも広まったが、そのまま放置されただけだった。
こうして、クラン『エクリプス』は新しい体制での運用を開始することになった。
だが――その裏で、司と一部メンバーの不満は確実に膨らみつつあった。それが後に、思わぬ波紋を呼ぶことになるのかもしれない。
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