第184話「世界会議と崩れる秩序」
#第184話「世界会議と崩れる秩序」
アメリカ・ロサンゼルス。そこでハンター協会の世界会議が、世界各国の代表を集めて開催されていた。
議題はもちろん――最近のダンジョン活性化現象についてである。
これまでは、どの国でも同じ認識を持っていた。
「1~3階層のモンスターを定期的に討伐しさえすれば、ダンジョンのエネルギー値は一定に保たれ安全に運営ができる」
それが近年の常識であり、ダンジョン外にモンスターが漏れ出すなどあり得ないはずだった。
だが、ここしばらくは、その“常識”が音を立てて崩れ始めていた。
日本ではまだ横須賀ダンジョンの一件のみ。
しかし、他国ではすでに複数の報告が上がっている。特に領土が広いアメリカや中国などでは、各地でモンスターの外部出現が確認されており、被害も深刻化していた。
対策はこれまでいろいろ考えられてきた。
まずダンジョンが生まれたばかりの頃に試みられたのはダンジョンを物理的に完全に封じ込めるという対策だった。
地表を埋め立て、コンクリートで蓋をする――そんな単純な方法で効果があると考えられていたのだ。
しかしそのケースの結果は最悪の事態に陥った。ダンジョンのエネルギー値が異常に上昇し、下層階のモンスターまでもが一斉に外部へと噴き出した。軍隊を派遣し、戦車での攻撃や飛行機による空爆などでようやく制圧したが災害級の被害を生んだ。一時的には核兵器の使用まで議論されていたぐらいだ。
そのため物理的にダンジョンを封じるという策はすぐに避けられるようになった。
次に考えられたのは単純にダンジョン内のモンスターを倒すというもの。当初はハンターのレベルが低く1~3階層のモンスターしか討伐ができなかったが、何故か氾濫はピタリと止まった。
そのため、1~3階層のモンスターさえ討伐して一定のエネルギー値に管理すれば氾濫は起きない。そう信じられるようになった。
そこで更に考えられたのはダンジョンを封鎖せず、その外側を取り囲むようにして分厚い外壁を築くという策だった。
これならばダンジョンの出入りは自由。あとは1~3階層のモンスターを定期的に討伐してエネルギー値を管理すれば問題は起きない。
そして、いざという時も外壁が防いでくれるはず。この2重の対策が最も効果があると、ほんのしばらくはそう思われていた。
しかしいくつかのダンジョンで優先的に外壁の建設が行われ、完成後に様子を見たところ――そのすべてのダンジョンで外壁が破壊されてしまった。
まるで外壁の存在そのものを拒絶するかのように、ダンジョンからモンスターが氾濫したのである。
これまで通り1~3階層の討伐を継続していたにもかかわらず制御不能となったのだ。
“外壁を建てた場所だけが氾濫する”――それは偶然ではないとあっさりと立証されてしまった。
各国の研究者たちは、まるでダンジョンそのものが意思を持っているかのようだと震え上がった。
そうして結局、最終的には1~3階層のモンスターを討伐しダンジョンのエネルギー値を管理する。その対策一本に絞られたのだ。
そして数年は問題が起きなかった。これでようやく大丈夫だと思われていたのだが、今度は昨今の氾濫が起きるようになった。
定期的に1~3階層のモンスターを討伐してダンジョンのエネルギー値を管理していたにもかかわらず氾濫が起きるようになったのだ。そしてその氾濫報告が増えてきた。
不幸中の幸いだったのは現時点では出てくるモンスターが1~3階層の浅層からのみだったということ。地上でも軍であれば比較的軽い戦力で対処可能。とはいえ都市部のダンジョンで氾濫されたら大変だ。しかも、今後は深層のモンスターも氾濫するかもしれない。油断できる状況ではなかった。
この報告を受けた各国の代表は、言葉を失い、ただ沈痛な面持ちで顔を見合わせるしかなかった。
希望だったはずの対策さえも通用しなくなりつつある。それが国民に知られたら大変なことになる。国によっては暴動が起きるかもしれない。それは何とか避けたかった。
そして、残された有効策として挙げられたのは、ハンターをダンジョンの入り口付近に常駐させるという方法。
1~3階層のモンスターが入り口付近に来たら即座に迎撃できる体制を作る――現時点ではそれしかないと思われた。
いくつかの国ではこの方法が功を奏しており、少なくとも現時点ではモンスターの氾濫はないと報告されている。ただしこれもサンプル数は少ないので本当に効果があると言えるのかはまだはっきりしない。
そして、その実現には莫大なコストと人員がかかるという問題もあった。
3階層をカバーするには最低でもレベル4クラスのハンターが常時3人以上必要で、24時間体制となれば全てのダンジョンでレベル4以上だけでも10人近くの人員が必要になる。
ダンジョン対策の先進国でさえ簡単ではない。後進国にとっては到底不可能な負担だった。
「先進国が支援をすべきだ」という声と、「自国を守るのが最優先だ」という反論。
会議の場は次第に紛糾していった。
結局、先進国の一部が高レベルハンターを派遣することで合意はしたものの、その数はあまりに少なく、焼け石に水という言葉がぴったりだった。そしてそれさえも履行されるかも分からない。
派遣を志願するハンターがほとんどいないからだ。報酬を上げても、誰も進んで危険地帯には行きたがらないのだ。
そうなると後進国側の反発は必至、世界的な対立になる可能性もあった。
あとは世界中での即時戦争中止が呼びかけられた。現状は戦争どころではない。仮に戦争など起きればダンジョンに対抗するハンターや軍隊など貴重な戦力を失ってしまうかもしれないからだ。こちらは全会一致で可決された。しかしこれも確実に履行されるとも限らない。すでに先進国と後進国で対立は深化している。
しかも昨今のダンジョンの氾濫などで軍事産業が力を付けており、彼らが更なる利益のために裏でどういう動きをするかも読めなかった。
不満と焦燥、そして対立が渦巻く中、世界会議はそれ以上の結論は得られぬまま閉会となった。
その場には、リモートで日本から参加していた朝倉の姿もあった。
画面越しに世界の重鎮達の対立や混乱を見つめながら彼は深く息を吐いた。
「分かっていても、誰にも止められないのか。今にいくつかの国がモンスターに制圧されるかもしれないな。我が国はまだいいが……いやそれも時間の問題かもしれない」
昨今のダンジョンの氾濫は確実に世界の均衡を崩しつつあった。
その脅威が、いずれ日本にも波及してくるだろう――
朝倉は、まだ誰も知らないその未来を、薄暗い予感として感じ取っていた。そして何もできない自分の実力不足を痛感していた。
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