第175話「司、華麗なる復帰!?」
#第175話「司、華麗なる復帰!?」
司はそろそろ復帰の頃合いだと考え、本田と紗月にスマホでメッセージ連絡を入れていた。
かなり久しぶりのメッセージだったが紗月はそれを見て安堵した。
「もう大丈夫なんだね。でも無理しないでね」と返信のメッセージを送ると司は軽く「大丈夫だ。ゆっくりやるさ。俺の華麗な復帰を見届けてくれ」と返してきた。
返信も早い。珍しくやる気なのかもしれないと紗月は感じ喜んでいた。
司はしばらくぶりにダンジョンにも潜るという。ようやく本格的に動いてくれるのかもしれない。最近はクランに活気が戻っている。司が戻ることで更に活気付くかもしれない。ちょっと不安もあるが本田さんもいるから大丈夫だろう。そう紗月は考えていた。
一方で本田の胸中は複雑だった。
――あれはどう考えても仮病だ。
前回会った時に、そう思っていたからだ。「どうにも理解ができない人間」だと本田は司のことを評価していた。なので今回、そして今後の動きも読めない。司は何をするつもりなのか?どうするつもりなのか分からず、ちょっと恐ろしかった。
クランメンバーに司の評判を聞くと「かつてリーダーだった人だけど全く駄目。あの人はサボリ魔だ」という話が出てきた。以前なら「社長の息子に何てことを」と軽く怒ったかもしれない。
だが実際、司が仮病で休んでいたとしか思えない状況を目の当たりにし、同意せざるを得なかった。
そして「そんなことは本人の前でなくても言わない方がいいよ。陰口はよくないよね。とは言え俺もよくやるから人のことは言えないけどね」と軽くたしなめる程度にとどめた。
本田は司の評判を聞いてやや憂鬱になり、せめてクランの雰囲気を壊さないでくれと祈るような気持ちになっていった。
司が来るというその日は佐藤がレベル4になる少し前だった。もうすぐ佐藤のレベルが上がる。
みんなの士気は高く、雰囲気も良い。
――この空気を壊すなよ、と本田は心の中で念じていた。
だが現実は甘くなかった。
やってきた司は、開口一番「本田、よくやっているな。たいしたものだ」と偉そうに言い放ってきた。久しぶりにきたくせに偉そうだ。でも多少は腹が立つが雇い主だ。怒るわけにもいかない。
「はい、今日はよろしくお願いします」と本田は努めて平静に返したが内心ではため息をついていた。
一方で紗月は「体調は本当に大丈夫?無理しないでね」と声をかけている。
「ああ、大丈夫だ。無理はしない」
その時、本田は紗月のことが凄いと感じていた。よくそんな冷静に接することができるなと。何かあったらこの女性に頼もうと心に決めていた。
そして司の「無理はしない」との言葉を聞き、それならば何とかなるかなと軽い気持ちで考えていたのだが……すぐにその気持ちは吹き飛んだ。
「ちんたらやってるんじゃない!さっさと倒せ!」
突然の司の怒声に周囲が硬直、場が凍りついた。これには本田もびっくりした。
おいおい、何やってるんだよ……。
本田は思わず額を押さえた。久しぶりに来てそりゃないだろう。みんなに謝罪もせず感謝もせずただ怒鳴り散らすだけ。なんなんだこいつは。もしかして特級の馬鹿か?本田はとっさに評価を数段階、改めた。
しかも佐藤にトドメを刺させないと意味がないというのに、司は前へ出てモンスターを倒してしまう。せっかく御膳立てしたのに、一瞬で全てを無にしてしまう司に呆れて果ててしまった。
「すいません。司さん、今は佐藤君のレベルアップを優先しています。トドメは佐藤君ということでお願いします!」
「はぁ?そんなちんたらやっていたらいつまで経ってもレベルアップしないぞ!」
なんか無茶苦茶言い出したぞと本田は更に呆れた。そして他のメンバーはせっかく皆で頑張ったお膳立てまで無にされて意気消沈している。これはまずい。自分がなんとかしないといけない。
本田は咄嗟に司の進行方向に立ち塞がり、何とかその動きを阻止した。
「さすが司さん、凄い動きです。やっぱりとんでもない人だ。でも無理しないでくださいね、リハビリ中ですし。私が前に出ます」ととりあえず口では懸命にご機嫌を取り、行動では逆に邪魔をした。そして佐藤にトドメを刺すように目で促した。
だが内心では「司さん、もういい、頼むから静かにしてくれ。そして余計な動きや邪魔だけはしないでくれ」と叫んでいた。
――これは本当にやばいぞ。もしこの人が自分がいない時に暴走したら、クランは崩壊するかもしれない。自分は1日数時間だけの契約だ。契約時間外にこれをやられたら大変だ。どうする???これでは最悪、契約が終わってしまうかもしれない。
だが、その心配だけは杞憂に終わった。
司は1時間ほど討伐を続けると、「病み上がりだし今日はこのぐらいでいいだろう」と言って帰ってしまった。
「えっ、もう帰るの? マジで?」あっけにとられてしまった。そしてその瞬間、本田は心の底から安堵した。帰ってくれることで何とか今日は大丈夫、そして明日に繋がる。
「お疲れ様でした。また明日もお願いします」と心からのスマイルで見送った。もちろん明日は来て欲しくはないがそんなことは言えない。
そして本当の内心はもちろん別だ。
「何だあいつ……いるだけで邪魔じゃないか。いない方がまだまし」と毒づいてしまっていた。
本当に司には困り果てた。とはいえ自分は鷹見の指示で動いている、そして社長の息子を粗末に扱うこともできない。
でもまあいいかと思い直した。
クランメンバーに話を聞くといつもこんな感じらしい。1日1時間もいればいい方とのこと。ならば毎日1時間程度の“ご機嫌取り”と我慢で済む。ならばそれでいいじゃないか。
もちろん、これで一日中居座るようなら地獄だがそうではないらしい。その1時間だけは司の動きを監視し、時には自分が邪魔してご機嫌取りすればいいだけだ。面倒な仕事が増えたがこれも仕事のうちだと自分を納得させた。
そう結論づけた本田は、せめて司が暴走しないようにだけ注意しておこうと心に決めたのだった。
せっかくありつけたまずまず割のいい仕事。それを無くさないように必死だった。
本田は「仕事のためだ」そう考えて心を落ち着けた。しかしフラストレーションは確実に溜まっていった。
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