第16話「クラン暁の牙の過去」
#第16話「クラン暁の牙の過去」
その夜、夕食を食べながら俺はひよりに、今日あった出来事を話した。
「黒澤さんって人と田嶋さんって人に声をかけられてさ。クラン『暁の牙』に誘われたんだ」
ひよりはパッと表情を明るくした。
「えっ、暁の牙に?あそこならすごくおすすめだよ。……レン、クランに入る気になったの?」
「ごめん、断った。でも、黒澤さんは『いつでも歓迎だ』って言ってくれて。……今のやり方を諦めたら、そのときは頼るかもしれない」
「うん、それでいいと思うよ」
ひよりはにっこり笑った。
その笑顔は、どこか安心したようにも見えた。やはり俺がソロでやっているのはかなり不安なようだ。
「いろんな種類の草クランがあるけど、暁の牙はその中でもトップクラスにおすすめね。無理なノルマもないし、取り立てもない。クランを辞めたいって言っても、無理に引き留めたりもしないし」
「……でも、あそこまで良心的なクランってさすがに不思議だよな。逆に裏があるんじゃないかと思うぐらいだったよ。あの仕組みだと、新人を引き受けるメリットって少ないだろ?」
「うん……そう普通は思うよね。それには理由があるんだ」
「実は黒澤さん、一昨年にダンジョンで自分の息子を亡くしたの」
「え……」
「その子、黒澤さんのクランには入らないって言って、別のクランに入ったらしいの。レベルとか討伐数、ランキングなどで先を行く父親に対抗心を燃やして……早く追いつきたかったのでしょうね。無茶な戦いをしたらしくて……戻ってこなかった」
ひよりの声が少し沈んだ。
「だから黒澤さんは、もう二度とそんな新人を出したくないって言って、今のシステムで活動してるの。新人には無茶をさせず最短で強く稼げるようにさせる……あまり儲からないやり方だけどね。自分の分は自分で稼げるから問題ないって、強引に今のやり方を継続しているみたい」
「……」
「でも、そのやり方でもちゃんと回ってるみたい。新人が育って、そのまま抜けずにいる人も多いんだって。そりゃそうだよね。お世話になったクランを辞めたくないという人も多いからね。黒澤さん、見た目は怖いけど本当に優しい人だよ。だから失礼なこと言っちゃダメよ?」
「あちゃー、もう手遅れかも。俺、失礼なこと言いまくったかもしれない。『内臓取らないでください』とか『マグロ漁船は勘弁』とか……」
ひよりは吹き出した。
「なにそれ!」
「うん、それを言ったら田嶋さんにめっちゃ笑われたよ。あの見た目に怖い黒澤さんに、怖がるどころか鋭い突っ込みを入れる田嶋さん、2人ともいいコンビだったな」
「ふふっ、ほんとそうね。あの2人は見てて飽きないわね。でもね、レン……本当に無理はしないでよ」
ひよりはまっすぐに俺を見た。
「クラン『暁の牙』は本当に信頼できるクランだから、もし辛くなったら……頼って欲しいかな。前にも言ったけど、他の草クランはひどいところもあるから、それだけは気をつけてね」
「……ありがとう」
俺はその言葉を胸に刻んだ。
今はまだソロでやるつもりだ。
でも、無理だと判断するときが来たら、俺は――。




