第151話「エリナさんの立場と正義」
#第151話「エリナさんの立場と正義」
「私はどちらかといえば、公務員側――つまり安全重視の立場。今は企業系クランがどんどん力をつけている。そして私は今のバランスが企業側に崩れることを危惧している。だから今は朝倉さんとは手を組んでいるけど、完全に同じ考えではないわ。場合によっては私は朝倉さんの意見にも反対する」
「なるほど……」
少しずつ全体像が見えてきた。エリナさんも完全には朝倉さんを信用していないということなのだろう。
それはそれで当然か。エリナさんの正義と朝倉さんの正義が対立すれば一緒にいることはおかしくなる。そして朝倉さんの正義も自分の守るべきもののために自らの信念を曲げるものかもしれない。それに付き合う必要もないだろう。
「おそらく朝倉さんは、レン――あなたを自分の“味方”にしたいのよ。あなたの成長を見て、場合によっては協会の象徴にしようとしている可能性もある。だからこそ、利用されないように常に考えておくことね……まあ、私に対しても注意した方がいいわよ」
「え?」
その言葉に再び、びっくりした。ここまで親身になって話してくれるエリナさんの言葉さえも信用してはいけないのか?
「つまり、私の言葉でも誰の言葉でも疑うべきということよ。何事も信じすぎないことが大事。あの人が言うから間違いない、信用できるなんてのは大きな間違いのもとよ。そうやって思考停止していると利用されるだけね」
冗談めかして笑うが、その目は本気だった。
「レンは単純だから、“正義”という言葉に弱いでしょ?でもその“正義”が本物なのかなんて簡単には判断できない。例えば世の中には戦争があるけど、どちらも自らの“正義”で戦っている。そこには正反対の“正義”があるの。だから何が正しいのか自分で考えて判断しなさい。そしてその判断には責任も伴うのよ」
「あなたがハンターとして強くなればなるほど、その影響力は大きくなる。その言葉1つで物事が決まるかもしれない。でもその決定が反対側の人間からは恨まれることもある。だってあなたの言葉一つで、何億という金が動くこともあるのよ。最悪、命を狙われる可能性もある」
「……そんな大げさな」
「大げさじゃないわ。あなたが踏み入れようとしているのはそういう世界なの。ここはゲームの世界じゃないからね。現実なのよ」
俺が強くなれば俺の判断一つで世の中が変わってしまうかもしれない?そんなつもりは全くないのだが。でもそれが現実なのか?
「例えば有名な芸能人が政治に意見すれば多くの人がそちらに流れる。その影響力は大きい。そして、その影響で苦しむ人は必ず出てくる。恨まれる可能性もある。だから政治に意見することで理不尽に批判されたり、誹謗中傷されることもあるの。どちらかの立場に立つならばその覚悟が必要ということよ」
「もちろん、レンが何も判断しないという手もあるわ。どちらにも手を貸さない。それが一番かしこい方法かもね。でも朝倉さんの言う通りに動くとレンは自分の影響力を発揮してしまう。そこはしっかりと考えた方がいいわよ」
俺は言葉を失った。
強くなって、家族を守ることだけを考えていたはずなのに――いつの間にか、そんな複雑な世界の中に踏み込んでいる。
朝倉さんを信用して動いたら俺の影響力で世の中がおかしな方向に変わってしまう可能性もあるのか。
「朝倉さんの提案には慎重に判断してね。その裏に何があるのかを考えて。そしてルナに相談するのもいい。ルナは慎重だから丁度いいわ、相談相手は私でも構わない。時には逆側の“企業側の人間”に意見を聞くのもいい。多角的に情報を集めて自分の判断で自分の正義で動くこと。動かないという判断もある。ただ、それすら“反対”とみなされる場合があるわ。ここも慎重に考えて欲しい」
「……分かりました」
それしか言えなかった。あまりにも複雑だ。そういった世界には俺はできるだけ参加したくないのだが、このまま強くなればそうも言ってられないのかもしれない。難しいな。
エリナさんは少し微笑んで、最後にもう一つだけ忠告をくれた。
「それと、レンには弟さんや妹さんがいるわよね?あなたが有名になれば、狙われる可能性も出てくる。“安全な学校を紹介する”なんて話が出たら注意して。それは優しさに見えて、実は人質を差し出すことにもなりかねないから」
「……そうか。やはり様々な角度から見ての判断が必要なんですね」
「そういうこと。もちろん純粋な善意で動くこともあるけどね」
「分かりました。気を付けます」
弟と妹まで利用する可能性があるのか。それはそうだよな。弟と妹のためならば、おれは迷わず誰の指示でも、どんな指示でも従うだろう。そういう意味では俺よりも守るものが多い大人がおかしな方向に動いてしまうのもあながち批判できることでもないかもしれない。
「それはもちろん、ルナも同じよ」
「えっ?」
ルナはいきなりふられてびっくりしたようだ。
「朝倉さんはレンを利用してあなたを引き入れようとしただけ。純粋にあなたたちのことを考えて私達の秘密を伝えるように言ったわけではないからね」
「そうですね……あまりにも話が順調すぎて、落ち着いて考えることを忘れていたかもしれません。レンと一緒に行動することは公務員側についているとみなされても仕方がない。そこは慎重に考えます」
「いえ、あなたのことだからそこまですでに考えていたでしょ。考えた上で自分の意思で動いている。それならば問題はないわ。でも、あなたはレンのことを信用しすぎているようにも見える。そこは危険かも。レンが暴走しそうになったらあなたが止めて欲しい」
「はい。それは大丈夫です。私が絶対にレンの暴走を止めます。レンが単純で危険なのは分かっています」
「おいおい、まるで俺が暴走するみたいじゃないか!」
「でもそれはありえそうね。レンはいつも暴走しているよね」
ああ、なんてこった、最大の理解者であるはずのひよりが冷たい。
「あと、ひより、あなたも同じよ」
「えっ」
「あなたは今は公務員。すなわち立場としては完全に公務員側よ。レンの判断に大きく影響を及ぼす立場なのを忘れないように。下手をすればレンはあなたのためにおかしな方向に動くわよ」
「そうですね。私も気を付けます」
ひよりも顔を引き締めた。
エリナさんの言葉がずしりと胸に響いた。
俺は単純に強くなりたいだけだった。
でも――強くなるということは、それだけで“誰かの駒”になる可能性もあるのかもしれない。強くなるほどに責任が大きくなる。
大人の世界は、思っていたよりずっと複雑で、恐ろしい。
俺はそんな世界で、うまくやっていけるのだろうか……。少し不安にもなった。
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