第149話「定期報告と微かな違和感」
#第149話「定期報告と微かな違和感」
今日は定期報告の日だ。
先日ルナに朝倉さんについて忠告を受けたせいか、少しだけ緊張していた。
――「大人は自分の正義のためなら平気で裏切る」。
あの言葉がちょっと気になっている。
もちろん、今のところ朝倉さんが俺を利用しているようには見えない。それどころか助けてくれている。それでも警戒はしておくに越したことはないだろう。
おれとルナとひよりは合流しハンター協会ビルへ。エントランスで軽く状況を確認しているとエリナさんがやってきた。どうやらエリナさんも今来たばかりらしい。
そこで俺は思いきって声をかけた。
「エリナさん、後で少しお時間もらえませんか? 朝倉さんのいないところで話をしたいことがあって」
「……分かったわ。定期報告が終わった後、クラン『白嶺』のオフィスでどう?」
「クラン『白嶺』ですか! 俺たちが行ってもいいのですか?」
「レン、いまさら何をいっているの?いいに決まっているでしょ。私とあなたの仲じゃない」
ちょっと冗談めかしてエリナさんが言う。ひよりのジト目を感じるのでそういう冗談はやめて欲しい。
「では宜しくお願いします。ならば定期報告が終わった後にひより、ルナと3人で伺ってもいいですか?」
「ええ、もちろん。とりあえずオフィスを開けておくように伝えておくわ、ちょっと待ってて」エリナさんはスマホを持ち連絡を始めた。『白嶺』オフィスに確認を取ってくれているようだ。
話は驚くほどにスムーズに進んだ。定期報告の後でエリナさんのクラン『白嶺』に行くことになりそうだ。
「問題なく相談できそうだな」とルナが呟いた。
「ああ『白嶺』オフィスに行くのは初めてだから緊張するけどな」
「私も初めてだからドキドキする」とひより。
そんなことを話しているうちにエリナさんは話が済んだようだ。
「大丈夫だったわ。定期報告が終わったら行きましょう」
「分かりました」
話は付いたのでいつものようにエレベーターに乗って高層階へ、朝倉さんのオフィスに向かった。やはり最近、常連の透子さんもいる。
その後の定期報告は、いつも通り穏やかに進んだ。
計画よりもかなり早く、ひより・ロア・ルフ・クーの4人がもうすぐレベル4に到達する見込みを伝えると朝倉さんは満面の笑みを浮かべて言った。
「素晴らしいな。いつもにもまして順調じゃないか。その調子で頑張って欲しい」
透子さんも隣で「レベル4に上がるときは必ず知らせて欲しい。是非、次の人化を確認したい」と興奮気味だ。
……透子さんは相変わらずだな、と思いつつ俺は苦笑した。
報告後は低階層のモンスター討伐についての話題になった。
ダンジョンのエネルギー値を一定に保つため、低階層のモンスターを定期的に減らす必要がある。討伐を怠るとエネルギーが過剰に蓄積して氾濫を起こす可能性があるのだ。
朝倉さんによると俺たちが4階層で留まるようならば恩方ダンジョンの低階層の討伐依頼を協会側で復活させる必要があるとのことだった。でもそれについては心配はない。
「それについては、俺たちが毎日1~3階層まで軽く討伐します。それぐらい準備運動のようなものですし。討伐依頼が復活してダンジョンに人が増えて注目されるのが方が嫌なんでやらせてもらいます」
そう伝えると、朝倉さんは満足そうにうなずいた。
「助かる。1日あたり1~3階層それぞれ20~30体ほど討伐できれば十分だ。ならば討伐依頼は出さない。でも、もし低階層に行かなくなるようだったら教えて欲しい。その時は討伐依頼を復活させないと駄目だからな」
その後、人目についての話にもなった。
「まだ人の目は多くないかい? 今はまだ3階層だよな。目立つようになると使役モンスターの秘密がばれる可能性もあるだろう」
「今のところは全く問題ありません。恩方ダンジョンは本当に過疎ってますので。たまに4階層で人に会うことはありましたけどね。それぐらいです」
「もし今後、人が増えてくるようならその時は相談させてください」と俺は答えた。
「そうだな、とりあえず無理はしなくてもいい。過疎ダンジョンは他にもある。必要ならそちらを手配しよう。とは言え活動のメインが4階層以上になってくるとさすがにそろそろどこに行っても隠すのも厳しくなっていくだろうな。難しいところだ」
……やっぱり、こうして見ると朝倉さんは誠実だと思う。俺たちの活動を支援してくれる。過疎ダンジョンを調べてくれるし、更にはそこで人目に付かないようにしてくれている。
少なくとも今のところは裏の変な意図があるようには見えないのだがな。とは言え疑い出すとどうしても言葉の1つ1つが気になる。確かに何かの意図があるのではとも感じる。ルナにはこういった違和感があったのだろうか。
――現時点ではルナの言うことは考え過ぎのような気もするが……
その辺りはエリナさんにも聞いてみるといいだろう。もちろんエリナさんも朝倉さん側だ。あまりうかつに話をするべきではないのか?うーん、もう少しルナと相談しておけばよかったかも。
定期報告が終わり、俺たちは一息ついてから約束の場所――クラン『白嶺』のオフィスへと向かった。
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