第15話「思わぬやさしさ」
#第15話「思わぬやさしさ」
俺は見た目がとにかく怖い人、黒澤さんからのクランの誘いに困惑した。凄く怖い、無茶苦茶怖い、ちびりそう。断っても大丈夫かな?
「すいません。俺は1年だけは1人でやっていくと決めたのです。お誘いは嬉しいですがお断りします」
緊張しながらもなんとか答えた。
でも大丈夫かな?このままどこかに拉致されたりしないかな?
すると黒澤さんは「まあ、俺のクランの話だけでも聞け。決めるのはそれからでいい」と言い、俺に仕組みを教えてくれた。
黒澤さんのクラン暁の牙では、格安でレベリング支援をしてくれるという。相場では100万円以上かかるところを、数万円でレベル3まで引き上げてくれるとのことだ。
レベル3になればそれほど多くはないにしても今よりも圧倒的に稼げるようになる。その代わり当面はダンジョンで稼いだ報酬の1~2割をクラン運営費として提供するシステムだ。途中で辞める場合は一括返済が必要なのでそれを選ぶ人はほぼいない。
レベル3にまでなったら中層での戦いにも定期的に同行できるようになるらしい。そこまでいけば、1~2割のクランへの返金があってもある程度安定した収入も見込めるという。
そうして全額返したらクランを辞めてもいいし、そのままクランにいてもいい。ただしクランにそのまま継続して入る場合は稼ぎの1割の運営費を支払うことになるらしい。
初心者にとっては100万円もの金を肩代りしてくれるようなもの。そして返金の1割~2割は凄くやさしい。その後のクラン運営費も1割とかも親切すぎる。
ともかく……確かによくできた仕組みだ。初心者にやさしいというか……あまりにもやさしすぎるだろう。こんなうまい話があるのか?と思うほどだ。何か裏があるかもしれない。
普通の人間なら、こういうクランに入るのが正解だろうな。俺のようにソロで1年かけて1万匹狩るなんて……絶対に割に合わない。
「でも……やっぱり俺は、1年は1人でやるって決めてるんです。ありがたい話ですが、お断りします」
黒澤さんは目を細めて笑った。
「ああ、そうか。話を聞いても曲げないならばそれでいい。その決意があるならやれるだけやってみろ。それが男ってもんだ。でもな、うちのクランはいつでも待ってる。気が変わったら言ってこい。……あと、あのさっきの2人がいるクランだけは絶対やめとけ。あそこは本当に搾取されるだけだ」
「ありがとうございます。今すぐじゃないですけど、もし入るなら……黒澤さんのクランに入れてください」
「ああ、待っているよ」と田嶋さんもやさしく補足してくれた。おちゃらけている人かと思ったら違う。凄くいい人だ。
黒澤さんは見た目は怖いけどおそらく嘘はないと思う。人は見かけによらないって、こういうことなんだな。
田嶋さんとのコンビもいい感じだ。田嶋さんがいなかったら黒澤さんは見た目に怖すぎて緊張して話できない。もう逃げることしか考えられないが田嶋さんのフォローがあるので何とか話ができる。
正直、無茶苦茶怖かった。でも優しかった。おそらくあの2人は信用できる側の人間だと思う。
お金と権力で支配される世の中。こんな世界にも信じられる人がいるんだ。そう思えた瞬間だった。




