第144話「代理ハンター(紗月視点)」
#第144話「代理ハンター(紗月視点)」
司くんから久しぶりに連絡があった。ちょっと心配していただけにその連絡は嬉しかったんだ。
私からたまにメール連絡しても返事もなかったからね。コロナは深刻な状況になると最悪は死に至ることもあると聞いているからやはりどういう状況なのかは気になる。
でもコロナは若い人ならばほとんどはすぐに回復するはず。
さすがにコロナで休みはじめてからもう一か月。連絡が来たのでそろそろ復帰の話かと思ったら……全く違った。
「すまん、もう少し休むことになると思う」
「えっ、本当に大丈夫なの?」
どうも、まだ体調が悪いらしい。
声はスマホ越しだから確実なことは言えないのだけど確かに少しかすれていて、本当にしんどそうにも聞こえる。大丈夫なのだろうか?
そして司くんは言った。
「自分が動けないのは申し訳ないからレベル4の代理を立てようと思う。提案書があるからリーダーの佐藤に渡して欲しい」
「司くんの体調自体はどうなの? 復帰はできそうなの?」と聞いてもそちらにはまともな返事がない。
「ああまだちょっと調子が悪い。もうしばらく療養する。また連絡するよ」
どうにもいいようがない不安が廻るけど司君がそう言うのだからどうしようもない。
そしてその後、すぐにメールで送られてきたのは、思いもよらない立派な提案書だった。その概要はこうだ。
・本田というレベル4の人物を1か月限定で自分の代理に採用してほしい
・1か月分の報酬は全額、司くんのポケットマネーから出す
・お試しで問題なければ、会社としての正式採用も検討して欲しい
……正直、驚いた。
あの司くんが、ここまできちんとした段取りを整えているなんて。自分はしんどいだろうに、クランのことをきちんと考えてくれていたんだ。
しかも自分のお金まで出して。
少しだけ見直した。司くんもなかなかやるじゃない。
そこで私はその提案書をリーダーの佐藤君に転送した。
「佐藤君、司くんからの提案書送ったのだけど見てくれた?なかなかしっかりした提案書だったと思うけど」
彼もすでに目を通していたようで少し戸惑っていた。
「すごいな……内容もしっかりしてるし、矛盾もない。良い人が来てくれるならばクランにとってかなりありがたい。そこだけは心配だけどそこは今から心配しても仕方が無いよね。そもそも1か月のお試しということだし」
「しかも、お金も司くんが出すならば文句のつけようがないよね。その案でいけばいいんじゃない?」
佐藤君はしっかりした提案書だ、内容も良さそうだと言いながらもどこか釈然としない顔をしている。どこか納得していないような?
まあ私もそれは少し同じ気持ちではある。
うまく言葉にできないけれど――何かが引っかかる。一応は司くんが考えたのだろうけど……それにしてはしっかりしすぎているような?もしかしたら誰かのアドバイスもあるのかもしれない。だからどうだっていう話でもあるのだが。
「これ……本当に御影君が書いたのかな?」と、彼はつぶやいた。
「そんなこと、私に聞かれても困るよ」
「おかしいと思うなら司くんに直接聞いたら? 私は特に問題ないと思うけどね」
そう返すと、彼は黙ってしまった。
こういう決断が必要な時は、ほんと佐藤君は頼りないのだよね。自分で判断せずに人に聞いてばかり。でも、彼は彼なりに頑張ってる。今のクランの中で一番頑張っているのは佐藤君で間違いない。
頼りないのは難点だけど、うちのクランの中ではリーダーにするなら彼しかいないとは思う。できればもう少し、しっかりして欲しいとは思うけどね。
「そうだね。じゃあこの御影君の案の通りで進めようと思う。石動さんに提出しておくよ」
「うん、それでいいと思うよ。じゃあ、あとはお願いね!」
とりあえず、提案書は石動さんに提出することになった。
きっと通るだろう。司くんの提案の内容自体は悪くない。
問題があるとすれば――その本田という人間が、どんな人物なのか?そこだけはひっかかる。
司くんの人選だ。誰が来るのかはかなり気になる。司くんと同じような命令だけして何もしないタイプならばさすがに無理だ。
そんな人だったら結果は以前と変わらない。きっとみんな拒絶する。1か月も採用する必要もないという話になるかもしれない。
まあその可能性はそれなりにあるだろうからあまり期待しすぎないようにしよう。
周りのみんなにも司くんの代理でレベル4の人が来るらしいということについて簡単に説明だけはしておいた。司くん推薦の人なのであまり期待しすぎないようにも伝えておいた。
これでどんな人が来てもそれほど大きな問題は起きないだろう。とにかく期待しすぎるのだけは良くない。
そして、その数日後。
その本田さんがやってきた。
おかしな人だったらどうしようと少しドキドキしていたが……予想外に素晴らしい人だった。本当に司くんの人選???
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