第136話「石動の思惑」
#第136話「石動の思惑」
佐藤が現状に苦しんでいるのと同じように、実は石動もまた少し困っていた。
というのも――彼のこれまでのキャリアの中で、佐藤のようなタイプをリーダーに据えた経験がなかったのだ。これまで石動が接してきた人間と比較してあまりにもレベルが低い。
御影グループは今、急速に拡大している。
次々と新規プロジェクトが立ち上がり、優秀な人材たちが競い合うように成果を出し、会社を押し上げてきた。時には失敗もあるがそれでもチャレンジするのが急成長する会社の特徴と言えるだろう。
もちろん競争だけでは軋みが生じる。そのバランスを上手に取り組織の中で様々な尖った人達をまとめ動かしてきたのが石動であり、彼自身も「結果を出せば評価される」環境で成長してきたとも言える。
だからこそ――佐藤の相談は、正直、彼にとってはなかなかに衝撃的だった。
あまりにも相談のレベルが低い。たいして何もやっていないし考えてもいないのに相談だけするとは何事なのか?耳を疑った。石動の普通が全く通用しない。石動の感覚では「様々な施行をしても、どうしてもうまくいかない場合」に来るのが相談なのだ。
率直に言えば単純にリーダー失格としか言いようがない。
だが皮肉なことに、あのクランの中では佐藤がまだ一番“まとも”なのだ。
ある意味で初めてとも言える状況、そしてその感覚に困惑する。これまでだったら何も考える必要なかった。佐藤のような人間は迷わず切るだけの話だ。
会社には必要がない。いや、下手をすればいるだけで他の人員に影響を及ぼすので害悪にもなるから早急に切り離す必要がある。多少の損をしてでもすぐに切るべきなのだ。それが一番効率が良い。
仕方なく、少しおだてながら助言を与えたが、やはり根本的な気質は変わらない。
「リーダーとしてどうあるべきか」を考える前に、自分の立場と周囲への不満ばかりを気にしている――それが今の佐藤だ。アドバイスするのも時間の無駄とも思えた。
思えば、クラン『エクリプス』の人間たちは、御影グループの普通の社員とは違う。面接を受けて入社したわけでもない。いわば“コネ入社”の集合体だ。
そこそこやる気はあるが、本質は「雇ってもらっている」側の意識が強い。
自分が成長する、そして会社やクランを大きく成長させるという意識や責任感は薄く、むしろ「居場所を守る」ことに必死な者が多い。今後の安定した生活だけを考えているのだろう。
そして何も捨てずに得ることばかりを考えている。そして他力本願。あまりにも残念な思考だ。
正直に言えば、普段の御影グループであれば面接どころか書類審査で落ちるレベルの人間が集まっているわけだ。どうにもこうにも問題児ばかり。御影グループの会社内では初めて見るタイプの人達。
石動にとっては新鮮な経験ではあったが、それ以上に――“やる気のなさ”が何よりも堪えた。
(能力がないのはまだいい。だが、やる気がないのは致命的だ。そういう人間と接することがこんなにしんどいとは……無駄にエネルギーを吸収されてしまっているのかもしれないですね)
とはいえ、これが現代の普通の“ゆとり世代”の現実でもある。御影グループのような急成長している会社で、切磋琢磨してのし上がりたいとして集まってくる人間とはそもそも考え方からして違うのである。
最低限の仕事をして給料をもらう。効率だけを重視する。そして残業や飲み会は「時間の無駄」。他の人間とのコミニケーションも不要。自分の勉強や成長よりもプライベートの維持が最優先。
そんな人間が日本に増えているのは事実だった。それでは国が成長するはずもないのだが。日本が低迷している根本的理由の1つがそこにある。そしてそういった人間を極力、面接などの段階で排除して筋肉質な体質で成長したのが御影グループだった。
(総裁が「ワークライフバランスを捨てて働く」と当たり前のことを言っただけで大騒ぎする国だからな……そんなおかしな国が他にどこにあるというのだ。本当にメディアも一部言論人も滑稽だ。今の日本はやる気のある人間を攻撃し、そのやる気をそぐ馬鹿な人間が多すぎる。そうやって成長を阻害する。それで"今の日本の低迷は問題だ”とか言っているのだから本当に呆れるしかない)
そう思いながらも、石動は自分を戒めた。
――これはこれで、自分の勉強にもなるだろう。
意識の低い人間をどう引き上げるか。それもまた、リーダーシップの一形態だ。それが可能であれば御影グループは更に多くの人を引き上げ成長し強い組織になっていくことだろう。
ただ宗教のように洗脳することができれば一番楽だが、もちろんそんなことをするわけにもいかない。誰にでも分かるようにやる気がでるように話をする必要がある。一般の研修ぐらいではどうにもならないレベルの人間をどうやって引き上げるか?
実際、佐藤への助言も、限界まで視点を下げて話したつもりだった。
しかし彼の表情からは、まるで響いていないのが見て取れた。あそこまでレベルを下げても動きそうにない。リーダーがあれではクランが組織として機能するはずもない。さて、どうしたものか?
(あそこまで下げても伝わらないか……ならばやはり)
新しいリーダーを入れる手もある。
だが、それでは“リーダーとメンバーの意識の差”が広がりすぎて、結局崩壊する可能性が高い。
ならば、リーダー補佐――あるいは助言役のような存在を新たに入れるべきか。それならばお試し程度のことはできる。何か問題があっても外せばいいだけ、崩壊までには至らないだろう。
石動は少し考え込み、ため息をついた。
会社では“使えない人間”は切ればいい。それが合理的で当たり前のことだった。次に来る、やる気のある人間を待てばいい。
だが、コネ入社の集まりのクランは違う。一応は社長直属のため切るわけにもいかず、底辺から育てるしかない。
(……初めてだな。ここまで“教育”だけに頭を使うのは)
困惑しつつも、どこかでその状況を楽しんでいる自分がいた。
今までの環境では味わえなかった、ある意味での“人間的試練”。下の人間に意識レベルを合わせるのはかなりしんどいし時間の無駄のようにも感じるが、それも自分には必要かことかもしれない。
しんどいと思う気持ちがありつつも、新しい分野を開拓できるかもしれないとワクワクもしていた。
(さて、どう動かしましょうか……佐藤君を)
石動はゆっくりとコーヒーを口に含み、深く息を吐いた。
彼の静かな目には、冷徹な分析とかすかな興味が混じっていた。
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時事ネタ入れてしまいました。Xで起業家の人達が言っている言葉をかなり参考にしています。
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