第103話「揺れる天秤(紗月視点)」
#第103話「揺れる天秤(紗月視点)」
ああ――やばい。
さつきチャンネル、何をやっても当たらない。新しい動画を投げてもグラフはきれいに右肩下がり。新規動画が当たらないからどうにもならない。コメントも減って、固定の人たちの「がんばって」って適当に置いていくスタンプと絵文字だけが目立つ。
……あーあ。あの時、司くんがちゃんとやってくれていればな。
コラボの現場で司くんが踏ん張ってくれたら少なくとも立て直しの余地はあっただろう。私はそう思ってる。
そんな愚痴を言っても仕方がないことは分かっているけど、今はほんと、どうにもならない。アイデアも尽きた。
そんなことを考えていたら石動さんが現れた。社長直轄、司くんの相談役――いや実質、監視役だね。
「紗月さん、司さん抜きでクランのミーティングをやりましょう」
司くん抜き?バレたら確実に怒られそうな案件だ。でも社長直で動いている石動さんが言うなら従うしかない。何かあっても庇ってくれるだろうし。
その夜、会社の会議室にて『エクリプス』のメンバーが全員そろった。凄いなみんな、急な呼び出しなのに真面目に参加してきた。まあ私も真面目で凄いかもね。
石動さんは、最初の一分で空気を変えた。
「結論から。リーダー交代を検討しています。司さんでは無理と判断しました」
ざわつく空間。リーダー交代ってマジですか。
でも、私は胸のどこかで安堵に似たものが弾けるのを感じた。仕方ないよね。今のままではクランは立ち行かない。普通に考えたら当たり前のことだ。
でもここで周りのメンバーからは同情のような目も向けられた。「あなたはどうするの?」って感じの視線だ。
まあ、はたから見れば司くんが失脚したら私は大変と思うよね。でも、私にはいくつか選択肢がある。司くんが抜けてもそれに付き合って私が抜ける必要性はない。
司くんがクランにいない方が私にとっても居心地がいいかもしれない。まあそれはその時に考えればいい。居心地が悪ければ抜けてもいいしね。
「新しい暫定リーダーは――佐藤くんを指名します。理由は明確。稼働日数・討伐数・報告の精度、すべて最上位だった。腐らず積み上げてきた人間に、舵を取ってもらいたい。反対意見があれば出して欲しい」
へぇ、佐藤くんが新リーダー候補か。みんなが佐藤くんを見た。彼は驚いた顔で、でも小さくうなずいた。その後はいくつかの意見が出た。リーダー交代しても厳しいのではないか?などだ。
そこは司くん以外の高レベルの人をしばらく呼んで佐藤くんを中心に何人かをレベル4に引き上げていこうと石動さんは提案した。お金はかかるだろうがそこは石動さんが何とかしてくれるらしい。
私は心の中で(やっぱりね)とつぶやく。佐藤くんは真面目で現場にいる時間が長い。私には荷が重い役だけれど、佐藤くんなら将来的に何とかなる可能性はあると思う。
最初は大変だから外部の人に手伝ってもらって軌道に乗ったら佐藤くんリーダーで動かしていくのはありだろう。
さすがに石動さんは良く見ている。少なくとも私を指名しなかったのはありがたい。私はリーダーには向いていない。そこまでの責任感はないんだ。
「一応、司さんには1か月の猶予を与えています。その1か月で司さんが本当に変わったと言える状態になったならば、申し訳ないですが今回の話は無かったことにして欲しい。司さんリーダーを継続します」
「そして、司さんが変わらないなら――リーダーを降りてもらい末席で働いてもらいます。更にそこで邪魔になるようなら、除名も選択肢です。それは私が判断するのでみんなは安心して欲しい。私に連絡と相談だけしてくれたらいいです」
なるほど、いつ司くんがリーダーを外れてもいいようにと先手先手で動いているということね。これでもう司くんはどうしようもない。いつでもスムーズに移行ができる。さすが石動さんは優秀だ。静かな拍手が、一拍遅れて起きた。
誰も声に出さないけれど、みんなほぼ同じことを考えているのが分かった。司くんリーダーのクランが嫌になっていたのだろう。私が嫌なぐらいだから他の人は猶更だ。これで新生クランになってまとまれるかもしれない。
会議の終盤、石動さんは具体案を置いていった。日次進捗、週次レビュー、安全基準の厳守、役割分担の見直しなどだ。確かにその方法でやればクランは伸びていきそうだ。たいしたものだと思う。
すでに動き出したようなものだ。このまま完全に司くん抜きで進んでいくことも考えられる。
――司くんがこの波に乗れない場合。最悪クランから放出される。
その場合に私はどうする?さすがにそんなことになっている司くんと付き合いを続けるのは無理かな?泥船に最後まで付き合うわけにはいかない。
でも、一応は彼は社長の息子だ。軽い乗り換えは将来的にリスクにもなる。クランを抜けたとしてもすぐに駄目と判断するのは早いかもしれない。難しいな。
とりあえずは佐藤くん寄りに移って現場寄りのポジションを取りにいこうか?それで司くんの前だけでは手を差し伸べるふりをするという感じがよいだろう。
それがすぐの結果は出しやすいような気がする。状況によって立ち位置も変えられる。
でもそれはそれでリスクはあるんだよな。司くんのことだ。彼抜きで他のメンバーと一緒に頑張っているだけでも激怒しそう。そうなった彼を抑える自信は全くない。その辺りも前もって石動さんに相談しておくべきか……。
今はどう動くべきか?頭の中の天秤が、左右に揺れている。考えがまとまらない。
その時、ふとレンの顔がよぎった。
――今、レンは何してるんだろ。
ずっとレベル1で司くんから“ゴミ漁り”なんて呼ばれてたけど、もうハンターを辞めた? いや、ルナと会ったはず。あの人が関わっているなら何か違う景色を見ているかもしれない。
レンはひよりと付き合っていると言っていたけど、どうなってるんだろ。もしうまくいってないなら……もう一度、私がレンと付き合えないかな。
ふと気が付くと私は自分の指がスマホのレンの連絡先に動いていた。
いや、駄目だ。今すぐに連絡を取るのはさすがにいきなりすぎる。連絡するにも何の理由もない。
それに、いま私がやるべきはクラン内での足場固めと見極めだ。あとチャンネルの立て直しも考えないと。
会議が終わり、人がはけていく。私はため息をつきながらスマホの電話アプリを閉じた。
「――まずは、現場の積み上げから。とりあえずは私もその波に乗ろう」
司くんが真面目になるなら、私は彼を支えた方がいいだろう。それが一番簡単な選択肢だ。
でも変わるだろうか?今の彼が簡単に変わるとも思えない。
どちらに転んでも何とかなるように動いていく必要がある。今後の周りの動きを慎重に見極める必要があるだろう。
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