九尾の狐
休み時間のざわめきが教室を満たしている。
友だちと談笑する女子生徒、ゲームで盛り上がる男子たち、最近できたスイーツ店にきゃっきゃと歓声を上げる子もいる。
ただし二割が妖。その数四人だ。
「んあー……」
その四人のうち一人、ユティリア。
本来なら絶世の美人な美貌の持ち主だが、今はクマが色濃くできていて、肌も荒れている。それにすごく眠そうだ。
机に突っ伏してうめいている彼女に、影がかかる。
「ユティ、どないしたん。眠そうやな」
低く甘い声にパッと顔を上げると、楽しそうに笑う男子生徒がユティリアを見下ろしていた。
ユティリアを愛称で呼ぶ彼は、ノイン・ガウン。
『九尾狐』という種族の妖の少年だ。
黒髪黒目、甘い声と色っぽい口元のホクロが特徴的な美少年。
そして、ユティリアの親友である。
「ああ、ノアー……昨日徹夜でゲームしちゃって」
「それはダメやなぁ。ちゃんと寝なあかんで」
ノア、と彼を呼んでいいのは、親友であるユティリアのみだ。それはひとえに、本人がユティリアを特別気に入っているからだろう。彼はユティリアにだけ特別甘い。
ユティリアの前の席に腰掛けて、背もたれに両腕を乗せると、ノインは「で、誰とやったん?」と笑顔を作った。
「誰と……?」
「せや。いつもチームプレイしとるやん。誰とやったん?」
黒い瞳に、嫉妬と独占欲の光が仄暗く灯る。
長い腕がユティリアの首に回されて、ぐいっとノインの方へ引き寄せられる。教室中の空気が重みを増し、視線が二人に集まる。
耳元で甘い声が響く。
「お前はオレの、最愛やろ?」
なあ、ユティ。
至近距離で咲いた黒い笑みを、ユティリアはきょとんと見つめ返す。
それをクラスメイトたちは息を呑んで見守る。少しでも動けば、命を刈り取られそうなほどの殺気で空間が満ちる。
それに対してユティリアは、心底楽しそうに破顔した。
「あは。嫉妬? かわいーね、ノア」
「……誤魔化すんでないで。オレの質問に答えるんや」
「誤魔化してないよ。昨日はね、のんびりRPGやってたの。ソロプレイ」
するりと白い指先がノインの頬を撫でる。至極面白そうに細められた紫色を見て、ノインは息を吐いた。
「なんや、ソロか。ほんならもっと早く言ぃ」
「んははっ。ごめんごめん。ノアが可愛いからさあ」
「阿呆」
ははっともう一度笑ったユティリアは、わしゃわしゃとノインの髪を掻き回す。ノインも微苦笑しながら、「やめぃや」と優しくその手を掴む。
重苦しい空気が消えて、教室のあちこちからほっと安堵の息が漏れる。
「ノアはほんと嫉妬深いねぇ。九尾狐の一族って、独占欲が強いんだっけ」
「おん。せやから父さんの目の前で母さんに触れると、めっさ怒るんや」
「なにそれ不便ー」
きゃらきゃらとユティリアは笑ったが、美少女と美少年の会話に耳を澄ませていた周囲は絶句して黙った。
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