パーティー潜入!〜女の静かなる戦いを添えて〜
「うわぁ……何これ」
ユティリアは、思わずといった様子で口を開けた。
目の前には、白亜の大理石が敷き詰められた広大なホール。
天井からは星屑を散りばめたような巨大なシャンデリアが輝き、ドレスやタキシードを纏った男女がきらびやかに舞踏を繰り広げている。
生演奏のワルツが優雅に響き、カクテルグラスの軽やかな音が断続的に聞こえてくる。
「これが上流階級の夜会……想像以上にめんどくさい場所だね」
ユティリアは、胸元が大きく開いた深紅のドレスを纏っていた。
普段の制服姿とは打って変わって、艶やかな雰囲気を醸し出している。
足元にはヒール。慣れない履物に、ユティリアは少しだけ眉をひそめた。
「ユティ、無理せんでええよ。しんどかったら、いつでもオレに言うて」
背後からそっと腰に手が回され、甘い声が耳元をくすぐる。振り返ると、そこにはノインがいた。黒のタキシードが、彼の退廃的な美しさを際立たせている。
「なーに、心配してんの?」
ユティリアが茶化すように笑うと、ノインはフッと口元だけで笑った。
「当たり前やろ。それに……」
そのままノインは、ユティリアの華奢な肩を抱き寄せる。
「他の男に、あんまりユティのこと見られたくないんや」
独占欲を露わにした声に、ユティリアは楽しそうにクスクスと笑った。
「ふーん。やっぱりノアはヤキモチ焼きだね」
そんな二人のやり取りの最中、視界の端にクリーム色のドレスが見えた。
ミィナだ。ノインに近づこうと、ユティリアとノインに気づかないふりをしながら、ゆっくりと近づいてくる。
「……あ、もうお仕事の時間だ。ノア、ちょっと離れてて」
ユティリアは、ノインの腕からスルリと抜け出すと、華やかな笑顔をミィナに向けた。
「こんばんは、先輩。一昨日ぶりですね?」
「こんばんはぁ、ユティリアちゃん。楽しんでる?」
「あはは、実はちょっと気後れしてて。こういった場所、慣れてないもので」
ユティリアは、上品に微笑みながら肩をすくめた。ミィナは、そんなユティリアの言葉を鼻で笑い、ノインへと視線を移す。
「ノインくん、さっきはごめんね。ユティリアちゃんと一緒だったから、ミィ、気づかなくって」
わざとらしく甘えた声でそう言うと、ノインの腕に触れようと身を乗り出す。ノインはそれを避けるように、一歩だけ横にずれた。
「ええよ、先輩。それより、何か用でも?」
ノインの事務的な対応に、ミィナは一瞬だけ表情を曇らせたが、すぐに完璧な笑顔を取り戻した。
「ううん、用っていうわけじゃないの。ただ、ノインくんがユティリアちゃんとばかり話してるから、ちょっと寂しくって」
ミィナはノインを見つめたまま、うるんだ瞳でそう告げた。ユティリアは、その様子を横目でチラリと見て、心の中で静かに舌打ちする。
(出たよ、被害者ぶる作戦。本当に勘弁してほしい……)
「そっか。ごめんな、先輩」
ノインはそう言って、ユティリアの背中にそっと手を回した。まるで、ミィナを牽制するように。その様子を見たミィナは、悔しそうに唇を噛み締め、ユティリアに再び向き直る。
「ユティリアちゃん、もしかしてノインくんと付き合ってるの?」
質問は、まるで何気ない世間話のようだったが、その瞳は笑っていなかった。ユティリアは、その意図を察してフッと笑った。
「さぁ? どうでしょうね。でも、ノアはわたしがそばにいないと、すぐに寂しくなっちゃうみたいで」
ちらりとノインを見ると、ノインはわざとらしくユティリアの頭に頬を寄せる。その瞬間、ミィナの表情が凍りついた。
(よし、一発目、成功)
ミィナの顔が凍りついたのを見て、ユティリアは内心でガッツポーズをした。
ノインもまた、ユティリアの頭に頬を寄せたまま、ミィナを嘲笑うかのような視線を送る。
「……そ、そういえば!」
ミィナは、急に明るい声を出して会話を切り替えた。
「ユティリアちゃん、アトラス家の事件って知ってる? つい最近、当主が逮捕されたって」
ユティリアの情報を聞き出そうと、露骨に探りを入れている。ユティリアは、そんなミィナの意図を見抜きながらも、あくまで無知を装って応じた。
「あぁ、知ってますよ。なんだか、悪いことをしてたみたいですね。かわいそうに」
「かわいそう、なんて優しいのねぇ。ミィはね、正直ざまぁみろって思っちゃった♡」
ミィナの口から、本音が漏れる。ユティリアは、ここでさらに踏み込む。
「へぇ。もしかして、あの噂は本当なんですか? アトラス家が裏で神戯売買に手を染めていたって」
ユティリアがそう告げると、ミィナの表情がわずかに強張る。
「な、なんのことかしら? ミィは、そんなこと知らないわっ」
ミィナはそう言って、ユティリアから目をそらすと、足早に人混みの中へと消えていった。
(……はい、ビンゴ)
ユティリアは、ミィナの慌てた様子を見て、確信を得た。ノインもまた、無言で頷いている。
「ねぇノア、私とダンスしてくれない?」
ユティリアがそう言うと、ノインは嬉しそうに微笑み、彼女の手を取った。
生演奏のワルツが止まり、アップテンポなダンスミュージックが流れ出す。
二人はホールの中央へ向かうと、優雅なステップを踏み始めた。
ユティリアは、普段見せることのない妖艶な笑顔を浮かべて、ノインと踊る。
「……ほんま、他の男に見せたくないわ」
ノインは、踊りながらユティリアの耳元でそう囁いた。
ユティリアの周りには、ノインを牽制するように男たちの視線が集まってくる。
「えぇー、見せつけたいでしょ? みんなに、ノアがわたしのものだって」
ユティリアは、そう言いながら、ノインの首に腕を回して、さらに密着した。
「ほんま、ユティは意地悪やなぁ」
ノインは、そう言いながらも、その表情はとても嬉しそうだった。




