本音と建前
「……ああ、なるほど。断ったから実力行使ってこと? 最悪」
無機質な壁。簡素な机と一つの椅子。
そこには、胡乱な目で目の前に立つ男たち――公安警察を見るユティリア。
男はユティリアが焦りもせずに現状を把握していることに驚き、しかし表情に出さないよう努めた。
「手荒なことをして悪かった。お詫びする」
「あー、そういうのいいから。とりあえずここ出して」
ひらりと片手を振ったユティリアに、「それはできかねる」と男は答えた。
途端に不機嫌そうに、紫色の目が細められる。
「は、なにそれ。わたしを呼び出したのは公安警察の事情でしょ? ふざけてんの?」
痛いところを突かれて、グッと言葉に詰まる男。
それを庇護するかのように、他の男は前に進み出た。
「元はと言えばアナタが我々の招待を断ったのが悪いのです」
「知らないよ、そんなの。わたしにはどうでもいい」
鬱陶しそうに顔を背ける。吐き出した息には苛立ちが含まれていた。
「なぜ断ったんです? 公安からの正式な招待ですよ?」
「正式だからなんだって言うの?」
即座に言い返したユティリアは、椅子に深く腰掛け直し、腕を組んで公安の男たちをじっと見据えた。
「断った理由? そんなの簡単。あなたたちみたいな人たちに囲まれて、毎日が息苦しいの、絶対イヤだから」
一瞬、室内の空気が凍りつく。男たちは互いに目を合わせ、顔に少しずつ動揺の色が浮かんだ。
「息苦しい……?」
ユティリアは続ける。
「公安って言うけど、なんか妙にカタイし、笑顔もないし。毎日スーツ着て、いろんな書類と数字と睨めっこして……それで本当に自分がやりたいことができるの?」
「……我々は国の安全を守るために……」
「うんうん、よくわかる。でも、わたしには無理。自由に動いて、好きなときに好きなことして、笑っていたいの。だから断ったの」
男たちの一人が小さく息を吐き、困惑を隠せずに呟いた。
「……そんな理由で……」
「っていうのが建前」
「えっ?」
急に軽くなった声色に顔を上げる男たち。
そこには、悪戯っぽく笑うユティリアの姿があった。
「本当はね、その日はノアとデートの約束があるからさ。公安の仕事よりそっちのほうが楽しいでしょ?」
捜査官は目を丸くし、室内にぽかんとした空気が流れる。
「……だから、断ったと?」
「うん」
思っていたウン十倍スケールが小さかった。
察するにノアとは、アトラス家の事件の被害者の、ノイン・ガウンだろう。そういえば、彼女の調査資料にも載っていた。
そのときポン、とユティリアはさも“今思い出した”というように手を打った。
「公安さん公安さん。ここ、危ないかも」
「は?」
要領を得ない言葉に男たちが眉を顰めたそのとき、「大変です!」と尋問室に若い男が入ってきた。
「いま、侵入者が確認されました! 侵入者は『ユティリア・ウィルシィを返せ』と繰り返しており――」
「そこにおるんか」
低く甘い声がした。
若い男の後ろには、いつのまにか人影があった。
黒髪黒目の高身長。口元のホクロと、退廃的な色気。
「迎えにきたで、ユティ」
ユティリアの親友、ノイン・ガウンがそこにいた。




