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第7話 明かされた絆とコアへの道

『――被験者コードネーム「トドウ・トモヤ」の生体認証データ、及び音声パターンとの関連性をスキャンしています……』


 AIの無機質な声が、巨大な結晶体が支配する空間に響き渡る。僕の名前と、さっき映像で見た水島先輩の姿。それが今、目の前で結びつけられようとしている。ゴクリと喉が鳴った。一体、何が起ころうとしているんだろう……。


 数秒間の沈黙の後、AIは再び口を開いた。

『スキャン完了。被験者トドウ・トモヤ。プロジェクト主任研究員・水島リク(記録上は事故により故人)との第三親等以内の血縁関係、及び特異遺伝情報の一致を確認。アクセスレベル3を付与します』


「……え?」

 僕は自分の耳を疑った。血縁関係……?水島先輩と僕が?そんなこと、今まで一度も聞いたことがない。頭が真っ白になり、心臓がドクドクと早鐘を打つ。

「え、マジ!?智也きゅん、あの若き日のイケメン研究員さんと親戚だったの!?何それ、ドラマチック展開すぎ!」

 紗雪ちゃんが、目を丸くして僕と結晶体を交互に見ている。詩織ちゃんも「藤堂さん……」と心配そうに僕の顔を覗き込んでいる。権藤さんも、さすがに驚いたのか、険しい顔で黙り込んでいた。


 僕の混乱を置き去りにするように、AIは淡々と情報を開示し始めた。その声は相変わらず無機質だけど、どこか重要な秘密を打ち明けるような、そんな重みを感じた。

『この施設は、かつて「プロジェクト・アビスゲイト」と呼ばれた極秘研究拠点でした。水島リク主任は、地下深部に存在する未知の高効率エネルギーコア、及びそれに付随する異次元空間の安定制御を目指していましたが、約5年前、予期せぬ大規模エネルギー暴走事故が発生。その結果、この領域は現実空間から半ば切り離され、現在の「ダンジョン」と呼ばれる不安定な状態へと変貌したのです』

 5年前の事故……水島先輩が失踪したとされる時期と一致する。

『私は、プロジェクトの中枢管理システム「モナーク」。事故発生以来、この領域の完全崩壊を防ぎ、封印が不完全となったコアを制御・安定化させることを最優先タスクとして、自己進化を続けてきました』


 AIの言葉は、衝撃的な事実を次々と僕たちに突きつけてくる。水島先輩は、ただの駅員じゃなかった。こんな国家レベルの極秘プロジェクトの中心人物だったなんて……。そして、このダンジョンは、その研究の失敗によって生まれてしまった、いわば負の遺産……。


『しかし、コアの不安定性は経年劣化と共に増しており、私の演算能力と物理的干渉だけでは、もはや限界が近づいています。あなた方「生存者」、特に水島主任と深い遺伝的繋がりを持つ被験者トドウ・トモヤには、コアの最深部――「コア制御室」へ到達し、最終安定化プロトコルの実行に協力していただく必要があります』

 AIの言葉と共に、目の前の巨大結晶体の一部が静かに開き、その奥へと続く新たな通路が姿を現した。まるで、僕たちを誘うかのように、通路の奥からは淡い光が漏れている。

『それが、あなた方がここから安全に脱出し、そして、この暴走が地上世界へ及ぼすであろう破滅的な影響を防ぐための、唯一の道であり……あなた方が支払うべき「対価」です』


「対価……」僕は呟いた。突然明かされた、自分の知らなかったルーツ。尊敬する先輩が遺した、あまりにも大きすぎる問題。そして、僕たち生存者全員の運命が、僕の双肩にかかっているという事実。頭がクラクラする。

『先輩は……こんな未来を望んでいたわけじゃないはずだ……。でも、もし先輩がこの状況を知ったら、きっと最後まで諦めなかったはずだ……!』

 僕の中で、水島先輩の優しい笑顔と、真剣な眼差しが交錯する。

 僕は、仲間たちに向き直った。

「みんな、聞いてほしい。僕は……行かなきゃならない。この先に何があるのか、どれだけ危険なのか、想像もつかない。でも、これはもう、僕だけの問題じゃないみたいなんだ」


 僕の震える声での告白に、最初に反応したのは紗雪ちゃんだった。

「面白くなってきたじゃん!世界の危機とか、智也きゅんの隠された秘密とか、動画のネタ的にも最高潮!ここまで来たら、最後まで付き合うしかないっしょ!」

 いつもの軽口だけど、その瞳の奥には、確かな覚悟と、僕への信頼みたいなものが宿っている気がした。

「藤堂さん……」詩織ちゃんが、僕の隣にそっと歩み寄る。「私も、行きます。私にできることは少ないかもしれないけど……でも、藤堂さんの力に、少しでもなりたいです」

 彼女の真っ直ぐな瞳に、僕は勇気づけられた。

 権藤さんは、何も言わずに僕の肩をポンと叩いた。その無言の行動が、何よりも力強いエールに感じられた。「フン……最初からそのつもりだ。お前さん一人の手に余るようなら、俺たちがいることを忘れるな」

 他の乗客さんたちも、不安そうな顔の中にも、僕に全てを託すというような、不思議な一体感を漂わせている。


 AIが、再び僕たちに語りかける。

『コア制御室へのルートを開放しました。ただし、その道中には、高度な自律型防衛システム、及び暴走エネルギーの影響を受け変異した、より強力なエンティティが多数存在します。心して進みなさい』


 新たな通路の奥からは、これまでとは比較にならないほどのプレッシャーと、何かが蠢くような不気味な気配が漂ってくる。肌が粟立つような感覚だ。

「これが、本当の始まりなんだ……」

 僕はゴクリと唾を飲み込んだ。もう後戻りはできない。水島先輩が遺した謎、そしてこの世界の運命。それを確かめるために。

 僕は仲間たちの顔をもう一度見渡し、そして、決意を込めて、未知なる領域へと続く光の中へ、最初の一歩を踏み出した。


 第七話 了

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