表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/17

第9話

 その日も、村はいつも通りに穏やかな時間が流れていた。

村人たちは畑で忙しく働き、手伝うものもいれば、日常的な仕事をこなす者もいる。

俺も、特にすることがなかったので、畑仕事を手伝うことにした。


 作業はシンプルだ。

土を耕し、種をまき、水を与える。ただそれだけだが、思っていたよりも手間がかかり、なかなかの重労働だ。

最初は力仕事に少し戸惑いもあったが、すぐに手のひらに土の感触が心地よくなり、無心で作業を進めていくことができた。


 村の人々が手伝ってくれることも多く、作業が少しずつ進んでいく。おばあさんが腰を屈めて笑顔を浮かべながら手伝ってくれた。


「これでまたおいしい野菜が取れるね」


と言いながら、彼女は根菜を一つずつ丁寧に植えていった。

その笑顔を見ていると、何気ない一日の中で、俺の心も少しずつ安らいでいった。


 昼過ぎ、村の中央にある井戸から水を汲み上げ、田畑に水を撒いていた時、ふと村の外の風景に目を向けると、遠くの山々に陽光が差し込んで美しく輝いているのが見えた。山の麓に広がる森も、深い緑が生い茂り、どこか神聖な空気を感じさせる。


 それを眺めながら、俺は自然とこの村が持つ独特の静けさを感じた。

魔物や魔王といった脅威もなく、冒険もない。ただ、これがこの村の普通の姿であり、何でもない日常が続いているということが、逆に心地よく感じられた。


 作業の途中、子どもたちが遊びながら近づいてきた。

田畑の近くには小さな川が流れており、そこで遊んでいた子どもたちは、足を濡らしながら水を触って遊んでいた。


「お兄さんも遊ぼう!」


と声をかけてきた子どもに、俺はにっこりと笑って答えた。


「ありがとう、でも今日は手伝いをしないといけないんだ。また今度ね。」


 子どもたちは少し残念そうな顔をしながらも、「また今度ね!」と元気よく答えて、再び川に駆け出していった。

その姿を見送った後、俺はまた畑の作業に戻る。自然と、こうした静かな時間が心を落ち着けてくれることに気づく。

村の人々と一緒に過ごすこの日常が、何か特別な意味を持つのかもしれないと思った。


 昼食後も作業は続き、日が傾いてきた頃、ようやく畑一面に種をまき終わることができた。

畑仕事は終わったが、手に持った鍬と土に染みついた匂いが、どこかほっとさせる。

次に何をするかは決めていなかったが、少し休憩を取ることにした。


 村の広場で腰を下ろし、日差しの中でぼんやりと空を見上げていると、遠くの山々が夕日に照らされ、赤く染まっているのが見えた。その景色を眺めているうちに、何だか一日の終わりが近づいてきたことを感じた。


 やがて、村の広場にも灯りが灯り、夕食の準備が始まった。

村人たちが集まり、みんなで食卓を囲む時間が来た。

その時の温かい雰囲気が、今も頭から離れなかった。今日もまた、何事もなく穏やかな一日が終わっていくのだろう。


 魔物も、魔王も、冒険も何もない世界で、こうして日々を過ごしていくこと。それがどこか大切なことのように感じられ、俺はその静かな時間に身を任せていった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ