第8話
次の日、村はいつも通りの静けさを保っていた。村人たちは朝の作業に忙しく、空気の中には木々の香りや土の匂いが溶け込んでいた。
俺もまた、特にすることもなく、何となく村の外れに足を運ぶことにした。
目の前には広がる田んぼや畑、そして遠くに見える山々が穏やかな風景を作り出している。
村の外には、いつもと変わらぬ風景が広がっていた。特に変化はないが、心の中では何かが引っかかるような感覚が続いていた。
昨晩の黒衣の人物たちのことを考えると、どうしても不安な気持ちが消えなかった。
しかし、村の中では何も特別なことは起きず、どこかのんびりとした日常が続いていた。
ふと、村の端にある小道に目を向けると、見慣れない人物が歩いているのに気づいた。
その人物は、年齢も若干高めの男性で、旅人のような風貌だった。
彼は特に目的があるようにも見えず、ただぼんやりと歩きながら周りを見回していた。
興味を惹かれた俺は、自然とその人物の方に歩み寄ると、少し警戒した様子で俺を見つめてきた。俺はとっさに、ただの村人だと伝えた。
「こんにちは。通りがかりの者ですが、何かお困りのことはありませんか?」
その男は少しだけ警戒を解き、穏やかな笑顔を浮かべた。
「いや、困っているわけではないんだ。ただ、ふらふらと歩いていたら、ここにたどり着いただけさ。」
その言葉に、俺は少し安心した。
しかし、どこかで不自然さを感じる。旅人にしては、あまりにも無目的な感じがする。
もしかすると、何か隠しているのかもしれない。
「村に何か用事があって来たのですか?」
俺が尋ねると、その男は少しだけ考え込み、そして首を振った。
「いや、特に用事があるわけではない。ただ、いろんな村を見て回っているんだ。」
その答えに、俺はますます興味を持った。
何となく、他の村とは違う雰囲気を持っているように感じたからだ。しかし、今はそれを深く追及するつもりはない。
ただ、何となく気になる人物だということだけは確かだった。
「それでは、しばらく村で休んでいくことにしますか?」
俺が提案すると、男はまた少し考え、うなずいた。
「そうだな。少しだけ休ませてもらおう。」
村の広場に戻ると、男は村の一角にある宿屋で一泊することになった。
村人たちは特に驚いた様子もなく、旅人を迎え入れていた。
村にとっては、こうした客人は珍しいものではない。
しかし、俺の心の中では、あの男の目的が何なのかが気になっていた。
その晩、村の広場で小さな灯りがともると、村人たちは日々の仕事を終えて集まってきた。何気ない会話が交わされ、穏やかな時間が流れていく。
だが、俺の頭の中では、あの男のことが引っかかっていた。
翌日、男は村を去ることになった。
彼は宿屋で簡単に食事をとった後、再び歩き出した。誰もが気にしないような日常の中で、あの男の姿が少しずつ遠ざかっていくのが、なぜか心に残った。
その後も、村では特に変わった出来事は起こらず、日々は静かに過ぎていった。
村の人々は相変わらず、農作業に勤しみ、他の人々と無理なく交流を深めていく。
俺自身も、特に冒険もなく、ただ静かに村の中で過ごしていた。
でも、どこかでこの平穏無事な日常が続いていくのだろうかと思いつつ、俺はただ目の前の小さな出来事に耳を傾け、村の人々と一緒に過ごしていくしかないのだろう。