第4話
食事を終え、村長が語る村の近況を聞きながら、俺は少し考え込んだ。
魔物の姿はないが、どこか不穏な雰囲気が漂っているのは確かだった。村の周辺で異常が続いているという話は、無視できない。
「それで、最近村に現れたという“異様な者”は、どんな感じの人物だったんですか?」
俺が尋ねると、村長は少し眉をひそめ、慎重に言葉を選びながら答えた。
「見た目には普通の人間だ。しかし、どこか……変だった。言葉が不自然だったり、目がぎらぎらと輝いていたり。長い髪に黒い衣をまとっていたと聞くが、あれが本当に村人でないことは確かだ」
「村の外れに現れたのはその人物だけですか?」
「いや、最初は一人だった。しかし、その後、夜ごとに村の周りに近づく気配がするようになった。数日は様子を見ていたが、さすがに村の安全を守るため、村の者たちは警戒を強めている」
話を聞くと、どうやらその人物たちは村に害を与えるような行動をとってはいないらしい。
しかし、その存在が村人たちに不安を与えているのは確かだった。
「その人物たち、つまり外部から来た者たちの目的は何か分かっているんですか?」
村長は少し黙った後、深い息を吐き出しながら言った。
「目的はまだはっきりしていないが、村人の中には何かしらの陰謀を感じている者もいる。だが、私たちの知識や力ではそれを調べることができない。だからこそ、お前さんのような旅人がいると、心強く思っているんだ」
その言葉に少し驚いたが、村長が俺を頼りにしているという事実に、心の中で少し責任を感じる。
「異様な者たちが村の周辺に現れている……その原因が分かるまで、慎重に行動したほうが良さそうですね」
「そうだな、まずは無理に関わることなく、様子を見ているのが賢明だ。しかし、お前さんもどうか気をつけてくれ。見た目には普通でも、何か裏があるかもしれん」
村長の言葉を受け、俺は一度深呼吸をした。
異世界での生活が始まったばかりだというのに、すでに思わぬ難題が降りかかってきている。
しかし、どうしてもその謎を解きたくなった。これが、俺のこの世界での最初の試練だと感じたからだ。
「わかりました。何かあったら、すぐに村長に報告します」
「頼んだぞ、旅人よ」
その言葉を最後に、村長は静かに立ち上がり、また自分の家へと戻っていった。
残された俺は、思索を深めながら、その日の夕方の空を見上げた。
――もしこの世界に何か隠された真実があるなら、それを見つけることこそが、俺に与えられた役目なのだろうか。
そして、ふと目に入ったジェンという少年が、木の棒を持ちながらも急に立ち止まり、遠くを見つめているのが目に留まった。何かを感じ取ったかのような表情を浮かべていたが、その瞬間にはそれ以上のことを知ることはできなかった。
俺はその場を離れ、次の一歩を踏み出すための準備を始めた。