第3話
村長に案内され、少し離れた家へと向かう途中、ふと村の広場に目を向けると、数人の子供たちが楽しそうに遊んでいるのが見えた。
その中で一人、若い少年が目を引いた。赤いシャツを着て、木の棒を使って何かを追いかけている。
どうやら、地元の遊びの一環らしい。だが、その動きはどこか力強く、鋭いものを感じさせる。
「そこの子供、何してるんだ?」
思わず村長に聞いてみる。村長はその少年をちらりと見て、ゆっくりと答える。
「あれはジェン。元々は村の子どもだが、最近はよく森の中で見かけるようになった。時々、奇妙な獣の足跡を見つけてくるんだ」
「奇妙な獣?」
少し気になったが、村長はその話には続けなかった。
「まあ、気にせんでいい。ジェンはただの村の子供だよ。では、こっちだ」
村長は俺を再び歩き出させ、ついに家の中に案内してくれた。小さな木造の家には、暖炉の温かい香りと共に、簡素な家具が並んでいた。
テーブルの上には手作りのパンが並び、家族の写真や小物が飾られている。生活感に満ちた空間だ。
「とりあえず、ここで少し休むがよかろう。食事ができるまで、ゆっくりしておくれ」
「本当にありがとうございます。助かります」
腰を下ろし、少しリラックスする。
現代の日本では考えられないような状況だが、どこか心地よくもある。
だが、頭の中では不安と疑問が渦巻いていた。自分が転移した世界は、どうやら俺の知っているゲームのようなファンタジー世界とは程遠いようだ。
冒険者が魔法を使い、ドラゴンが空を飛び回るような世界ではなく、むしろ人々は素朴に農業を営み、毎日を必死に生きている。
だが、それが逆に面白い部分でもある。
もし、俺がこの世界で生き抜くために必要なものを手に入れることができるなら……。
食事が運ばれてくると、話の流れは自然とこの村の話題に移った。
村長は、ラムダ村の周辺に住む人々との関係や、時折村に現れる奇妙な出来事について語り始めた。
「最近、村の周辺で怪しい動きがある。森の中から奇妙な音が聞こえたり、獣たちが急に姿を消したり。もちろん、俺たちができることには限りがある。だが、なにか大きな変化が起きようとしているような気がしてな」
「それは……何かの兆しですか?」
思わず、興味が湧いてきた。
村長はしばらく沈黙し、その後、低い声で答えた。
「わからん。ただ、最近になって村の外れに、知らぬ者たちが現れ始めたという話がある。それも、どうにも異様な雰囲気を纏っているという」
その言葉に、胸の中で何かが引っかかる。
俺がこの世界に転移してきたこと自体、偶然なのか、それとも何か大きな目的があるのか?
――そして、いったい何が起ころうとしているのか?
答えが見えぬまま、村長の話に耳を傾けながら、俺は心の中で次第に決意を固めていった。