第2話
村の中心に向かう道すがら、俺は周囲の様子を観察していた。
見たところ、この村には電気もガスもないようだ。家々には煙突があり、昼間だというのにほのかに煙が漂っている。
薪を使った煮炊きをしているのだろう。
村人たちは皆、素朴な布の服を着ており、金属製の装飾品はほとんど見当たらない。
これはもしかして、中世レベルの文明なのか? だとしたら、俺の知識や現代の技術を活かせる場面もあるかもしれない。
「おい、村長! 旅人を連れてきた!」
農夫の男がそう声を張り上げると、質素な木造の家から一人の老人が姿を現した。
背中は少し曲がっているが、目つきは鋭く、村の長としての威厳を感じさせる。
「ほう、旅人とな……」
老人は俺の全身をじっくりと観察し、そして静かにうなずいた。
「ここを訪れる旅人は珍しい。お前さん、どこから来た?」
「それが……自分でもよくわからなくて……。気づいたら森の中にいて……」
嘘ではない。むしろ俺自身が一番、この状況を理解できていない。
村長は顎を撫でながら考え込むような表情をした。
「迷い人……か。しかし、その服装は見慣れぬものだな。よほど遠い土地から来たのか?」
「そう、かもしれません」
曖昧に答えるしかない。
俺の服は明らかにこの村の住人たちのものとは違う。
日本で普通に売られているシャツとジーンズだが、この世界の人間にとっては奇異に映るだろう。
「まあ、いい。ラムダ村は困っている者を見捨てるようなことはせん。しばらくここで過ごすがよかろう」
「ありがとうございます!」
予想外の厚意に、思わず深く頭を下げる。
まずはこの村に滞在し、情報を集めながら今後の方針を決めるしかない。
それにしても、この世界は本当にファンタジーなのか?
魔法やモンスターは存在するのか?
この素朴な田舎村での生活が、俺の異世界での第一歩となるのだった。