見えているのに見えてないもの
謎謎めいた題名だがお化けではない。簡単に調べる方法がある。
片目を閉じると、大抵の人は自分の鼻の一部が見えるはずだ。反対にしても見える。しかし、両目を開けているとき、自分の鼻は見えない。
人間の脳は、左右の目からの情報を立体的に認識する際に、部分ごとにどちらの目の情報を用いるかを決めている。死角を作らないための賢明な判断だが、時にリスクになる。
指を一本立ててより目をせずに徐々に鼻に近づけていくと、やがて指が見えなくなる。これも同じだ。
平面画像を立体化するうえで、情報の置き換えが起こる。そしてその立体化されたものは、前のエピソードで話した、認識済みの物体にすり替えられる。
認識済み物体が正確に置き換えられるのであれば、効率的である。しかし、やっかいなのは光と影だ。明るいものを物体とみなすと、背光が物体となり、真の物体は影になる。逆に暗いものを物体と認識すると、本当の陰が物体になってしまう。これでは厄介だ。
目を閉じて映る景色を観察すると、窓の光は暗く見えることに気づく。そこで人間は一定以上のあるいは一定以下の光量差があると背光や影と認識するようだ。光と影を排除することでようやく物体を認識できる。しかし光量差は年を取ると認識力が落ちる。そのため、判断に迷うものは、既存の物にすり替えられていく。
老人の脳が小さくなっても生きていけるのは、判断力の衰えを記憶によって補ってからだ。