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  第9章  【第一次魔法大戦】

 私のキャバクラは連日の大繁盛で忙しい。

忙しいと言うのは嬉しい悲鳴だ。

閑古鳥が鳴くお店は潰れるだけだから。


評判を聞き付けて政府関係者も大勢やって来てくれる。

私がSSSランクだと聞いて、ヤバい関係の方々は現れなくなった。

こう言う商売をしていると、情報は何処よりも早く手に入る。


どうやら遂に米国とロシアが戦争になるみたいだ。

北朝鮮と中国とも首脳会談が行われたらしい。

中国が参入して来ると話は変わって来る。

世界大戦になるかも知れない。

私に、日本のSSSランクとして、同盟国である米国に協力して欲しいと頼まれた。


私は、「ただの民間人ですので」と丁重にお断りしたが、「日本が巻き込まれる事になるなら、協力して守ります」と約束した。


「どうした?深刻そうな顔をして?」


「うん、どうやら日本と中国が戦争を始めそうなの」

今の私は日本人だが、前世の私は中国人だ。

それに、阿籍ア・ジーは中国人だろう。


「戦いたくないね…」

小さくつぶやいた。


戦争は、勝っても負けても悲劇で、悲しみしか生まない。

人類の歴史は戦争の歴史だ。

一体どれほど戦争すれば、無くなるのだろう?

いや、無くなる事など無いのかも知れない。


一層の事、全人類を私が殺して生き返らせれば争いは無くなるだろう。

でもそれで人類は生きていると言えるのか?

何故、人は平穏に暮らそうとしない?


それから数日後、全世界はかつてないほどの未曾有の惨劇を体験する事になった。

なりふり構わず、劣性となったロシアが欧米に対して核ミサイルを発射したのだ。

すでに完成していた北朝鮮の核ミサイルも、米国に向けて発射されていた。


米国は勿論、日本と韓国、フィリピンなどに配備されていた迎撃ミサイルも数発は撃ち落とせたが、数が多くて着弾を許してしまったのだ。

全世界に死の灰が降り積もる。

私は約束通り、日本全土を覆う結界型防御壁シールドを張って守った。


死の灰は、成層圏にまで達して、地球上を死の灰が膜の様に覆い、太陽の陽射しをさえぎってしまった。

その為、作物は実らなくなり、酸素も不足し始めた。

更に全世界の季節は冬しかなくなり、何処も極寒の大地で真っ白に埋め尽くされた。

恐竜が絶滅した時も、巨大な隕石の衝突によって巻き上がった砂埃によって陽射しは遮られ、冬しか季節は無くなった。

それと同じ事が起こったのだ。

大氷河期の到来だ。

人類存亡の危機となった。


それでも愚かな人類は、戦争を止めようとはしなかった。

ロシアは残りの核ミサイルを発射したが、米国のSSSランクが魔法で撃ち落とし、死の灰はロシア上空から地表に降り注がれた。


温存していた魔法戦士軍団をロシアは投入した。

SSSランクこそいないものの、ロシアは多数のSランク以上の兵士を抱える強国だ。

米国のSSSランクに対してSランク以上の数で対抗し、Aランク以上の兵で、欧州戦線を維持していた。

まず米国を倒して、欧州ヨーロッパを相手にするつもりの様だ。


北朝鮮は南朝鮮、つまり韓国に再び侵攻していた。

日本も援軍要請を受けたが、中国が台湾から沖縄へ侵攻するポーズを見せた為、身動きが取れなくなった。

だが、韓国を見殺しにすれば、次の標的が日本なのは間違いない。

朝鮮半島を統一した北朝鮮が中国と示し合わせて、北と南から攻めてくればひとたまりもなく日本は陥ちる。


平和ボケしている日本人は危機感が薄いが、かつてロシアがウクライナに侵攻した。

ウクライナ人も隣の国のロシアに攻められた時、民間人だから安全だと根拠の無い安心感があった。

しかし女性は、小学生から60歳まで見境なく強姦された。

それを止めようとした夫や父親は、女達の目の前で射殺された。

同じ事が起きると何故思わないのだ?


日本は太平洋戦争で、朝鮮、中国人達を虐殺し、婦女子を犯した。

恨みを晴らすまで復讐の念を捨てない中国人が、自分達の先祖がやられた事と同じ事をして復讐しようとするはずだと、何故思わないのだ?


私は永田町に出向くと、政府の高官達に歓迎された。

「私が日本を防衛するので、韓国の援軍に行って下さい」


すると、渋る様にして提案された。

「お申し出は嬉しいのですが、逆に援軍に行って頂けると助かるのですが…」


「前にもお話ししましたが、守るならともかく、攻めるのは少し考えさせて頂けませんか?戦うとなると、相手を殺してしまう事になるかも知れませんので、その覚悟が出来ておりませんので…」


「そうだろうとも。誰も好きこのんで人殺しなんてしたくはないだろう。これは戦争なんだ、と言う意見もあるが、日本は専守防衛のスタンスを取っている。攻めたくても攻められない事情がある。だが、義勇兵となれば話は別だ」


なるほど、日本として堂々と送り出せないが、義勇兵として韓国防衛戦に参加するなら大歓迎って訳だ。

全く政治家って言うやつは…駆け引きで物事を動かそうとするな。


「お話しは分かりました。前向きに検討させて頂きます。また、お店にいらっしゃって下さいませ。失礼致します」


帰りの車の中で阿籍ア・ジーに相談した。

「虫の良い話だ。義勇兵なら、戦争で何をしても、万が一お前が死んでも日本政府の責任では無い、と責任逃れが出来るからな。腹立たしいが、結論は出ているんだろう?」


「そうね。義勇兵として参加しようと思う」


「お前が決めたなら、俺は付いて行くだけだ」


「来るの?」


「1人で行かせる訳ないだろう」


車窓から外の景色を眺めながら、私は別の事を考えていた。

あれから梵天ブラフマーとは1度、帝釈天インドラとは2度、隣町のラブホテルで会った。

阿籍ア・ジーには秘密の関係だ。


ここの所は暫くご無沙汰だ。

(西洋世界の神々と争いになりそうだと言ってたね)

忙しいのだろう。

2人に会うのが待ち遠しい。

まるで恋してる乙女みたいだ。

決して阿籍ア・ジーの事を嫌いになった訳ではない。

自分でも、どうしてこうなってしまったのか分からない。

よくよく考えて見れば、自分の男性関係はどれも、自分から好きになった訳ではない事に気付いた。

私は多分、自分から本気で好きになった人でないとダメなんだろう、と思い始めていた。

それに、阿籍ア・ジーとは入籍をしておらず、事実婚の関係だ。

籍を入れないのは、私が心の何処かで、別れるかも知れないと思っているからだろう。


2066年8月24日09時00分、ソウル市内にある空軍基地に私達、義勇兵は集められていた。

本来なら8月の終わりと言っても真夏日が続いており、外に出ているだけで汗だくとなっていたはずだ。

しかし、全世界に死の灰が降り積もり、今は氷点下30℃だ。

これから秋冬になると、更に氷点下150℃にもなると言う。

その前に軍事行動を起こすと言う事だ。

だがそれは、敵も同じだろうと予測される。


皆、防寒スーツを装着している。

私は普段着のままなので、皆の注目を浴びている。

生活魔法の中には、自分の体温を維持するものがある。

本当に生活魔法は便利だ。

実はレアな魔法で使える者は少なく、神族や魔族で使える者は1人もいない。

まぁ、彼らには不要な魔法だろう。


私は後方支援部隊に配属され、主に怪我人や病気、化学兵器を受けた者の治療などを担当する事になった。


正直な話、即死魔法で敵を全滅させるのは容易たやすいだろう。

人間で闇や光耐性を持っている者は極稀ごくまれなので、防ぐ事など出来ないだろう。

ちなみに阿籍ア・ジーは光、闇どちらの耐性も無いが、即死耐性と言うレアスキルがある為、無効だ。


慌ただしい人員配置で各部署に回された。

挨拶もそこそこに、すぐに急患が運び込まれて来る。

最初の1人を皮切りに、救護施設はあっという間に患者達で埋め尽くされた。


皆、身体中に銃弾を浴びている。

見ていると、ここの回復士のレベルが低くてCランク、良くてBランク程度の術士しかいない。

見かねて範囲魔法でその場の全員を一瞬で回復した。

歓声が沸き起こる。


「凄い、流石SSSランクの回復士だ」


「貴女がいれば心強い」


(気楽なものだ)冷ややかな感想だが、事実だ。

敵は平気で核ミサイルを撃ち込み、全世界に死の灰を降らせたのだ。

その罪は、死んでも償えない。

そんな奴らが相手なのだ。

手段など選んでは来ないだろう。

一部の野心家が、わずかな領土を得る為に、全世界に死の灰を降らせたのだ。


実は私自身、心の何処かでこの状況を楽観視している自分がいた。

神々なら死の灰で覆われた空を吹き飛ばして、陽射しを取り戻せると思っていたからだ。

ゲートは東洋天界、地上、魔界に通じているので、行き来は可能だ。


それに、絶対に選ばないけど、人類を見捨てて私だけ天界に行って暮らす事も出来る。

どうか私に人類を見限らせないで、と祈った。


何の罪もない子供達、ただ巻き込まれただけの民間人、皆、戦争の被害者だ。

彼らを見捨てる事なく、救ってあげたい。


「あれ?そう言えば」

阿籍ア・ジーは何処に行った?と探して聞くと、どうやら出征してしまったらしい。

1人でSSSランク10人を倒せる強さだよ。

皆殺しにしてなければ良いのだけど。

戦争を終わらせるには、ある程度の指導者級と休戦条約を締結する必要がある。


そこへ、出征していた日本人の義勇兵達が運び込まれて来た。

負傷者の傷は深く、すでに息をしていない者もいた。

次から次へと運び込まれる。

正規部隊の師団は12師団あり、義勇兵は13師団から配属され、そのうち15師団と17師団は壊滅し、16師団が辛うじて全滅をまぬがれたとの事だ。

生還出来た者もわずかで、皆、重傷を負っている。


救護班は慌ただしくしていたが、右往左往するばかりでイライラが爆発した。

「私が指示する通りに怪我人をこっちに並べろ!既に息がない者、見た目判断で見込みの無い者は、そっちに並べろ!私は蘇生呪文が使える。死んだ者は後で生き返らせる。早くしろ!」

全員が重傷者の為、優先順位を付けて死にかけていない者に『自動回復オートリジェネ』をかけて時間を稼ぎ、その間に、今にも死にそうな者達には『完全回復パーフェクトヒール』をかけた。

今度は『自動回復オートリジェネ』をかけていた者達に、『高位回復ハイヒール』をかけて治療した。

早くも魔力が尽きて来たので、魔石で魔力を回復し、死んでしまった者達に『死者蘇生リアニメーション』で生き返らせた。


喜びの歓声が上がり、拍手され感謝された。

「偉そうに指図してしまって、申し訳ありませんでした」と皆に頭を下げた。


「とんでもない。一刻を争う緊急事態だった。我々だけだったら助けられなかった。ありがとう」


そこへ、タンカーで運ばれて来た者がいた。

たくみ!?」

走って駆け寄る。


「お知り合いですか?」


「元彼なの…」


一目見て医者がさじを投げ出す状態である事が分かった。

私が来なかったら絶対に死んでいたはずだ。

ほぼ全身に銃弾を浴びて、ズタボロの状態だ。

まだ息があるのは奇跡としか言いようが無い。

涙が流れているのにも気付かなかった。


完全回復パーフェクトヒール』を唱えると、一瞬でたくみの傷がえた。

「うっ」

起きあがろうとするので、肩を抱いて起こした。


「大丈夫?まだ痛いの?」


瑞稀みずき、何でここに?俺の為に泣いてくれたのか?」

指で私の涙をぬぐってくれた。


「馬鹿ね、私がいなかったら本当に死んでたわよ?」


「本当に死んだと思ったよ。目が覚めたら瑞稀みずきの顔が見えて、ここは天国かと思った」


「ふふふ、口が上手くなったね」


「少しだけ2人になれないか?」

私は良いよと言って、たくみの後を付いて行った。

たくみの個室に案内され、ベッドに腰掛けた。


瑞稀みずき、俺まだお前の事が好きなんだ。お前が出て行ってから、俺はボロボロだった。忘れようとして義勇兵に志願したんだ」


「そうなんだ…」


抱き寄せられて口付けをされた。

されると分かったので、避ける事は出来た。

それなのに自分からも口付けを交わし、背に手を回して舌を絡めた。

たくみはキスしながら胸を触って来た。

そのまま押し倒されて下着を脱がされそうになると、我に返った私は、抵抗した。


「ごめん。もう結婚したんだったね。感情が込み上げて、過ちを犯す所だったよ。キスさせてくれて、ありがとう。俺も、前向きに進むよ」


「ずっと、聞きたかったの。私の事、追い出したじゃない。初めて貴方に怒鳴られて泣いたわ。あの後、私もボロボロだったんだから。なのに忘れられなかったなんて、酷い」


「前世で夫婦だった旦那との事を聞いてショックだった。カッとなって、取り返しの付か無い事を言ってしまった。すぐに探しに行ったけど、見つからなかった。戻って来るかと思って待っていたんだ…」


「ごめんなさい。でも一緒に暮らしているけど私、まだ結婚してないよ。」


「そうなんだ…」


無言で見つめ合うと、込み上げて来るものがあった。

もう1度、口付けを交わすと、激しく抱き合った。

私の初めてはたくみだった。

阿籍ア・ジーの事も好きだし、梵天ブラフマー帝釈天インドラとも関係を続けている。

それにたくみを加えるだけだ。


行為が終わると阿籍ア・ジーに申し訳ないと思えたので、まだ私には良心が残っていたみたいだ。

4股だって…完全に悪女だよね私。

いつからこうなった?

理由は薄々分かっている。

Hを重ねる事によって、ヴィシュヌに犯されたトラウマを克服したいのだ私は。


阿籍ア・ジーたくみかく梵天ブラフマー帝釈天インドラに抱かれる度に自分が堕ちて行くのが分かる。

ヴィシュヌに暴力を繰り返され、犯された私の心は壊れてしまった。

色んな相手とHしていると、あの時の悪夢が少しだけ平気に感じて来る。

自分のしている事が、クズ過ぎる事は十分理解している。

でもあの悪夢から、もがき苦しみから解放されたいのだ。

あの時の私が、今だに救いを求めている。

「助けて」と。

誰からも理解などされないだろう。

やり方も最低だ。

一層の事、死ねたら楽なのにと思う。

誰もがうらやましがるであろう不死が、こんなにも恨めしい。


「ねぇ?どんな相手にやられたの?」


「えっ、あぁ。北朝鮮の軍に中国兵が混ざっていたんだ。そのうちの1人が凄腕で、こちらの防御壁を突き破って撃たれた。そいつの銃は必ず命中し、なんなら横に伸ばした手から発射したはずなのに、弾が正面の味方に当たるんだ。ただ何となく分かったんだが、狙って撃った弾でなく、横や後手うしろでに回して発射した弾は100%命中しても、適当に当たる。急所じゃない場所にわざと当たる事も出来るんだ。俺はそうやって急所を撃ち抜かれるのをまぬがれて生き残った」


「そ、そいつは…そいつは、中国の銃神スキル持ちのワンよ」


「知っているのか?」


「ええ、かつて2度戦ったけど、2度とも煮湯を飲まされた。次こそ必ず借りは返す!」


「その情報は貴重だ。上官に報告したい。瑞稀みずきも来てくれるか?」


「はい」


2人で報告すると、上官も情報を得ていた。

瑞稀みずきさん、次の出征では一緒に行って頂けませんか?」


「はい、私で宜しければ、お願い致します」


「ははは、宜しくお願い致したいのは、こちらですよ」

良かった良かったと言う、安堵した表情を見せていた。


たくみが手を繋いで来て、食堂に行こうと誘われた。

途中で、戻って来た阿籍ア・ジーと鉢合わせた。

慌てて手を離す。

(ヤバい、見られた?元彼とイチャついてる所なんて、1番見たくないよね?ごめんね)


阿籍ア・ジー、この人は友達のたくみよ」


「初めまして、ご主人ですか?山下巧です。宜しく」


阿籍ア・ジーたくみ一瞥いちべつすると、挨拶もせずに私の手を引っ張って行った。

一言も喋らない。

怒ってるよね?


部屋に入ると、「紅茶でも飲むか?」と聞いて来た。

私が珈琲ではなくて、紅茶派だと知っているからだ。


「…あいつ、元彼だろう?」


「ご、ごめんなさい。隠すつもりじゃなかったんだけど、近くにいると不快にさせると思って黙っていたの」


「それで?それなのにアイツと寝たのか?精子の匂いを付けたままだぞ」


(しまった。シャワーを浴びてないし、『自動洗浄オートクリーン』でリフレッシュもしていない…)

顔が青ざめ動揺して、しどろもどろになると、

「やはりかぁ!」

激怒した阿籍ア・ジーは、襟首を掴んでベッドに押し倒して、私の顔の横のベッドを殴ると穴が開いた。


(しまった。カマかけられちゃった)

阿籍ア・ジーから、凄まじい怒りと共に殺気が向けられる。

不死であるはずの私が、死を感じるほどの恐怖。

私が阿籍ア・ジーの足元にも及ばないほど弱いからだ。

恐怖で失禁して泣いていた。


「はぁ、はぁ、はぁ。すまない。頭に血が昇った」

そう言って優しく頭を撫でると、手を取って起こしてくれた。


「漏らしてしまうほど怖かったか?」

抱きしめられながら、

「お前が梵天ブラフマー帝釈天インドラ達と浮気している事は知っていた。何で今まで言わなかったか分かるか?改心して俺だけの元に戻って来てくれると信じていたからだ」

私は、震えながら涙が止まらない。


「シャワー、浴びておいで」

耳元で優しくささやかれ、うなずいて素直に従った。


シャワーを浴びて戻ると、阿籍ア・ジーは狂った様に朝まで私を抱き続けた。

「もう浮気する隙を与えない」

(それは、私を束縛するって事?まぁ、それも良いか…)

もっとも、それで許してくれたのは、私に未練があるほど愛してくれている証拠だ。

誇り高い阿籍ア・ジーの事だから、本来なら私に剣か毒酒を渡して死を給う所だ。

不死の私には意味が無いと思ったのか、愛してるからのどちらかしかない。

愛されている事に、たかをくくっていると、いつかとんでもない目に合いそうだ。


朝になり、朝食をりに食堂に向かうと、たくみに会った。

私は阿籍ア・ジーの腕を抱いて見せ、頭を下げた。

もう貴方とは関係出来ない、との意思表示のつもりだったが、本人に伝わったかは、分からない。

後で問いただされるかも知れない。

こう言う所が、恋愛の面倒くさい所だ。


朝食はスクランブルエッグだった。

阿籍ア・ジーはパンを食べた事が無いと言っていたが、オヤキと一緒だよ?と言って、食べて見せた。

「まぁまぁだな」

なんて言ってたけど、こう言う時は大体、美味しかった時だ。


戦争中だなんてすっかり忘れていた。

現実を呼び戻したのは、耳をつんざくほどの大音量で鳴り響くサイレンだった。


北朝鮮とロシアが再び、核ミサイルを発射したのだ。

ほぼ同時に基地が爆破され、敵兵が突入して来た。

回復士が真っ先に狙われて射殺されて行く。

彼らには防御魔法をかけていたが、何の役にも立っていない。

銃弾に貫通の魔法が、かけられているからだ。


『影の部屋シャドウルーム


影の世界から侵入して来た兵士を、狙い撃ちして倒していく。

すると、影の世界を貫通して、私にほぼ同時に5発も弾が当たった。

影の世界の上空から地面に落ちて、叩き付けられた。

頭は割れて脳髄が飛び散り、手足もあり得ない方向に曲がって、折れた骨が皮膚を突き抜けていた。


すぐに回復すると、起き上がって飛んだが、再び3発の弾丸が胸を貫いた。

意識が飛び、真っ逆さまに落ちて行く途中で全快し、再び飛んで地上世界に戻った。


「久しぶりね?ワン!」


「またお前か?何故ここにいる?魔界じゃないのか?」


「貴方に答える義理はないわね」

側に転がっていた鉄パイプを拾って構えた。


「あははは、そんな物で何するつもりだ?」

引き金を引いて銃を撃たれたが、瑞稀は全て弾き返した。


「何だと?その技は、まさかあの時の女の…」


「そう、貴方がコテンパンにやられた魔王ロードの剣技よ。今の私はそれ以上だけどね」


「クソがぁ!」

両手に短銃を持ち替えて、連射されたが全て弾いた。


瞬時に両腕を叩き折り、高速で鉄パイプを一閃するとワンの両足が斬り落とされていた。

「達人になるとね、割り箸の袋で、割り箸が切れる様になるのよ?」


ワンは回復呪文が使えない為、痛みで転がった。

「よくも私に口淫させたな」

鉄パイプを振り下ろして、ワンのアソコを叩き潰した。

口から血の泡を吹いて意識を失った。


「縛って解剖台に乗せてちょうだい」

皆んなは、生きたまま解剖するつもりか?こんなに可愛い顔して、と驚愕した。


水をかけて無理矢理に意識を呼び戻す。

「やぁ、ワン、お前に何度煮湯を飲まされた事か」

鉄パイプをワンの太腿に突き刺すと、パイプの筒の先から血が噴水の様に上がった。


「楽に死ねると思うなよ?舌を噛みたくば、噛め。その瞬間に回復してやるよ」

執拗に男性のアソコを何度も何度も殴り続け、気を失っては気付け薬で意識を呼び戻した。


「おい、止めろ!条約で捕虜の虐待は禁止されている」


「こんなのが虐待のうちに入るか!」

思わずカッとなった私は、鉄パイプを思いっきり振り下ろしてワンの肋骨を砕いた。

折れた骨が肺に突き刺さり、血の泡を吹く。

血に酔った私は、そのままワンの顔を殴ると、顎が吹き飛んだと思ったら入れ歯だった。

40年も経ってるからワンもすでに70歳を超えている。

何度も顔を殴り続けると、「もう止めろ、死んでる」と言って、たくみが鉄パイプを掴んだ。


鉄パイプを持つ手を離して、床に倒れ込んだ。

「はぁ、はぁ、はぁ」

呆然として自分の両手を見つめていた。

人の肉が潰れ、骨を砕く感触が手に残っている。

我に返ると、人を殺した罪悪感と恐怖で震えて来た。


黄泉還反魂リザルト

ワンは生き返り、ついでに折れた腕と斬り落とした足も治した。


「もう拘束を解いても大丈夫よ」


「本当に大丈夫ですか?」


「この呪文で生き返ると、永遠に術者の奴隷になるのよ。と言っても本当の奴隷ではなくて、術者の命令に必ず従う様になるの。だからもう敵じゃない。私の操り人形になったのよ」

梵天ブラフマー帝釈天インドラも「私を抱きに来い」と命令して関係を持っていた。

命令しなければ2度と私を抱く事はない。

阿籍アジーを初めて本気で怒らせたし、なんでか知らないけど、バレていた。

もう、別れない限り浮気は出来ないな、と思った。


「このまま帰して、敵情を報告させましょう」

上官は本当に大丈夫か?と疑っていたが、結局私に賛同した。


「収穫はあったわ」

模倣ラーニング』によって、ワンのスキルだった銃神SSSを取得していた。

ワンは、銃神SSだったが、ランクが高い私の方が上のランクを使えるみたいだ。


あと、魔界で中国軍に出会った時、闇魔法を持っていないワン張玉ヂャン・ユゥが、影の世界を通って魔界に来ていたのが不思議だった。

その答えを聞くと、自分だけではなくパーティーメンバー全員に『影の部屋シャドウルーム』の効果を与える事が可能だそうだ。

私はまだまだ自分の能力を使いこなせず、情け無い。


出征の日は、ワンから内部情報を得てからでも遅くは無い、今は守りに徹しよう、と決まった。

この基地は敵に囲まれて補給が届かなくなっていたので、持久戦はこちらが不利だ、本来なら。

それを覆すのが、生活魔法『上菜シァンツァイ』だ。

1度でも私が食べた事がある料理を出す事が可能な魔法だ。

この呪文さえあれば、食料問題など即解決する素晴らしい魔法だ。


「食料まで出せるのか?」

基地の上官達は、感嘆の溜め息をついた。


「でも私の魔力が尽きたらおしまいなのが心配ね」

魔石のストックも残りが少なく、食料も大切だが、回復呪文が使えなくなる方が痛い。


そこへ「日本が中国の侵攻を許した。すぐに日本に帰れ」と言う電報を受け取った。

米国がロシアに対して大規模攻撃をかけていた。

その隙を突いて中国軍は台湾の軍事基地から沖縄に攻め込み、すでに占領されているとの事だ。

沖縄の民は、太平洋戦争で本土の為の犠牲になった。

また、本土の為に犠牲になってたまるかと、中国軍が攻めて来ると、県知事は民の意向ですと言ってあっさり降伏してしまった。


中国軍はほぼ無傷の状態で、長崎と山口県岩国市、広島県呉市の自衛隊基地を空襲していた。

日本は陥ちるかも知れない。


「母国の一大事だ。ここは良いから早く戻りなさい」

上官に言われた。


「もし、我々が死んでしまっても、貴女なら生き返らせてくれるでしょう?」


「勿論です」


「それを聞いて安心しました。これで死ぬのが怖くない。国の為に死ぬ!と誓っていても、いざその時が近づくと怖いものです」

ニッコリと微笑んで私を送り出した。



この基地が陥ち、全員殉職したとの報告を聞いたのは、私が日本に戻って2日後の事だった。

いつも読んで頂きまして、ありがとうございます。

次はいよいよ最終章となります。

完結しましたら、第8章で予告した通り、「〜神国編〜」の続編「〜西洋の神々編〜」の連載予定です。


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