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  第7章  【500年の刻を経て】

 毎日のルーティンで、朝、昼、夜を報せる鐘が鳴る。

途方もなく長い時間、その鐘の音を数え続けた。

私は、その存在を忘れ去られたかの様に、他の人形達と一緒に並べられ、飾られている。

梵天ブラフマーが私を抱いたのは、最初の3ヵ月ほどだけで、その後は側に来ても頭を撫でたり、脚をさすってみたりしたくらいだ。

やがて、この部屋にも来なくなった。


数える事、あれから500年と271日だ。

もっとも、天界が人間界と同じ様に、1年が365日なのかは知らないけども。


だけどここ最近は、変化が訪れていた。

「お人形さん、今日ね…」


数週間ほど前、突然この部屋に女の子が入って来た。

梵天ブラフマーの子供なのか、親戚の子供なのか、知人の子供なのかは知らない。

ずっとただ置き物の様に飾られるだけの退屈な日々から、この女の子のお陰で解放されていた。

ママに叱られた話、勉強で褒められた話、時には絵本を読んで聞かせてくれたりもした。


愛らしい子に久々に癒されて、充足感を得ていた。

するとまたしばらく、女の子が来ない日々が続いた。

気まぐれで来ていただけか、と少し寂しさを感じながらも絶望感に押し寄せられた。


その時、部屋のドアが開けられた。

女の子がやって来た。

「私に会えなくて寂しくて泣いちゃったの?」

私は涙を流していたらしい。

涙をいてくれた。


(ありがとう)と言ったつもりが、声にはならなかった。

目をキョロキョロすると、「もしかして、このお人形さん、生きてるのかな?お薬持って来てあげるね」と言って、また何処かに行ってしまった。

その日はそれっきりで、あの女の子は来なかった。


それから5日後、女の子はやって来た。

「はい、お薬あげますよ〜」

と言って液体の薬を口に流し込んで来た。

子供のする事だ、イタズラに適当な飲み物を混ぜたのだろうと思っていた。


すると、指1本動かす事が出来なかった私の身体が、動く様になったのだ。

女の子の手に握られていた薬瓶は、阿蜜哩多アムリタだった。


「遅くなってごめんね。お薬持って来ようとしたら、ママに見つかって、怒られたの」

私は泣きながら女の子を抱きしめて、何度もお礼を言った。


私は女の子に、「病気で身体が動かなくなって、ずっとここにいたの」と言って説明した。

そして、「この事を誰にも言わないでね、2人だけの秘密よ」と約束させた。


ようやく身体が動く様になったけど、状況も分からず外に出たらすぐに捕まるに違いない。

まずは、人形のフリを続けながら、情報を得よう。


「あなたのお名前は?」


「ソーシャよ」


「貴女は?」


「ミズ…」

と、言いかけて、言い直した。


小虞シャオ・ユーよ」

女の子は良い名前ね。

と言うと、口の前で指1本立てて見せ、「秘密、秘密♪」と口ずさんでスキップを踏みながら部屋を出た。


私は、まだ『模倣ラーニング』が使えるか試した。

「大丈夫、使える…」

安堵して、ポロポロと涙がこぼれた。


「良かった。殺された皆んなの遺体の場所が分かれば、生き返らせられる。まだ再起の望みはある」

自分に言い聞かせて、勇気を奮い立たせた。


泣いて落ち着いて来ると、500年以上も身体を洗っていないので、服や体臭が気になった。

お風呂に入れないので、生活魔法の『自動洗浄オートクリーン』で服と身体を綺麗にした。


「はぁ〜さっぱりした」

人形のフリは続けないといけないので、服を着替える事が出来ず、服を洗浄するしか無かったのだ。


甘露のお陰で飢えも渇きもせずに済んだ。

そう言えば甘露って、何処から漂っているのだろう?

これを断てば、神を皆殺しに出来るのでは?

でも私を助けてくれた女の子に手を下せるのか?

無理だ。

私には殺せない。

魔族を生き返らせたら、お構いなしに皆殺しにするのでは?

悩み、葛藤する。


目をつぶると、いつの間にか寝ていた様だ。

気配を感じて目を覚ますと、あの女の子か?と思ったら、梵天ブラフマーだったので、動けるようになったのがバレたのか?とドキドキした。


「はぁ〜やっぱり貴女は可愛いね。久々にでて見ようと思って来たんだ」

そう言うと、やはり執拗しつように脚を舐めてから、私の膣内なか挿入れて来て、あっという間に果てて満足していた。

動けるので、人形のフリをして声が出せないのが辛かった。


服を着せ、棚に戻して、また明日も来るよ、と言って部屋を出て行った。

そう言えば、ヴィシュヌと言い、梵天ブラフマーと言い、膣内なか出ししかされていないのに、よく妊娠しないな私…と不思議に思った。

そして、ふと思い出した。

「そうだ、たくみとHしてた時に念の為、卵子をコーティングして受精しない様にして、更に内子宮口に魔法で膜を貼って精子が入らない様にしたんだっけ?ずっとそのままだったの忘れてたわ」

取り敢えず、身を守る為に、暫くそのままにしておこうと考えた。


あれから魔族の事を調べると、残念な事に遺体は埋められず、魔界のゲートを開いて捨てられていた。

なので遺体は魔界にある。

ルシエラやフレイア達をあの時、見なかったが殺されてしまったのだろうか?

そうだ、ロードだ。

帝釈天インドラに捕われたロードがいる。

助けなくてはいけない。


帝釈天インドラの奴は、ヴィシュヌ並みに、ねちっこく絡みそうだし、暴力とか振るわれていなければ良いのだけど?と、かつての自分と同じ目に合っていないか心配した。


『影の部屋シャドウルーム』を唱えてみたが、やはり影の世界に入れなかった。

「やっぱり天界では無理か…」

影の世界に入る事が出来れば、魔界と天界を私は自由に行き来が可能になると思ったが、そんなに甘くはなかった。


「まてよ…」

そうだ、皆んなの遺体をゲートから、魔界に堕としたって聞いたな?

そのゲートを使えば、楽に天界と魔界の行き来が出来るかも知れない。


夜が来ない世界だから、闇に紛れて調べに行くとか出来ないし、ゲートを守っている人数とか、交代する時間とか調べたい事は沢山ある。

まずは退路を確認する必要があるので、ロードの安否よりもゲートが最優先だ。

最悪、ゲートから魔界に堕ちて、また最初から天界に侵攻するしかない。

可能な限り、ショートカット出来る方法を模索するけども。


だが何よりも、この人形部屋から外に出るのは勇気がいる。

開けた瞬間に梵天ブラフマーがいたらどうしようとか、見張りがいるかもとか、不安しかない。


そう言えば闇魔法の中に、索敵出来そうなのがあったわ。

その呪文がかかった物を通して、外の様子が見れると言う、隠しカメラ的な魔法だ。

ソーシャにお願いして、魔法をかけた小さな人形を持ち歩いてもらった。


どうやら人形部屋の外には見張りはおらず、広い廊下が見える。

廊下を歩くと、複数の部屋のドアが見える。

階段を登り始めた。

ソーシャの小さな身体では、かなりの距離を歩いている体感だ。

やがてある部屋の前に来ると、ドアを開けて中に入った。


「ママ!」

ソーシャが明るく声を掛けた。

ソーシャの母親は、阿修羅王の娘と言う舎脂シャチーなのか?

そう思って見ていると、そこに映った者を見て目を疑った。

ロードだ…。

でも確か両手両足を斬り落とされたはず。

よく似た別人なのか?


ロードが人形に気付いて手に取った。

「闇魔法がかけられている…神で使える者はいない。まだ魔族の生き残りが隠れているのか?私を助け様としているなら、その必要はない。帝釈天インドラの子を生み、幸せに暮らしている。あの時、亡くなった魔族には申し訳なく思っているが、ソーシャを巻き込みたくないのだ。私は復讐を諦めた。この子にとって、あいつは父親なんだ。失わせたくない…すまない」

そう言って涙を流した。


こちら側の声は向こうには届かないし、こちらから向こうは見えても、向こう側からは人形しか見えない。

ロードの気持ちは分かった。

500年もの時の流れが、立場を変らせたのだ。

私が姿を見せれば、悪い様にはしないだろう。


それから、この人形を通して分かったのだが、梵天ブラフマー帝釈天インドラが一緒に住んでいるのが不思議だったけど、天帝とその黒幕だ。

一緒に住んでいても不思議じゃない。

この寝殿は左右一対で、左に帝釈天インドラ、右に梵天ブラフマーが住んでいた。

私が安置されていた人形部屋は、右側の寝殿だったが、左側寄りであった為、ソーシャも来れたのだ。

偶然、あの人形部屋を発見したのだろう。


それにしても、嫉妬深い事で名高い舎脂シャチーが、よく側室の存在を許したな?

それに、手足はどうやって治療したのだろう?


身一つの今、私に何が出来る?

目を閉じて考えると、1つ浮かんだ。

下手に歴史が好きだと、浮かんじゃうのよね。

気が進まない策だけど…。


「美女連環の計」

三国志演義で、絶世の美女・貂蝉が董卓と呂布を離間させ、争わせた計略だ。

己の身を犠牲にして、董卓と呂布に抱かれ、仲違いする様に仕向けたのだ。

もっとも、貂蝉は実在しないので、あくまでも演義(小説)での話だ。


帝釈天インドラに抱かれ、梵天ブラフマーから私を奪ってと、耳元で囁くのだ。

「うぅ、キモっ」

やっぱり私には無理だ。

こんな下策は用いるつもりはない。

他に策はないかな、と思案するも何も思いつかない。

取り敢えず、ここを出てロードの部屋まで行ってみる事にした。


ソーシャのお陰で、ロードの部屋までの地形は分かった。

魔力も探知される可能性があるので、忍び足で向かった。

可能な限り気配を消したつもりで向かい、部屋を開けて入った瞬間に剣を突きつけられた。


「まさか?陛下!」

慌てて剣を引っ込めて、私を部屋の中に入れた。


「陛下、ご無事だったんですね?」


「ロードの方こそ…」

ハグをして2人で泣いた。


「ロード、手足は、どうしたの?」


「それが…」


話が長くなるので、つまんで話すと、帝釈天インドラに連れて行かれ、連日連夜、犯され続けた。

愛妻の目を盗んでは、隠してるロードを抱きに来た。

しかし、そのうちにバレてしまったが、手足が無い上に、元剣帝の娘だと言うのが、舎脂シャチーの心がくすぐられた。


彼女は、典型的な我儘わがままで高慢なお嬢様で、貴族以外を虫ケラの様に扱った。

ロードも元貴族である。

「没落した貴族が、お前の様に芋虫みたいに地べたを這いずり回るのがお似合いね」

あははは、と高笑いして馬鹿にしていた。

そんなので性的欲求が満たされるならどうぞ、と珍しく容認した。

そのうちにロードは妊娠した。

妊娠すると、舎脂シャチー帝釈天インドラに、私の奴婢ぬひとして欲しいと頼んだ。


奴婢ぬひは、日本語では奴隷と訳されるが、想像している奴隷とは少々違う。

侍女も奴婢ぬひである。

侍女の仕事はあるじのお世話だ。

あるじよりも早く起きて、朝霞あさげ(朝食)の支度を行い、定刻にあるじを起こしてぬるま湯が入った洗面器とタオルを用意して、顔を洗う。

それから朝餉あさげって歯を磨き、着替えを手伝う。

あるじの仕事場まで寄り添い、仕事中は邪魔をしない様に見守る。

その間、あるじから命じられれば従って行う。

仕事が終わり、帰宅まで寄り添い、夕餉ゆうげ(夕食)の準備をし、食事後は沐浴(お風呂)の準備を行う。

沐浴後の寝巻きの着替えを手伝い、寝床を整える。

あるじの寝息が聞こえて来るまで寝所の外で立ったまま待機し、あるじが寝たのを確認してから、ようやく自分も休めるのだ。

あるじが寝たと思ったら、大声で呼びつけられる事もあるので、飛び起きて駆けつけなければならない。

例えるなら、付人やマネージャーの様なものだ。

あるじより早く起き、遅く寝る。

自由など無い日々だが、あるじに寄り添う為に見栄えは良く、着る物はそれなりに豪華で、食べ物にも困らない。

奴婢ぬひ出自しゅつじが貧しければ、そんな暮らしでも涙が出るほど有り難いのだ。

あるじに捨てられれば、泣きながら、ここに置いて下さいと頼む事だろう。


話はれたが、ロードを奴婢ぬひにするにあたって、凍らせて保存していた手足に、阿蜜哩多アムリタを掛けて、くっつけて治した。

ただ、右手は冷凍されていたが、腐っていて使い物にならなかったので、誰のか分からない右手を付けられたと言う。


その右手を斬り落として、『完全回復呪文パーフェクトヒール』で治せば、元に戻ると言ったけど、ヘタに疑われる事をしたく無いので、このままで良いと言われた。


今は奴婢ぬひでは無くなり、子供を生んでからは側室に昇格したとの事だ。

舎脂シャチーに媚びてご機嫌を取り、側室の座をキープしている。

全ては、ソーシャを守る為だ。

舎脂シャチーの機嫌を損ねて、一体何人殺された事か。

愛しい娘を守る為なら、媚びる事など何て事もない。


「陛下、ここは危険です。今までどちらに?」


「私が生き返った時、阿蜜哩多アムリタに細工をされたらしく、皆んなが殺されてる中、私は指1本動かす事が出来ずに固まった。ロードの手足が斬られて連れて行かれた後、私も梵天ブラフマーに連れて行かれて犯された。その後、500年くらい人形と一緒に飾られていた」と、説明した。


「すると、ずっとあの人形部屋に?そんなに近くに…」

溜息を付くと、ここにいてはダメだと言って、取り敢えず今は人形部屋に戻る様に伝えた。


舎脂シャチーに見つかると危険だからだ。

帝釈天インドラに当然、しらされるだろうし、その前にいたぶられるだろう。

あれでも舎脂シャチーは、阿修羅アスラ王の娘だ。

夫を尻に敷くほど気が強く、戦闘力も恐ろしく高いのだ。

大魔王達と互角に戦えるほど強い。

見た目の美しさに惑わされると、とんでもない目に合う。


ロードは、1度だけ舎脂シャチーと殴り合いをした事がある。

側室になる前の奴婢ぬひの頃の事だ。

ソーシャが転んだ拍子に手に持っていたジュースを、舎脂シャチーの足に掛けてしまい、顔を何度もたれたのだ。

思わずカッとなり、つかみかかった。

剣を持っていなかった為、素手で殴りかかったのだ。

しかし、舎脂シャチーは驚くべき身のこなしでロードを返り討ちにした。

文字通りボコボコにされ、地面に転がされた。

立ち上がる事も出来ないほど打ちのめされ、殴り殺される寸前まで追い詰められた。

すると、ソーマを飲まされて一瞬で回復した。


「貴女が死んだら、誰が私の世話をしてくれるの?」

と言って回復してくれたのだ。

殺すつもりは無かったらしい。


「私も大人気おとなげない事をして、悪かったわ」

とロードに謝った。

舎脂シャチーが誰かに謝ったのは初めて見た。

これ以降、2人は仲が良くなり、舎脂シャチーはロードを帝釈天インドラの側室にする事を認めたのだ。


取り敢えずまた人形部屋に戻って来た。

今夜また、梵天ブラフマーが来ると言っていたな。

私も犯されたの入れて経験人数が5人ともなると、セッ◯スに抵抗が無くなって来たな。

梵天ブラフマーは、早漏ですぐに終わるので、私が彼女や妻だったら物足りなくて、外でセ◯レを作っちゃうかも知れない。

弁財天サラスヴァティは、浮気してるかも知れないね?


そう言えば、嫉妬深くて有名だっけ。

祀られている広島の宮島にカップルで行くと、弁財天様がカップルに嫉妬して、必ず別れされると言う都市伝説があるね。

不忍池にも同じ様な都市伝説があるよね。


そうそう、弁財天サラスヴァティは、阿修羅アスラ王と戦って勝った事もあるほど強いのよ。

全く、どいつもこいつも魔王級の強さだわ。


人形のフリをしてちょこんと棚の上に座っていると、梵天ブラフマーが部屋に入って来た。

私をお姫様抱っこしてベットに連れて行き、上に乗って来た。

口付けをしながら、胸を触られて、靴下を脱がすと、足裏に抱擁した後、足指を舐めて来る。

いつものパターンだけど、くすぐったくて笑い死にしそう。


無表情を続けるのは無理では?と思っていると、

「キミ、何でまだ人形のフリしているの?」と耳元で囁かれ、ドキッとした。


「何だ、バレてたんだ?」と、開き直って梵天ブラフマーの背に手を回して抱きしめた。


梵天ブラフマーは、半信半疑でカマを掛けただけだったのだろう。

ギョッとして、私を引き離そうとしたので、今度は私から口付けをして「抱いて?」と誘うと、それに興奮したのか?無我夢中で私の身体をむさぼってすぐに果てた。


「いつから?(動ける様になった?)」

私の髪を撫でながら聞いて来た。


「この間、私を抱いた時に突然、身体が動く様になったの」

梵天ブラフマーに甘える様にしながら答えた。


「もう私には貴方しかが無いの。大人しくするから、ここに置いて下さい」と頼んだ。


「分かった。その代わり、この部屋からは出るなよ。妻に見つかったら、お前は殺されるし、俺もただでは済まないからな」

私が自分のモノになったと思って、感情がたかぶられたのか?珍しく再び私を抱いた。

私は今まで以上に感じている演技をして、梵天ブラフマーを満足させてよろこばせた。


それから梵天ブラフマーは毎日部屋に来る様になり、私を抱いて共寝ともねする様になった。

見かけはラブラブな2人だ。

私の思惑をコイツは知らないから。


共寝しながらも私の太腿を撫で続けていた。

正直、キモい。

でも段々慣れて来た。

慣れは怖い。

平気で嘘を付ける。

自分にも、梵天コイツにも。


嘘の愛を語り、嘘の口付けを交わし、嘘の様に平気で抱かれる。

この関係をそれから1年以上も続けた。

梵天ブラフマーは私に夢中になり、2人は愛し合っていると勘違いし、私に全く警戒しなくなった。

この時を待っていた。


部屋から出るなと言われていたが、毎日こっそり室内を歩き回って配置を確認した。

屋敷内で何人かに見つかった事もあるが、存在が秘密である私の部屋(人形部屋)に着替えを届ける様になった使用人達だったので、顔見知りになり不審者扱いはされず、奥様に見つかるとマズいと言われて部屋に連れ戻された。

使用人達は私の事を梵天ブラフマーの愛人で側室候補だと思っているらしく、丁寧に対応してくれていた。


私は魔力も完全に回復しているし、能力が使えなくなったりもしていない。

ここから私だけが抜け出るのは、もう簡単だ。

しかし、ロードとソーシャも連れて行きたい。

どうすれば良いのか答えが出ず、途方に暮れた。


いつもの様に部屋を抜け出て室内を物色していると、背後に今まで感じた事が無い強い殺気を感じた。

振り返ると、冷ややかな目で私を値踏みする女性が立っていた。


「無礼者、拝礼をしないか!この方は舎脂シャチー様であるぞ!」

後ろで控えめにしていた侍女が、虎の威を借る狐みたいに偉そうに言って来た。


どうやら私は、帝釈天インドラ側に来てしまっていたみたいだ。

「失礼致しました。私は梵天ブラフマー様にお仕えする侍女です。来たばかりでまだ様子が知れず、ご無礼致しました」


とっさに嘘を付いた。

いつの間にかに平気で嘘が、口からスラスラ出る様になってしまった。


梵天ブラフマー様の所の?」

ジロジロと感じ悪く、足の爪先から髪の毛まで見られた。


梵天ブラフマー様の顔を立てて、不問にしましょう。貴女、気を付ける事ね。弁財天サラスヴァティ様は、私なんかより、よほど厳しくてよ?」

そう言うと、もう私に興味無さそうにして去って行った。


「感謝致します!」

姿が見えなくなるまで、拝礼のポーズを取る。

冷や汗をかいているのに気付いた。

なるほど、彼女もかなり強いな。

ロードがボコボコにされたのも理解出来た。


大人しく人形部屋に戻ろうとして角を曲がると、帝釈天インドラ出会でくわしてしまった。

右手首を掴まれて、左肩を抱き寄せられた。


「闇の女帝、何故ここにいる?」


「私は…梵天ブラフマー様の捕虜となり、改心してお仕えしている」


「出鱈目を。そんな話は聞いていないな」

手首を強く握られた。


「痛い。嘘じゃありません。聞いて下さい」


「黙れ!こっちに来い!」

肩を抱かれて、部屋に連れ込まれた。

ベットに押し倒されて、口付けしながら下腹部をいじられる。


「あぁ、ダメ。私は梵天ブラフマー様のモノです。こんな事をして、許されるとでも?」


「その気の強い所がたまらない。1度抱かれれば、梵天ブラフマーの事なんて忘れるさ。あいつ早漏だろ?俺のは良いぞ、忘れられなくなる。自分から腰を振って来る様になるぞ。ロードみたいに」

私はカッとなって、大声で叫んだ。


「誰か!誰か助けて!火事よ!」


「何っ」


部屋のドアを開けられ、使用人達と共に舎脂シャチーも立っていた。

「これはどう言う事かしら?あなた…」

張り詰めた冷たい空気が流れる。


「こ、これは、その…」

帝釈天インドラは動揺して、しどろもどろに弁明も出来ない。


私は舎脂シャチーの足元にすがり付いて、帝釈天インドラに襲われたと説明した。

すると、凄まじい殺気を放ち、私は蹴り飛ばされて転がった。


「お前が色目を使ったんじゃないのかい?」

傷は自動回復オートリジェネで治っているが、蛇に睨まれた蛙の様に身動きが取れない。


「決してその様な事は…」

ございません、と言おうとした私の頭を激しく踏みつけ、床で額を割って血が流れた。


「お許し下さい。奥様…」

そこへロードが入って来て、舎脂シャチーなだめてくれた。


疑り深い舎脂シャチーはロードに、寵愛を得る為に他の女を用意して当て付けたのか?と詰め寄り、今にも殴り合いが始まりそうな剣幕となった。


そこへ梵天ブラフマーがやって来た。

「そのが何かご迷惑でもかけましたか?このは私の大切な女なんだ。私に免じて許してやってくれないか?」


梵天ブラフマー様がそう言うなら…。お前、もうこちらに来てはダメよ。次に見かけたら容赦しないわよ」

舎脂シャチー帝釈天インドラの耳を引っ張りながら部屋を出て行った。


「さあ、お前も来るんだ」

差し伸べられた手を取って、起き上がった。


お姫様抱っこをされて、人形部屋まで駆け足で行った。

弁財天サラスヴァティに見られない為だろう。

終始無言だから機嫌が悪いのは分かる。


「きゃっ」

ベットに雑に放り投げられた。


あごを掴んで無理矢理に目線を合わせて、問いただされた。

「何があった?」


私は正直に一部始終を話した。

所々、話を盛って。


「私は貴方のモノだと言ったけど、俺に抱かれれば貴方なんて忘れて自分から腰を振る雌になる。俺が忘れられなくしてやると言われて、犯されそうになりました」

泣きながら梵天ブラフマーの胸にすがり付くと、優しく背中を撫でられた。


「抵抗しても、逃げても必ずお前を抱く。ずっと前から、私を狙っていたと言われたわ」

梵天ブラフマーの胸で泣き、帝釈天インドラは私を諦めていない。

怖いと言って震えると、梵天ブラフマーの瞳に静かな怒りの炎が浮かんだのを見落とさなかった。


思っていた展開と違うけど、「美女連環の計」は上手くいきそうね。

成功させるにはもう一度、帝釈天インドラと2人きりで会う必要がある。

梵天ブラフマーの背に手を回しながら、ニヤリと笑った。


いつも読んで頂きまして、ありがとうございます。

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