09.傷付いた
「――私はこの国の、騎士です」
「誰の護衛だ?」
テオドール殿下の質問の意図は分かり切っている。
「もっ!申し訳ありません…!!」
「んん?なにか悪い事でもしたのか?ランベルト…」
「…ひぇ」
小さい子どもを諭すような、ゆっくりとした声色にゾワゾワする。
「訳を話してみろ、酌量の余地があると良いがなぁ」
「…ぅぐうっ!」
テオ殿下が怒っている、かつてない程。
護衛騎士の任期は長い。
余程その騎士に問題がなければ、一人の方だけに仕えて定年を迎える場合もある。
それは護衛対象の個人情報に多く触れるからだ。生活に密着する為、知ろうと思えば何でも知れる。
だから軽々しく何人もの主を渡り歩くことはない。
――特に王位継承順位の近い者同士の間で、護衛騎士が変わるなどありえない。
俺は過去で、三年間テオドール殿下の護衛を勤めた。
多分あの駆け落ち事件がなければ、生涯そうだった。
そして今日、新たにエリアス殿下の護衛騎士に任命された。
過去では秘かにエリアス殿下の護衛になりたかった俺は。急に俺を指名したテオドール殿下の暴挙に拗ねて、数日は口をきかなかった。
「お前からエリアスの前に出たんだろう?俺も参加していればなぁ…」
「…エリアス様が」
――誰かに殺されるかもしれないから、なんて言えない。
テオ殿下は俺が言うなら、ある程度の事は信じてくれる。
奇想天外な話でも、多分。
だがこの第一王子は俺に甘く、実の弟にはとても厳しい!
本当に九つも離れているのか?と思う程、大人げない。弟を次期国王と期待しているからと言っても、余りあるものがある。
俺が弟王子の駆け落ちに同行して、顔も見ない人間に殺された、なんて言ってみろ。
"そんな事にランベルトを巻き込んだエリアスが全て悪い"と言うに決まってる!
そこは伏せて”エリアス殿下の命が狙われているかもしれないから”と言っても。
”危ないからランベルトは私の傍にいろ”と言われる。絶対に。
それに記憶の一部をぼかして伝えるなんて芸当。俺には到底できない。
「エリアス様の……っ体調が心配で!」
「そうだ…そうです!咄嗟に!顔色が悪くて思わず…よく見ようと前に…」
しどろもどろ…自分でも苦しい言い訳だと思う。
「ふむ、では心配して進み出たランを、護衛志願だと勘違いしたエリアスが悪いな?」
「!?いいえ!!?エリアス様は悪くありません!!」
それに騎士側にも最後その剣を受け取るか、選択の自由がある。
殿下の前に出たのも、剣を受け取ったのも、俺の意志だ。俺はエリアス殿下を守る。
――今度こそ。
「テオドール殿下、お許しください!!俺は…私は、エリアス殿下の護衛をしますっ!」
「…”護衛をする”か、護衛騎士になるでもなくか…うーむ」
すこし考え込んだテオ殿下が唸った。
「しかしなぁラン、せっかくした”約束”を破られて、俺はとても傷付いた」
「はっ、申し訳ありません…!」
テオ殿下に”護衛任命を数時間だけ待ってほしい”と、お願いしていた。
それなのに俺は、待ってもらった数時間の間でエリアス殿下の護衛に任命された。重大な裏切り行為だ。怒って当然だ。逆にテオドール殿下がここまで静かなのが、不気味なほど。
「だから今夜は、俺が飽きるまで付き合ってくれ」
「えっ?…なにに……?」
テオドール殿下が俺を相手に飽きる事はなく。
結局翌朝やっと解放され、寮では朝帰りと揶揄われた。