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05.兄王子


 

 祭事用の講堂は若干の緊張感に包まれていた。

「ランベルト・ルイジアス、貴公を王族護衛隊へ配属する」

「――謹んでお受けいたします」

 記憶そのままの騎士団長からの辞令に。俺は余程変な顔をしていたらしい。


「…どうしたルイジアス、第一希望だろう?嬉しくないのか」

 そう耳打ちされ、慌てて控え目に笑った。

「身に余る光栄です」

「なんだ飛び上がって喜ぶ姿が見たかったがなぁ」

 そう言って爽やかに笑う団長は、銀の髪をかき上げ今日も男前だ。

 近過ぎる距離に、冷や汗を拭う。俺は次の騎士へ場所を譲り壇上から降りた。


「団長なんだって?」

 背の高い、同期のニコライが話し掛けてきた。

「もっと喜べってさ…改めてよろしく、同じ所属部隊になるな」

「あぁよろしく、ランベルトも気を付けろよ」

「団長にか?冗談。団長の好みは若くて華奢な美男子だ」


「…お前だって、騎士団の中じゃ華奢な部類だ」

 過去の俺なら、そんな馬鹿なと鼻で笑った。

「……気を付けるよ」この忠告は正しく、過去の俺はこれから団長に困らされた。

 同じ展開が起こるなら、避けられる事象もありそうだ。



 配属先が決まり、いよいよ護衛対象との対面だ。

 もちろん国王陛下や王妃殿下の護衛は別。

 騎士団の中でも優れたベテラン騎士の務めだ。

 護衛部隊に就任すると、まずは色々な現場を体験する。王族担当といってもその相手は様々だ。隠居された現国王のお兄様や、王位継承権二桁台の幼子まで含まれる。護衛の対象によっては、勤務地も王都ではない。第二第三の都市での任務もありえる。


 配属先は騎士本人の希望で決まる訳ではない。

 ――ここで今日、エリアス殿下に会う為の第一関門だ。

 過去の俺はこれから幼馴染というだけで、初日から否応なく…。

「っおい!殿下だ…!」「こちらに来られるぞ…!!」

 噂をすれば…三年前に俺を初日から名指しで護衛に任命した。

 周囲の同僚から距離を置かせた、張本人の登場だ。



 独特の緑がかった金色の髪が、風になびく。


 まっすぐにこちらに向かって第一王子が歩いて来る。

 王族らしいゆったりとした服と、装飾品が揺れる軽やかな音が転がる。

 周囲の騎士数名が、感嘆の溜め息をついた。

 …あの王子様の外見に騙されてはいけない。


 どよめく周囲の様子など気にもしない。

 両腕をひろげ飛びつく勢いで向かって来るテオドール殿下。

 俺はすんでの所で身を躱した。

「はははっ腕を上げたなランベルト!よもや避けられるとは!」

 空を抱き締めた殿下が、振り返り愉快そうに笑った。


「流石テオドール殿下、人を驚かせるのがお上手ですね」

 すこし他人行儀にすると、不思議そうな顔をした。

「ああ勤務中だものなラン、よいぞいつものように幼馴染として話してくれ」

「……」猫なで声で、滅多に聞かない愛称で呼ばれ鳥肌が立つ。


「テオ殿下…、場所を移しませんか?」

「はははっそんなに二人きりが良いなら、最初からそう申せランベルト!」

 歩き出すテオドール殿下の後ろに続く。

 背中に突き刺さる、周囲からの視線が痛かった。



 近くにあった客室に、本当にテオドール殿下と文字通り二人きりにされた。

 まわりの護衛や衛兵に無理を言うこの方のこういう所は、三年前でも変わらない。


「ランベルト、ひどい顔色だぞ?」

「その原因の一端は殿下ですね…」

「はっはは!俺が見付けた時から顔面蒼白だったろう」

 ソファーに腰掛け、殿下が手招きする。人目もないので俺は遠慮なく隣に座った。


 両王子の乳母は、俺の実の母親だ。

 俺の母と王妃殿下は、貴族学校での親しい学友だった。

 そんな縁から、母は王子の乳母を任された。幼い俺も長い時間を王子達と過ごした。


 テオドール殿下が年下の俺の世話を焼く。

 俺は自分より年下のエリアス殿下の相手をする。

 王子二人の仲が悪い訳ではない。

 ただ歳が離れているから、俺を挟んだ方が二人の会話は増えた。


 王妃からも"両王子を頼みます"と直々に仰っていただいた事まである。

 ――どちらの王子も俺にとっては、大切な方だ。




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