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03.駆け落ち



 優秀で美しいエリアス王子。

 そんな第二王子の婚約者候補は、国中に溢れていた。


 もちろん立候補制だ。他国からもいくつも縁談が舞い込んでいた。

 我が国の有力な公爵家の一つに、カリーナ嬢がいる。

 家柄も人柄も非の打ちどころが無い。華やかなお二人が並ぶだけで絵になる。

 彼女相手ではライバル達も諦めざる得ない。


 俺が長年抱えていた想いを諦めるのにも――これ以上ない相手だった。



 エリアス殿下が車内の重い沈黙を破った。

「カリーナには、すまないと思っている」

「では、どうして――…」

 殿下の黄昏色の瞳と視線がぶつかる。付き合いの長さから分かる事も多い。

 俺から伝えるべき言葉など、もうないことを悟る。

「――本気なのですね」

「ああ本気だ」


「……二度と戻れなくなっても…ですか?」

「…覚悟の上だ」

「……どうして」

「愛している」

 ――聞きたくない!エリアス殿下が駆け落ちなんて。

 ご自分の王子としての役割に、責任と誇りを持つ御方だ。

 こんな判断を王子にさせた相手が、どうしても許せない。


 王子にここまでの覚悟をさせた相手は、一体だれだ?

 思い付く限りの人物を思い浮かべて、すぐに止めた。

 本当は一切知りたくもない。もし知ってしまえば…。

 ――自分の中にどんな醜い感情が生まれるかなんて想像したくもない。



「ランベルト、来るのか来ないのか…」


 エリアス殿下からの、はじめての個人的な頼みだ。

 駆け落ちなどお止めするのが、本当の忠義だろう。

 でも俺には、この方の頼みを断るという選択肢が無い。


「エリアス殿下…もちろん、どこまでもお供します」

「そうか…来てくれるか!」

 安堵したように笑う王子。

 駆け落ちの相手なんて知りたくもない。しかし護衛につけば、すぐに分かってしまう。

 それでも、エリアス殿下の身が心配だった。


「数多の騎士の中から、私を供に選んでいただき感謝します」

 この場に呼ばれていなければ、俺は後悔してもしきれなかった。

「殿下とお相手の方を、必ず安全な場所までお守りします…――っ?」

 小さな白い花の様な香りが強くなった。香水だ。

 そう思った時には、すでに殿下に抱きしめられていた。


「――ランベルト」

 王子の声が微かに震える。

 心細さから抱きついてきた、幼い日の王子が思い出された。

 ――なにもかも捨てて逃げる事は、相当辛いに違いない。


「殿下…」

 すっかり大きな背中に、腕を回す。幼い頃にしたようにその背を撫でる。

「……もう"殿下"ではない」

「あぁ、そうですね」

 呼び名から身元が洩れる恐れるがある。

 貴族の青年として偽名を考えるべきだろうか。

 しかし咄嗟の時に呼び間違えられないから…。


「……エル様?」

「!!!」

 すこし考えてから、幼い頃の愛称で殿下を呼ぶ。

「っぐ!!くるしっ~!!」

 そんなに嫌だったとは!殿下に絞め殺されるところだった。


「っ坊ちゃんや旦那様ですとか!他の呼び名でも!」

「――いいや少し驚いただけだ、そのままで構わん」

「そう…ですか?」

 再び気楽そうに笑う王子。幼い日の笑顔が重なって見えた。

 エリアス殿下がこうして笑った顔を、本当に久し振りに見た気がする。


 これからは王子と、王子が想う相手の為に力を尽くそう。

 この笑顔を、殿下が安心して過ごせる場所まで守り抜く。



 ――その誓いは立てて三日ももたなかった。

 ――俺は追手によって、呆気なく殺されてしまった。





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