95 みんな清い身
そしてその日のリーダーミーティング。
「第4弾の一部がキファにつられて幼児化しています。」
と、報告するクルバト。
「は?俺に?あいつらが元々ガキなんだろ??」
リーダーではないが、キファたち一部初期メンバーもミーティングに参加していた。
「だいたいチコさんはなんで俺が全部悪いと思うわけ??」
「……。」
何も言わないチコにキファが怒っているので、代わりにゼオナスが答えた。
「よく考えろ。今チコさんが古参を庇っても、反発がさらに深まるだけだぞ。キファもかなり態度や口が悪いからな。」
「……くそっ。」
キファは不貞腐れする。
「石籠君たち、こんな大房民に関わっても逃げ出さないのでいいじゃないですか。」
エリスの代わりに来ていた牧師クレスが楽しそうに言った。
「クレスさん……。牧者なのにこんなって言わないで下さい…。だいたいあいつら、見た目で響さん悪く言っていてひどい奴らです。女性に失礼過ぎます。」
「……お前らが、くだらないことを言うから評価を下げているんだろ?」
サルガスから見れば、浮かれているキファたちのせいである。
響さん話に加われないイオニアがここでため息をついたので、キファは頭に来て言いつける。
「くだらないって、ゼオナスさん。弟さんをどうにかして下さい!!俺を蔑みました!
あ、ついでにあの第4弾も一緒に!!ベガスなんて結婚対象にもならないって言ったんですよ??侮辱が過ぎます!!性格悪すぎる!!」
イオニアの名前も言いたくないキファである。
「でも彼ら非常に霊線がキレイですよ。どこでするにしてもきっといい結婚をします。応援してあげてください。」
クレスは笑う。
「キレイ??あいつらが???」
「霊性やサイコスの習得もまっすぐで速いでしょ。何も絡まっていないからです。性格は少し面倒ですが、内面はいいですよ。」
「……」
意味が分からなくて少し考える大房民。
「…あ…。」
そしてキファでも分かってしまう。
「あいつら童貞?」
バシっとサラサにファイルで叩かれる。
「いだっ!」
「そういう言い方をしない!」
「サラサさん~っ」
「あのね。第2弾以降は、半分以上貞操を守ってここに来た人たちです。そもそも、性関係があまりに複雑だったり、抑制が効かない者はアーツに入れていませんので。」
「…え?マジ?」
篤実な新旧教や正道教だったり、ユラス教だと男女共に貞操が多い。もちろん霊視も100%ではないし、基準が上がれば上がるほど引き寄せられるものも多く、問題が増える場合もある。けれど、そんなにとは予想していなかった。
「あいつらも?」
「みんなじゃないですが、もちろん。」
「え?もしかして常若の雰囲気イケメンどもも?」
「なんて言い方をしているんですか。中央区中央ほどではないですが、まあぼちぼちいい感じかな。」
遊び散らかすとまではいかないが、ここに来るまでそれなりだったキファは信じられない顔をしている。
「………。」
ライブラやナシュパーたちの方も見てしまう。
「…………」
何人かは何となく笑っている。
「…え?マジっすか…?」
どう考えても彼女がいそうだし、溜まらないのか。いろいろ。
「キファ、もうね、持っている霊性や精神性のスタート地点が全然違うから。あと、詮索するのはやめなさい。失礼です。」
「え?だって…」
ほとんどが年上なので信じられない。
「しばかれたいの?」
サラサが笑うので怖い。
「あ、はい。ごめんなさい。」
端で聞きながら、サラサさんシバくってどういう風にしばくんだろうと、どうでもいいことを考えているクルバトであった。大房民はとにかく考えることがゲスいのである。
キファは自分の人生を、世や国、人のために使うという発想すらなくこの歳まで生きてきたので、ベガスに来る前から世の中のために生きたいと思っていた人間がいることに信じられない思いがある。そこそこモテそうなメンバーもいて、自分ならそうは生きない。
アーツができた当初、片付けに来いと言われチコと追いかけっこをした流れでそうなってしまったが、サルガスたちが誘ってくれなかったら今も大房にいて、こちらを見ている側であっただろう。
なぜ自分だったのか。
「…………」
一体どう生きたら、どんな環境にいたら人を助けたいと思う子に勝手に育つのだ。
「……。」
会議をしているメンバーをジーと見ていると、またサラサと目が合った。
「…っ!何すか!もう何も言いませんよ?!」
怒ると怖そうなので、サラサには従順である。
第2弾以降のメンバーは、既に祖父母や親、数代前から、何かしらの形で社会や地域に貢献してきた者が多い。あとで健在の祖父がVEGAワールドに関わっていたと分かった者もいた。
サルガスもそうであるが、直近先祖では視えなくても、大房第1弾も辿ればみんな何かしらあるだろう。
三代四代、それ以上夫婦親子仲が良くて霊線が一直線だと、ある時点から優秀な子や性格の根幹のいい子や真っ直ぐな子が一族にたくさん生まれてくる。ファクトや響もそうだが、霊性が突き抜けているのだ。二人の家系は、両親共に七代八代は不和による離婚再婚がない。家族問題がないわけでもないが、どこかしらでバランスを取りながら家族親族が信頼し合って助け合ってきている。
問題があっても、家系内で昇華できる場合が多い。
逆境だからこそ生まれる起点的子孫もいるが、そういう場合、その子がその一点になれないと家系によってはそのまま歴史に消えてしまう。
でも、たった一人。
一人でも、その縦に続く生命線の中で人を、運命を怨むだけでなく愛おしんだ者がいれば、その生命線はまたどこかに枝を繋げていく。
いつしかそれは民族や国になり、
そのきれいな線が多ければ多いほど、安定した強い国になる。
命は必死に未来を繋いでいるのだ。




