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ZEROミッシングリンクⅥ【6】ZERO MISSING LINK 6  作者: タイニ
第五十一章 変わる僕ら、僕らは変わる

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89 そっくりですよ



「まあ彼、いい子ですよ。

チコ様にそっくりです。」

VEGA事務局の一室でそう言ったのは、ジョアの妹メレナだった。


「なんで私なんだ…。」

チコが嫌そうに言う。

「あら?第1弾もみんなチコ様に似ていますよ。よくこんなメンバーが集まったものだと思いましたもの?」

「はあ?」



そんなやり取りをしている横で、事の次第を知ったサルガスとタウ、シャウラ、ソアはため息をついた。

「それ、いい子なんですか?」

「壊れた事務所の始末書、書いたの俺なんですけど。壁さえ壊れなかったら内々に収められたのに…。」


ランスアの事情を知っているのは、この他にタウの妻のイータで、アーツではこの5人だけだ。ベイドに話すかはソアに任せた。


彼らは最初の面接の頃、同じく虐待や性犯罪被害者で試用期間に入れないほど不安定だった者を、施設に預けた時に関わったメンバーだ。その他大房以外のメンバーでランスアの事情を悟った者たちもいたが、状況が落ち着くまで詮索しないようにお願いした。

ソアはまだ生まれて間もない子供がいたが、少し落ち着いてきたし、大房の人間関係にも比較的詳しく、事情のある人間や問題児によくしてしてあげられる許容量が大きかった。ソアのダンスチームの人脈から、加害者の目星も付いている。



「優しいですよ。あの子。

机やガラスなんてチコ様やアセンにぶつければいいものを、そうしなかったんでしょ?」

報告を聞いているメレナは淡々と言う。ランスアはひどく攻撃したように見えるが、なんだかんだ言って人には何もぶつけていない。

おそらくチコたちでなければ、あんな事もしなかったであろう。

「事務所が一室壊れたのはいけない事ですが、その部屋一つで人間一人が帰って来るなら何も言うことはありません。」

「……」



「完全に惹かれて来てますよ。霊性が引っ張ってきたんです。」

メレナは静かに続ける。



家やお金が欲しかったらもっと自由な地域でいくらでも女性に甘えればよかったのに、こんな規則だらけのベガスに来る理由がないですもんね。」

「……。」

それでも今、彼は寝込んで頭痛で呻いているのでチコも心配になる。


「それに河漢に3人女性が出入りしていたので、直接事情も聞いて後は霊視したんですが、女性に暴力も振っていないようですし無理強いもさせていません。こういう場合、加虐関係があることが多いけれどそれもないようで。」

メレナが資料とランスアの直筆のサインを触り、ゆっくり話す。

「………依存関係はありますが、相手女性に鬱傾向はありませんし。深く依存関係になるような女性には手を出さないか、そうなる前に引いています。」

「……。」


「リギルにしていることは許せないことですが、パートナーや家族の金を強奪していく男はいくらでもいますからね。」

誰かがお金をくれなかったら、他の人の所に行くだけで最終的に強く奪うこともしていない。そして一時の関係でなければ、自分が女性にだらしがないことを隠すこともしていなかった。つまり、相手の女性もランスアがあちこちに女性関係を作っていることを皆知っていた。よい話ではないが、唯一の相手と思わせるよりはまだいいだろう。

訳アリや繊細、潔癖などあとを引く女性には手を出していなかった。


「でも、揉めることはあるだろ?」

タウがズバリ聞く。

「…そうですね。女性同士が会ってしまい揉め事になることもなくはないようです。それはランスア本人から聞きました。でも揉め事は放置すると言っていました…。」

「………」

やはりどうしようもない男である。





こういうことに関わるメンバーは、複雑な事情に対処する基礎教育に参加している。


過去がランスアのような状態だと、自傷行為だけでなく性嫌悪、同性嫌悪、異性嫌悪に陥ることが多い。


逆に性依存、性境界性喪失になる場合もある。


つまり、度合いはあるがひどいと見境なく性に手を出すのだ。こちらも一種の自傷行為で、自己喪失の場合と、自身を救ってほしい人や被害を助けてくれなかった人などへの、身近な人への当て付けや潜在的なSOSの場合もある。身近な人に分かってもらえないと、それこそ外のその傾向が向かって行く。


自身をあきらめている、自身を嫌悪している場合。自らの意思で傷に上乗せをして加害を受けたことを忘れる、薄める、ぼかすなど様々ある。



被害者が加害者になることもある。


行政や施設に関わる人間や養父母やその家族に、性アピールをしたり手を出す者もいて、養子や里子を貰う家族側も一連の勉強をして報連相を徹底することを求められている。どちらも加害者にも被害者にもならないために。


この場合、何かしらの行動性、脳機能障害を持っている場合も多い。もともとの人としてあってしかる性への関心や積極性にプラスし、制御すべき社会性や常識まで壊されてしまったのだ。

初めからその傾向があると分かっている場合、複数機関の承認を得て投薬することもある。社会的常識や感性の復帰教育をしても自制ができない場合だ。投薬によって無気力や鬱になってしまう場合もあり危険だが、どちらに重きを置くべきか慎重に話し合う。



ランスアが病院に通い飲んでいたのは、副作用の少ない躁鬱のクスリであったが、大房の医者は原因までは知らなかったようだ。

ベガスの精神科医はある程度霊性で分かるが、本人が望まない限りそこには言及しない。最終的に根本的原因は病院では見きれないので、パイシーズというVEGAのような団体のカウンセリングに一旦送る。



「………。」

タウはなんとも言えない思いになる。大房以上にこういう被害が多いのが河漢だ。


けれど大房は、性犯罪だけでなくある程度知恵が入った見えにくいいじめや虐待も多い。河漢は虐待も隠しきれなっかたり隠さない場合が多いのだが、大房の祖父母親世代は体裁を保とうとして微妙なところで一般性を保つのだ。



タウの妻イータは直接体への性被害も暴力も受けていないが、その母親はずっとイータの女性としての性部分を煽ったり貶めることをしてきた。


「魅力がない、誰もお前を好きにならない」と言うかと思えば、「男を煽るどうしようもない女、恥ずかしい」だとか。イータは子供の頃からずっとそう言われてきたのだ。

成長して必要な下着が欲しければ、親は要らなくなった自分のものを投げる。子供が付けられるようなものでもなく、その後の対応もひどかった。


学校の女医にお願いすれば生理用品など貰えたが、それが見付かると取り上げられた上に、もう行くなと叱られた。公的補助に頼れば場合によっては家庭に監査が入るからだ。


ピンクがキレイだと言えば「固定観念に囚われていいる女の典型だ」と言われ、友人兄のお古のメンズバッグを身に付ければ「男っぽい自分を見せつけたいのか」「その歳で男がいるのか」と訳の分からないことを言われる。女でいても、女を捨ててもダメなのだ。貰ったものも全部追及され、没収されたり傷付けられたりした。


あの頃のイータに接触したのが、通っていたダンススタジオの姉さんたちやソアで本当に良かったと、今タウは心底感謝している。一歩相手が違ったら、イータの今の未来はなかったかもしれない。





あの後ランスアは状態がひどくて、監視が出来る別の場所に移している。


「……でもチコ様も思い切ったことをしましたね…。」

少し疲れた顔のチコに、ガイシャスは疲れた顔をした。

「……向こうからリギルに手を出したからな。大人しくしていればここまで一気に飛んだりはしなかった。」

本来望んで助けを求めた者でなければ、あんなにいきなり込み入った話はしない。」

「……」

「それに…私は直接そこまでは言っていない。」


ガイシャスは「それは微妙なところだ……」と言う顔をする。はっきり言ってしまったようなものだ。




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