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ZEROミッシングリンクⅥ【6】ZERO MISSING LINK 6  作者: タイニ
第四十三章 緑の瞳
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8 弟もできる



シェダルの話が済んだので、コース料理の残りを入れてもらう。


恐ろしい量を食べているのはファクトだ。

「………。」

なんとも言えない顔でファクトを見ているサダル。

「は!……議長。自分食べ過ぎてすみません!

チーズボール追加で頼みます?」

「………いい。いらん。」


しかもミザルはかき氷を追加。延々とポテトとかき氷を食べている。

「………。」


「あと……。これは報告なのだが…」

ポラリスが嬉しそうに言い出しミザルに寄り添う。対面にいて、半席分、間を開けている夫婦とは対照的だ。


ミザルが少し困った顔でため息をついた。


「えっと……」

夫婦二人で顔を見合わす。

「ちょと恥ずかしいな。」

と、ポラリスが言ったところでファクトが言う。


「おめでとう。」


「っ?!」

驚く両親。

「あ、ごめん。父さんどうぞ。」

「……?」

チコは、何だ?と言う顔をするが、サダルは何か分かっている感じだ。


「おめでただ。」


「え?」

止まってしまうチコに、恥ずかしそうに横を向いてしまうミザル。


「2人目だ。」

とポラリスがピースをした。

「えええ!!!!」

チコが立ち上がりそうな勢いで驚くので、室外で控えているグリフォが一瞬部屋を覗いていた。


「……うそ。」

顔を押さえて嬉しそうなチコは、それ以上の声もない。


「……母さん、おめでとう。」

「…………」

「…恥ずかしいの?」

「さすがに40半ばだもの。上はもう知ってるけどね。職場に言いにくい…」


ファクトとほぼ20歳離れていることになる。ただ、この時代は更年期も遅く、経産婦は50歳前くらいまでは比較的安全に産めるため、自分の子供の子と近い歳の姉弟がいることはそこまで珍しくはない。霊性も発達しているため、体のバランスが良く昔より出産もしやすい。とは言っても、妊娠出産は個人差が大きいし、体的には半初産のような覚悟はしている。


ただ、ミザルとしてはあれだけ夫を邪険にして、結局仲良くしていたのかと思われるのが恥ずかしいのだ。

サッサとタニアに帰ったら?と言っても夫は帰らないし、あなたみたいな人イライラするんだけど、と研究室を追い出してもまたすぐに来る。ミザルがどう言おうが、ポラリスには関係ないのだ。ミザルとしては自分が夫に対するようにされたら、2度と会いたくないであろう。ミザルから見ると、ポラリスは完全に測定不可能な異星人である。


「……弟。」

サダルがボソッと言う。


「弟?」

「多分ね。もうすぐ4か月になるかな。」

ポラリスが肯定する。霊性で感知した性別だ。

「………ほんと?前いつ会ったっけ?分かんなかったや……。」

「今のところ健康体。ファクトの時と違って、今のとことつわりもあまりないみたいで職場には行ってる。でも出産までは健康に産まれるまで分からないけどね。まだ、関係者にしか伝えてないから。」

「分かった。母さん、無理しないでね。」


「…弟…。かわいい…。」

まだ生まれてもいないのに、チコが感動している。


「てか、こういう時って、かわいい妹ができました!ってパターンが多くない?弟?」

弟ラッシュで困ってしまう。アーツ関係、なぜみんな男児なのだ。またあの暴走ターボ君のように操縦不可能な者が増えるのか。それともマリアスの息子、デルタのような優しい勤勉少年になるのか。前者しか思い浮かばないのはなぜだ。


「サダルはともかく……ファクトも分かるのか?」

ファクトが気が付いていたことにポラリスが驚いていた。いきなり偏食になったことがつわりだと分かる男でもあるまい。それともベガスに妊婦が多いからか。


「………そこに…。小さくいるから。」

母のお腹を示して言う。


母と重なった命がもう一つ見える。


「……………」

みんなしんとなる。


これまではミザルが嫌がるので、ファクトの(ひら)けている霊性の細かい話は両親にもほとんどしてこなかった。


「大丈夫。ちゃんと(とも)ってるよ。」

ファクトは母に静かに笑った。




***




「ニュースを見てびっくりしたんですよ。」

驚いているのはこの店のオーナーだ。


「まさかナシュラだってなんてな!」

サダルがSR社の研究員の頃、同僚に連れられて何度かこの店に来たらしい。その頃、知り合いになった店長に言われても何の反応せず、サダルはふーんと聞いているだけだ。


初めての家族での会席だからもう少しフォーマルな場にしようかと思ったが、ミザルがポテトフライがある店がいいと言うし、ここならプライベートも守れるのでファクトの好きそうなチキンにしたのだ。ただ、チキンと言っても他の店とは値段が違う。チキン以外にケバブやスペアリブもある。



オーナーは先まで心星博士たちに挨拶をして、今度はサダル夫妻と話している。当時ナシュラ・ラオだった男は、サダルメリク・ジェネス・ナオス。


ナオス族の族長であり、ユラス人の全議長であった。



「奥様も美しい方で驚いています!オーナーの景王滋です。」

「チコ・ミルクです…。」

アーツを相手にしている時と違って、ほとんど会話をしなかったチコは、出された手にオドオドと握手をすると思いっきり手を握られる。

「?!」

両腕のコーティングはあまり完全な人間仕様にしていないので、チコは手袋をしていた。そんな手をぶんぶん降られる。

場に馴染めず振り回されているチコを、ユラスの護衛が少し異様なものでも見るように眺めているのがグリフォには分かった。大房のオバちゃんチコを知った後に、心星家ラブの初心な様子。なおかつ心星家には逆らわないチコなど、一連のチコを見てさらに驚いているのだろう。


このオーナーも軽い雰囲気で、倉鍵に店を構える社長というより大房にいそうな感じだ。ただ、体を鍛えていそうで目も鋭い。

ファクトは、あんなに不愛想なサダルなのに、こんな人たちと人脈があるのかと驚く。チコも同じことを思っているようで、自分の夫は何者だ……という顔で眺めていた。こんなに不愛想でどうやって知り合いを作るんだと。



でも、サダルは人間を扱うのに非常に長けていた。


不愛想でも、人を取り囲う才能があった。そして、サダルは基本敵を作らない生き方が身についている。中に入っていき、味方に取り込む。それは頼りない親を支え、孤児として内外の戦争の中を生きてきた戦略でもあり、正道教徒としての生き方でもあった。


その後、ファクトはチーズボール3種の大量のお土産を買ったので、調理説明を聞いて受け取る。

「一箱おまけしておいたから。あと、こちらは心星博士に!」

「ありがとうございます!」

そうしてその場を離れた。





ファクトは駐車場でポラリスに言われる。


「おい、ファクト。久々にうちに来るか?」

「いい。ベガスに帰る。」

「なら、あの無愛想夫婦、二人っきりにさせてやれ。あのままじゃヤバいだろ。」

何がヤバいのだ。なんとなく言いたいことは分かるが。

「……分かった。母さんよく見ててあげてね。」

親にグッドサインをし、待っていたレオニスに頼んで別の車でベガスに帰ることにした。


「チコ、アンタレスにいる時くらい夫婦仲良くね。」

「……一緒に帰らないのか?」

「うん。俺タクシーで帰る。」

「誰かに送ってもらえばいい。車も2台あるし、どうせベガスだろ。」

「俺のことは気にしなくていいからさ。議長、ごちそうさまです。」

「ああ。」


ベガスからは2台出ていたが、既にファクトが呼んだタクシーがエントランスに到着していた。

「じゃ!」


ファクトはそのまま店を去った。




***




アンタレスのVIP層が使用するホテルで二人はこれからの話をする。


おそらくチコはバッベジの正血統だと言うことは世間に公表するだろう。



そうすることで、チコにもサダルにも有利なことがたくさん出てくる。

まず、チコの存在性、必要性をナオス族長系列の家系の中で主張できる。これまでチコは、いてもいなくてもいい人間だった。むしろなぜいるのかと。そこに、ユラス民族血統という同族関係が生まれる。しかも濃い、バベッジの血だ。


けれど公表してしまったら、もうチコはサダルと別れることがあっても、ただの人には戻れない。


好き勝手生きることもできるだろう。バベッジ族長の地位を望んでいる訳でもない。そして、ギュグニー一国の長の孫、シーの姪という事で責められることもあるだろう。


でも、ユラスでの今の立場はきっと変わっていく。ただ、血があるというだけで。



「テニア氏はいたのか?」

チコはまだ帰ってこない実父のことを聞く。サダルはチコの前まで来てしゃがんで両手を握る。

「いや。でも、公表するのはチコのためだ。」

「……今のままでもいいけれど……。」

公表の一番大きい理由は、カストル総長師長の名誉回復と、その仕事の推進のためだ。けれど、バベッジにも混乱を起こすかもしれない。

「………きっと、何か意味があって血族がここまで戻って来たんだ。そう思おう。チコも……」


弱々しい顔でチコはサダルを見つめる。バベッジも別に今までチコを助けてくれたわけではない。今さらそんな血に頼りたい思いもない。

「…血って…、何とも言えないな……」

「ここまで評価を上げたのはチコたちの努力そのものだ。血だけじゃない。」

「………はあ。」


「今度のイベントが終わったら、バベッジ現族長に挨拶に行く。よろしく頼む。」

「………。」

数回式典やフォーラムなどで顔を合わせたことはあるが、相手の人となりはあまり知らない。親族とも気が付かなかった。その部分の霊性が閉じられていたのだろう。


サダルはソファーに乗り上がり、力ないチコをそっと抱きしめた。



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